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ジャンクバード  作者: ポチ吉


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15/43

とん

 頭上からの振り下ろしを、軽く後ろに飛んで避ける。

 鼻先掠める紙一重。避け損なうとどうなるかは案内猿が説明してくれた。骨すら残らず、影になる。マイキー。防御に優れた陸竜(アモス)を一撃で潰して見せた破壊力は、はったりでも何でも無い。「……」。ニゾーさん、アレに体当たりしといて無事だったってマジですか?

 そんな頼りになる相棒に任せておいたので、アリサ達は大丈夫だろう。

 だからイチゾーは肩を柄でとんとん叩きながらゆっくりと大猿を中心に歩く。

 先の一撃を躱してみせたのと、案内猿からの情報。それと、今見せている余裕から大猿が軽く警戒してくれているが――当たり前だが余裕はない。

 真正面からやったら大猿どころか周りの猿にすら負けるのがイチゾーだ。

 それをどうにか誤魔化しているだけ。

 ぶっちゃけ周りの猿が一斉に石を投げてくるだけで詰む。

 多対一なんてそんなもんだ。

 だからイチゾーはそう成らない様に立ちまわる。


「……」


 ――いや、立ち回るしかない。

 だから両手の力を抜いて、握ったウォーハンマーの重さに任せて、だらん、と肩を落とした。

 だから足を肩幅に開いて、腹を膨らませる様に大きく息を吸った。

 だから――


「八咫式歩法術、参足(さんそく)鈍天(どんてん)


 やることをしっかりと口にだした。

 とん。と音が響き、イチゾーが大猿の左に現れる。

 とん。と音が響き、今度は右に。

 とん。と音が響き、大猿の視界から消えた。

 慌てて周囲を見渡す大猿。右後方に居るイチゾーを見付け、驚きから跳ねて距離を取り、両手の棍棒を強く握る。

 とん。また音。やはり消えるイチゾー。大猿は再び周囲を見渡す。いない。「――!」。不意に、ぞわ、と背中に奔る悪寒。有り得ない(・・・・・)。イチゾーは大猿の真下、股の間に立っていた。

 人間がゴキブリを潰す様に、その小さなイキモノに対しては過剰なまでの全力スイング。半狂乱になった大猿の棍棒が大地を揺らして――

 とん。音が響いて、振り下ろした棍棒の先にイチゾーが現れる。

 為されているのは極限領域の身体操作からなる加速(・・)減速(・・)

 やっていることは、ゼロから百に。百からゼロへ。そんな単なる加速と減速だ。ただし、その間を一切造らないが故に、為されるのは消えて、現れる様に見える絶技。

 壱足・槍天を『天』、弐足・円天を『地』とするならば『人』の歩法。


 とん/音/右/とん/音/左/とん/音/左


 とん、とん、とんとん、とんとんとん。

 音が鳴る度に点滅する様にイチゾーの姿が消えて、現れて、また消える。それを目で追える猿はこの場に一匹も居なかった。大猿もだ。慌てて棍棒を振った先にイチゾーの姿は無く、代わりの様に仲間の潰れた死体だけがある。

 とん、とん、とんとん、とんとんとん、と鳴って――


 とん/背後


「――うらぁ!」


 刹那の切り替え。犬歯剥き出しに、殺意剥き出しに、イチゾーが一気に地を蹴り上飛ばし、そのがら空きの後頭部に両のウォーハンマーを叩きつける。

 音が響いた。殺気も剥き出した。声も出した。だから大猿は防げた。防ぐ必要のないその一撃。位階(レベル)零のイチゾーの一撃を、咄嗟に棍棒から手を離して防御した。


「――へぇ?」


 防がれ、落下するイチゾー。そのイチゾーと大猿の眼が合う。「キ」。思わず大猿の口から漏れ出たのはそんな音。

 笑っていた。笑っていた。嗤っていた。

 犬歯を剥き出しに、興奮から瞳孔を開き気味に、必死で防御した大猿を見て――嗤っていた。


「ーーウゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 誇り(プライド)

