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ジャンクバード  作者: ポチ吉


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29/43

警告

「うぉ?」


 一歩踏み込んで、景色の違和感に思わずイチゾーの足が止まった。

 迷宮は異界だ。

 龍穴に、或いは何かの核があれば生まれる迷宮は外とは明らかに違う世界である以上、入って来た外との繋がりが無い場所と言うにも珍しくはない。

 イチゾーだってそのことは知識で知って居るし、マイキー迷宮で経験もしている。

 それでも外から行き成り室内に変わると言うのは中々に驚く。見張りが立っていたら下手をしたら不意打ちで負けていた。「な?」一方のニゾーは迷宮ペンギンだけあって『迷宮』に入ったと言う認識しかないらしく、イチゾーの様に固まることなく、ぽてぽてと歩き、動かないイチゾーに気が付き、どうした? と小首を傾げている。

 そんなニゾーにハンドサインで問題無い、と伝え、AR——アダマンドビートルを構えながら室内(迷宮)に踏み込む。

 正義の傭兵団さんによって、また街道を行く無辜の商人が襲われ、殺された。

 復讐の名を借りた略奪のペースが速くなっている。あまりよろしくない傾向だ。そう判断したカズキは敵の本拠地を探りつつ、略奪の中心にいる大猿を始末することにした。

 そうしてこの迷宮に派遣されたのがイチゾーと言う訳だ。


「……」


 手を伸ばす。天井には届かないが、容易くドア枠の上には触れた。横幅もそこ迄広くない――通常の人類サイズなので、小猿、中猿なら通れるが、大猿は絶対に無理だろう。

 そう思いつつも、所詮は雇われ。潰せと言われた迷宮は潰さないと行けない。

 仕方が無いので、ARに付けたライトで室内を照らしながら、ブーツでフローリングを踏みしめる。室内には右にベッドと左に机とノートPC、それと奥に続く扉が一つ。だけ。

 どうやらワンルームのアパートの一室を繋いで造られた迷宮の様だ。

 こう言うタイプは歩く距離は大したことなくとも、心に来る。幾つの扉を潜れば奥に届くのか? そしてその扉を開く度に先に敵がいないかを警戒する必要があるからだ。


「……」


 腰に下げたウォーハンマー。そちらに持ち替えるべきだろうか? そんな思考。それを首を振って追い出す。室内、それも六畳あるかないかのこのワンルームが続くなら、ARの方が楽だ。角猿が銃器を使えないタイプの敵性亜人(レッドデミ)であることもあり、間合いの有利がある。


「なっ」


 一応、とベッドの布団を剥いでいたニゾーから何も無し、の報告。それを受けながら、置かれたノートPCの電源ボタンを押してみる。反応無し。「……」。音を立てない様に、画面を思い切り後ろに倒す。ばき、と言う音の後、周囲から魔力が集まるのを感じた。本物では無く、ただのオブジェクトだ。

 それを確認して、次の部屋に向かう。

 ニゾーは頭に乗せない。ぽてぽてと歩くその速度がクリアリングしながらの今は丁度良い。

 PCとは違い、布団の方は柔らかく、それ故使われているらしい。それを確認したのは入り口から入って五部屋程進んだ時だった。

 茶色い、角猿の毛。それがベッドに落ちていた。何匹かがここで丸くなって眠って居たらしい。「……」。生活空間。そこに入ったと言うことは何時接敵してもおかしくない。

 そう判断し、先に進む扉に手を当て、すぅー、と息を思い切り吸って、止めた。

 呼吸でブレる身体が邪魔だった。それでも酸素不足で動き出す身体も要らない。十五秒。それがイチゾーに与えられた綺麗な時間(クリーンタイム)だ。手の先の扉、扉の先の空気、空気の中に居るモノ。その動きを振動から拾う。


