14 わたしはみるだけでおぼえられますしおみずもじょうずにこっぷにつげます
ウェンディは旦那様と一緒に魔法学校に通っていたから幼馴染だと言うのですけれど、旦那様はにっこりじゃないおすましで違うとお返事しました。そんなこと言い出したら、魔法学校に通っていた全員が幼馴染だろうって。幼馴染、難しそうです。旦那様がお小さいころというのもよくわかりません。お小さいと言ってもきっとサミュエル様より大きかったんじゃないかと思うのです。旦那様は大きいですので。
前に旦那様から魔法学校に通ってみたいかと聞かれたとき、私は旦那様から魔法を習うほうがいいと思ったのでお断りしたのですけど、魔法学校は楽しいのでしょうか。
ウェンディにそう聞いてみると、ものすごく楽しかったわよって少し声を上ずらせて教えてくれました。
「アビーちゃんも通えたらきっと楽しかったんじゃないかしらね。まあ、誰でも通えるわけじゃないんだけど」
知ってます。一定以上の魔力量と技量がなければ入学できないと教えられました。私はばっちりだと思っていましたが、元魔王でも駄目なのでしょうか。でも旦那様はもう魔法学校を卒業したはずだから。
「学校にはタバサを連れて行けますか」
「誰それ」
「タバサと旦那様が一緒じゃないと楽しくないです」
旦那様はもうお代わりしたのを半分も食べ終わってるし、ウェンディももうすぐ食べ終わりそうです。残ってるのはシェパーズ・パイがあとちょっとだけで、お代わりするでしょうか。お代わりまだあるでしょうか。ロドニーの方を見るとそっとキャセロールの蓋を開けて中身が見えるようにしてくれました。ロドニーの分をよけても多分まだあります!
「……アビー、ゆっくりでいいからいつものペースで食べなさい」
「でもウェンディもパイをお代わりするので」
「しないわよ!?」
身体が資本って言っていたから旦那様と同じくらい食べるのだと思いましたのに違ったみたいです。
ロドニーがお水をくれたので一口飲みました。ちょっとだけ苦しかったからちょうどよかったです。ウェンディが、んんって小さく喉を整えるように鳴らしました。
「――私はジェラルドと一緒の選抜コースだったから、一般コースのことはわからないけれど。ねえ、ジェラルドは覚えてる?一般コースでも側仕えを連れて入れたんだった?ああ、でもほら同期のあの」
「コースで違うわけないだろう。あれは高位貴族の特権だ。だが妻を通わせる予定はない。あと少佐と呼べ。アビー、俺から教わってるんだから必要ないよな?」
「はい!」
「ジェラルドが……?」
「旦那様がお休みの日は抱っこして教えてくれます」
「ま、まあ、そうね。ジェラルドって意外と面倒見がよくて……え、今抱っこって言った?」
「ハイドンの面倒などみたことはない。クラスだって違ったのに知ったような口をきかんでくれ」
「知ってるわよ!後輩とか同期にだって教えてたじゃない!そりゃあ、私は回復系専攻だから無理だったでしょうけど」
「回復系、治癒魔法とかですか。見たことないです」
「たとえ専攻が一緒でも面倒みることなんぞあり得ない」
治癒魔法は見たことがありません。回復魔法もです。そういう魔法を使う治癒師とか治療師は、お医者様より少なくてドリューウェットにも数人しかいないって聞きました。それも軍を引退した方たちばかりだからもう普段はお仕事していないって。現役の人は軍とか騎士団とか王城でお勤めしているそうです。
魔物にも使える子はいませんから、魔王のときも見たことありませんでした。魔物は死んじゃうときに死んじゃうだけなので。
だからあれはにんげんだけがつかう魔法。
「ウェンディ、私も治癒魔法見たいです」
「ふふっ、私は構わないけど?でも肝心の怪我人もいないし、一応ね?めったに見られるようなものでもないのよ」
「アビー、今度附属医務院に連れて行ってやるから。ハイドンはあまり上手くない」
「じゃあそうします!」
「なっ」
「事実だ。訓練も手を抜いてると噂になってるぞ」
ウェンディは少し口を尖らせて「それでも特別な魔法なことに変わりないんだから」ともごもごしながら言いましたので、コップにお水を注いであげま、あ、こぼれた。
ロドニーが旦那様にお代わりのお代わりを渡しながら素早くテーブルを拭いてくれます。
旦那様はたくさんお食べになるし、ときどき私の口にもいれてくれたりするのですが、それでもいつも私と食べ終わるのは同じくらいなのでずっと一緒に食べていられます。だから今もまだ一緒。二つ目のお花のにんじんを私も食べました。ちっちゃいから一口で食べられます。ウェンディはもう食べ終わったようで、フォークを載せた空のお皿をテーブルに置きました。
「ウェンディ、おなかいっぱいになりましたか。美味しかったですか」
「……ええ、ノエル家の料理人は腕がいいのね」
「うちの料理長はお城で働いていましたので!」
「ふ、ふぅん……」
私は魔王のままアビゲイルの体になっただけだと、ずっと思っていました。だけど魔王が思ったことや考えたことを覚えていないのなら魔王とアビゲイルは違うのではないかと、この間初めて気がついたのです。気にしたことありませんでしたし。
ちっちゃいあの子はなかなか大きくはならなくて、春になって久しぶりに会うといつも冬の前より少し小さくなっていて。
おいもがとれるのは秋ですから、春と夏は魔王が木の実とかを分けてあげていました。
春は魔物も動物もみんなおなかをすかせています。あの子だって同じ。きっとだから魔王は食べ物を分けてあげていた。覚えてませんけど。多分そうだったんじゃないかと思います。だってあの子が村の人間に贈り物をもたせて寄越すようになっても、あの子が森に来なくなっても、魔王はいつもどんぐりや桑の実や苺をちょっと残しておいてたのです。
私は覚えていないはずなのに、何故だかウェンディと一緒にごはんを食べたかったのはきっとそのせい。
ベイクドビーンズの最後の一粒を飲み下して、ちょうどいい温度になったハーブティに口をつけると、旦那様が耳元で囁きました。こしょこしょは楽しくて好き。
「――アビー?気が済んだか?」
「はい!」
なんかちょっと思ったのと違ったのでもういいです!