 群れの長であると言うソレがイチゾーの不気味さに対する恐怖よりも、馬鹿にされたことに対する怒りを強くする。

 吼えて、棍棒を振り回す。嵐の様だ。木々が圧し折れ、巻き込まれた仲間の悲鳴が上がる。大猿自身の咆哮もあり、耳は殆ど外の音を拾わない。そのはずだ。そのはずなのに――


 ――とん。


 音が耳に響き、イチゾーの姿が消える。

 慌てて周囲を見渡す大猿。それで漸く深い森らしい静かな夜が戻って来る。

 耳が痛くなる程の静寂。

 大猿が暴れたので、虫の声一つ上がらない水面の様な静かさ。


 ――来ない?


 外の静かさとは裏腹に、鳴り響く心音の煩さの中に居た大猿の中にそんな疑問が浮かぶ。「……」。浮かんで、思い返す。あの毛無しは『足止め』と言っていた。それならば、仲間を追ったのだろう。そう思い。無意識に後頭部を守っていた左手を退かし――


「ゥキャ!」


 小猿の様な鳴き声を上げた。衝撃が来た。退かそうとした左手に。今のはわざとだ。絶対にわざとだ。わざと自分が退かすタイミングで手を打ってきたのだ。その証拠に――


「ヘェイ? どうした? どうしたどうしたどうしたぁ? 良くねぇぜ? タイムも取らずに休憩はよォ。ダメだろー? 俺と遊んでくれなきゃ? ダメだろー? 油断しちゃぁよ?」


 うけけ、と嗤っている。

 嗤うイチゾーに、右の棍棒が振られる。大猿にとっては屈辱的なことに、次の音はその棍棒の上から聞こえて来た。

 とん。

 またイチゾーが夜の森に点滅する。

 とん、とん、とんとん、とんとんとん、と鳴って――

 見失うと後頭部に打撃がくる。ダメージは無い。音はある。恐怖は――ある。

 幽霊の様だった。

 死んでいるので、攻撃は当たらないし、何も出来ない。

 死んでいるので、怖がらせるしか出来ない。

 圧倒的に格下のイチゾーは、そうして大猿を恐怖で縛る。

 とん、とん、とんとん、とんとんとん、と鳴って――


「いやー……無理だわ、アレ」


 ビビらせるだけビビらせて、超こえーよ、と逃げ出した。












 道ではなく、最短距離を行く。

 薄っすらと空が白み、森の木々の間を縫うように光が差し込む深い森。八咫烏の源流が忍だと言うイチヒコの言葉を証明する様に、イチゾーはそんな森を跳んでいた。

 八咫烏にとって深い森は障害では無く、加速装置の様なモノだ。

 高さと言うエネルギーを使い、落ちる様に前に飛び、高度が下がれば撓る枝を踏みつけ、跳ぶ。確実にイチゾーよりも上である大猿にも出来ない技術だ。


「……?」


 その八咫烏の技術を使い、流れる様に進むイチゾーだが、時折り首を傾げて落ちる途中に足首を解していたりした。どうにも身体の動きが脳とズレる。「……」。熱あんのかな?

 丁度道に出たこともあり、デコに手を当てる。ちょっと良く分かんなかった。ちょっと良く分かんなかったってことは平熱だろう。そう結論付け、ポケットからパクったブロック食糧を取り出し、齧る。「……」。これも妙だ。