 ——居るな。


 それも扉の前に。

 それを確認し、ニゾーの頭を人差し指で突き、注意を引く。折角セットしたツンツンヘアーを触られるのが嫌なのか、睨んで来るニゾー。そんな彼にハンドサインで下を指し、突撃の指示を出す。状況を理解したらしいニゾーは軽く右のフリッパーを掲げると、フローリングの床に腹這いになった。


「……」


 そのロケットの発射台としてイチゾーは右足を提供。ブーツにニゾーの足が宛がわれて――

 ペンギンロケット、発射。

 風魔法により一気に加速したニゾーが、戦車装甲すら容易く貫く嘴で扉の下をぶち破り、そのまま一気に飛んで行く。「きっ!」「――ぎっ」と叫び。それを聞きながら、イチゾーも靴裏で押す様に扉を蹴り開けて、中に。

 首を失った二匹の小猿の身体。それが脳からの最後の指令を果たす為か、こちらに駆け寄って来る。頭が無いので、意志は無い。それでも質量が迫っていることには違いはない。体当たりされるのを嫌って、イチゾーは壁に立つ(・・)

 勢いよく、跳ぶ。

 直ぐに出迎えてくれた壁に阻まれながらも、足首と膝で衝撃を吸収しながら、跳んだ勢いを使って壁に当たり続ける(・・・)ことで一秒未満の停止。それで室内の状況を確認する。ニゾーは居ない。先に続く扉に孔が開いている所を見ると、取り敢えず『先』を見に行ったらしい。接敵した以上、この形の迷宮でこれ以上の隠密行動は無理と言う判断だろう。そこに異論は無いので、それで良い。だからイチゾーは目の前の部屋を見る。

 狭いワンルームに残り角猿は三。中は居ない。大は当たり前の様にいない。小のみ。

 そう判断する。

 弾でも殺せる。

 〈硬化〉を込めてあるので、硬いし、魔力も帯びている。だから遠慮なく、イチゾーは引き金を引く。小猿たちが咄嗟の判断でPCデスクを引き倒し、布団を引っ張る。

 薄いベニヤ板では弾丸は止まらず、容易く貫き、一匹を殺す。

 だがそれに対して柔らかい綿の詰まった布団は弾を止められなくても、軌道を逸らすには十分だった。ボボボ、と三点バーストが叩き込まれるが、叫びは上がらず布団が赤く染まることも無い。「ちっ」。やり過ごされた。チッ、と切り替えレバーを指で弾き、三点バーストからフルオートに。弾をケチる場面ではない。雑に、それでも確かに殺すと言う意識で以って布団を撫でる様に掃射。「キィ!」「ウキャ!」と二つの悲鳴。遅れて血が染み出し、布団を赤く染める。

 それを確認して先の扉に弾丸を叩き込むイチゾー。ドアノブ近辺を撃ち抜いてやれば、後は弾の勢いに押される形で扉がゆっくりと開く。


「ぐががががっ!」


 三部屋程先からニゾーの声と、破壊音が聞こえて来た。小猿相手に唸ることはないだろうから、中猿とやり合っているのだろう。

 開いた扉の先では、派手に音を立てるニゾー達の方が気になるのか、それとも中猿に加勢でもしようとしているのか、こちらにケツを向ける小猿が見えた。


「ぐがぁっ!」


 中猿は棍を振り回しているらしい。ボールの様に弾かれたニゾーが床にぶつかる直前で、くるん、と回って着地をすると、怒りに任せて吠えた。その殺気に右腕が反応する。


「……」


 はぁ、と溜息。そのまま、すっ、と横にそれて――思い切り右手を壁に叩きつける。

 骨と中身を潰す音。それに思わず、と先の部屋の小猿たちが振り返る。彼等の目には怒りを露わに、背後から死んだふりからの奇襲をした小猿(仲間)の頭を潰したイチゾーが見えた。


