29 ばびゅーんばびゅーんw
絵栗鼠。買い物終わったの? って何その大きなぬいぐるみ。
「知らんのか。オキムネ。これは着用することによって、己が正体を隠すのに格好の道具になると同時に、その可愛らしさで周囲の人間をメロメロにする武器なのだっ!」
いや、それを「ぬいぐるみ」と呼ぶこともあるけどね。絵栗鼠が言ってるのは一般的には「着ぐるみ」と呼ぶのだよ。そしてそれはだね。まさしく正真正銘の「ぬいぐるみ」だから、かぶることは出来ないの。中に綿が入っているからね。
「そっ、そうなのかっ?」
そうなのだ。それは周囲の人間をメロメロにするのではなく、持ち主をメロメロにするものなのだ。
「そっ、そうなのかっ? 道理でこの『ぬいぐるみ』。何ともほしかったのだ。そうしたら、ばあちゃんが買ってくれたのだ」
「ふふふ。絵栗鼠ちゃんも女の子だねえ。この可愛らしい『ぬいぐるみ』ほしがるなんて」
前よりは会話がかみ合っている……のかな?
◇◇◇
それにしてもいろいろ買い込んだね。絵栗鼠の巨大ぬいぐるみの他にカートが三つ? ばあちゃん、こんなに買って大丈夫なの?
「ふふふ。うちは男の子ばかりの三兄弟だったからね。昔を思い出しちゃってね」
そう言えば老谷の兄ちゃんたち、全員東京に行っちゃったんだっけ。みんなじいちゃん譲りの見事なマニアになっちゃって、コミケでも老谷三兄弟ってちょっとした顔だそうだし。
中でも真ん中の兄ちゃんの描く二次創作はエロシーンの擬音がもう凄くて……って、読んでませんよ。僕は十五歳ですからね。決してサダヨシがどこからともなく入手した薄い本などは読んでは……ゲフンゲフン。
◇◇◇
「ふふふ。三人とも大人しい子だった割にはたくさん食べてね。懐かしいわ」
はあ、ばあちゃん、なんか嬉しそうだね。
「今日は久々に張り切っちゃおかねえ」
うんうん。それは僕も嬉しいけど、この大量の荷物運ぶの大変じゃない。絵栗鼠の巨大ぬいぐるみもあるし。
「今日は元の家に帰ることにしたから大型タクシーに来てもらおうと思ってんだ。でも、乗り場まで運ぶのがちょっと骨だね」
「ふっ、ふーん」
ここでドヤ顔。ない胸を張る絵栗鼠。
「ばあちゃん任せろっ! Rー1号さん、Rー2号さん。すぐにここまで飛んで来なさい!」
♪じゃんじゃんじゃん じゃんじゃんじゃん ちゃらっちゃっちゃちゃらちゃらちゃちゃー ちゃーちゃらちゃっちゃちゃっ ずんずん ずずんずん
知ってる。知ってるぞ。これはロボットアニメの元祖と言われる作品のオープニングテーマのイントロだ。
ばびゅーんばびゅーん
二人のイケメンが靴底から火を噴きながら文字通り「飛んで」来た。
ああーっ、もうどうしろってえの。
渡辺宙明先生のご冥福をお祈り申し上げます。