「――キィ」


 余りに余りな力の差に、一匹の小猿の尻尾が足の間に挟まれ、身体が小刻みに震えだす。

 だがイチゾーはそんな彼を一瞥もしない。暴れる中猿も、ニゾーも意識の外だ。赤い怒りが向かうのは――「お前ね(・・・)」——その右腕だ。


「学習を、しろ」


 言いながら二発目。右手を壁に叩きつける。今度は間に挟まる小猿がおらず、白い壁紙を突き破り、中の木版を割って、壁を砕いた。出血。それも右手から。その修復の為に右手の蟲が動き出す。その時、表面に居たのが彼の失敗だった。


やめろ(・・・)


 強い言葉と共に押さえつけられる。普段のモノとは明らかに違うその力加減と、感情に、ぴた、と動きを止め、魔力も止める。


「優しくしてやろうと思ったが止めだ」


 蟲は人の言葉は分からない。長く生きればその限りではないが、イチゾーの右腕の彼は生まれたばかりだから本当に無理だ。

 それでもイチゾーは構わず、蟲に言葉を投げる。


「大人しく見てろや、身体の使い方を教えてやる」


 そう言って、ARを放り投げ、代わりに腰のウォーハンマーを抜き放ち、両手に持つ。

 狭い室内だ。長物ではないとは言え、両手で羽を広げる様に構えてしまえば一気に部屋は狭くなる。まともに振れるかも怪しい。

 それでもイチゾーは八咫烏だ。身体の使い方、手に握ったモノの使い方は卓越している。狭い部屋。それはイチゾーにとっては得意な戦場だった。


「ニゾー!」

「な!?」

「引け」

「ぐが! なっ!」

引け(・・)

「ぐな!」


 クソが、と悪態を吐きながら、ニゾーが大きく跳び退り、手前の部屋に。その際に八つ当たりの様に蹴り飛ばされた小猿が壁の染みになる。

 そんなニゾーに小猿は任せて、イチゾーが最奥の部屋に入る。

 中猿が居た。

 部屋の中央に立ち、棍を構える。狭い部屋。ソレを活かし、得物の長さを活かす。演武。それに近い。嵐の様に勢いよく、決まった型をなぞる。

 それだけで攻防一体の乱舞となる。

 狭い部屋を活かし、長さを活かし、振り抜かれた棍は隙間なく、新しく入って来たイチゾーを叩きのめそうと風を切る。

 逃げ場がない。普通なら。だがイチゾーは八咫烏だ。床面積は確かに狭い。だが表面積(・・・)はそこまで狭くない。

 壱足・槍天から連ねての弐足・円天。壁に貼り付く力を蹴り足に、低く、低く、壁に貼り付く様にして回って、回って、一瞬で中猿の背後に回る。

 不意を突いた。だが中猿は驚くよりも早く、ノールックで棍の引きに合わせる様にしてイチゾーの顔面を打ち抜く突きを放って来た。

 良い位置だ。

 だってイチゾーが打ち易い様に調整してやったのだから。

 とん、と軽い音。身体操作の極限、参足・鈍天。

 蟲に好きにさせていたら出来ないソレをイチゾーが踏む。

 顔面を捕らえるはずだった渾身の突きが、踏みつけられ、その重さが無くなると同時に横にイチゾーの姿が現れる。「!」。息のかかる距離。そこまで近づかれた恐怖に中猿が慌てて横薙ぎに棍を振る。空振り。居たはずのイチゾーは、とん、と言う音だけを残して、消えて、中猿の背後に現れる。慌てて放った横薙ぎは次につながるはずもなく、隙だらけ。


「どうしてもはしゃぎたけりゃな、ここまで崩してからはしゃげ」


 おら、良いぞ、と言うイチゾーの言葉に、かちっ! と良い返事。

 魔力の増強に合わせる様に強化された右の一振りが中猿の頭を吹き飛ばし、壁に叩きつけた。


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― 新着の感想 ―
まだまだ蟲クンも若いんやな
腕ん中にまでじゃじゃ馬がいたんじゃやってらんねえもんな これで格付けは済んだか?
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