 何だかやたらと腹が減る。飲み込む様にして一箱を食べ、軽く水で口を湿らす。


「ニゾーは……まだ通ってねぇか」


 そうしてから道を確認。

 頭の良いニゾーが木の枝を引き摺りながら進んでいる様で、これまでの道には痕があった。それが無いので、今の森の中で追い抜いたようだ。


 ――来るまでやすめンなー。


 ラッキーと、道の端に腰を下ろし。「?」。その思考のおかしさにイチゾーは再び首を傾げた。

 この程度で疲れることは無いはずなのに、と。








 蟲憑きは身体能力も向上する。

 だからお嬢様のアリサでもレオを担いで結構な速度で走ることが出来る。


「なん……で……君が、うぉぇ――前に居るんだ?」


 お嬢様らしくなく、吐きそうに成りながらジト目でそんな言葉。

 向かった先には道端に座ってブロック食糧を齧っているイチゾーが居た。


「ぐあ!」

「――」


 口に入っているからだろう。ラファに乗って、よっ! と拾った木の枝を掲げて挨拶をするニゾーに無言で手を挙げている。元気そうだ。素晴らしい。「……」何でこの人元気なの?

 ちょっと良く分からなかったが、アリサには自分が世間知らずだと言う自覚があるので、『そう言うイキモノ』と処理して置いた。

 今の状況で変なこと考えたくないと言うのが本音だ。

「あの大猿は……どうなったんだい?」

 その声には『もしかしたら倒したのでは?』と言う淡い期待が隠れていたが――


「逃げて来たから知らんです」


 流石にそんなに旨い話は無いようだった。「……」。いや、逃げ切れるのも大概だな? 大分おかしいな?


「? ドナは?」

「ぐーな、ぐあー、なっ」

「そか。早く迎え来てくれると助かんな……」


 連絡役として先に行っている。そんなニゾーの言葉にイチゾーが返した言葉。その言葉に少し違和感を覚えたニゾーが軽く小首を傾げる。

 何と言うか――あまりらしくない言葉だった。アリサ()レオ()を担がせたままなのも微妙におかしい。


「ぐあぐ?」

「……」


 大丈夫? と言うニゾーの言葉にも、軽く手を挙げるだけ。「……」。大分拙そうだ。そう判断し、持っていた木の枝を放り投げる。

 そうして再び走り出す。次にイチゾーの異変に気が付いたのはアリサだった。ブロック食糧を食べて、そのゴミをポイ捨てする。それをニゾーとラファに回収させる。そのことに始めは眉を潜めていたのだが――どうにもおかしい。

 本人はどうやらちゃんとポケットにゴミを入れているつもりの様なのだ。

 それが出来ておらず、すか、とポケットに入るはずだったゴミが落ちて行く。

 食べる量も妙だ。ブロック食糧は一箱で一食だ。圧縮されたカロリーは暴力的で、確かに育ちざかりのイチゾーなら二箱食べる位なら訳は無いだろうが、既にそう言う量では無かった。

 朦朧とした意識。異常な食欲。その症状に、ふとアリサは思い至った。

 場合によってはイチゾーも自分が担いだ方が良いかもしれない。


「イチゾーくん、君もしかして――位階(レベル)向上(アップ)か?」

「……卵孵すにゃ魔力汚染地域に行く以外にも、魔物殺しまくるってのもあったよな?」


 普通なら無理な俗説だ。試す人もあまりいない。

 だって魔物に勝てないから人類は蟲憑きになるのだ。それなのに蟲憑きになる為に魔物を殺すでは矛盾が過ぎる。

 だがイチゾーは角猿を何匹も殺した。ラファを、ニゾーを、大猿を使って(・・・)だが何匹か殺した。


「肩を貸そう。済まないが、それで何とか――」

「あれって、アンタんとこの車?」


 ふい、とイチゾーが指差す方向。道の先には車があった。

 その装甲はアリサには見覚えがあった。捨ヶ原に唯一ある装甲トラックだ。あちら側から「ウォン!」と犬の吼え声が聞こえ、それにニゾーを乗せたラファが「ォン!」と応じる。


「そか迎えか……」


 既に犬の吼え声と人の言葉の区別もついていないのだろう。イチゾーは――


「ニゾー、わりぃ。後、頼む」


 最期にそう言うとニゾーの返事を待たずに倒れた。


攻撃が通らないなら……ビビらせるしかないよなぁ!!


それはそれとしてまだ体調悪いので、コメント返しはまたにさせて下さい

ペンギン語もお休みです。

レビューまで頂いたのに申し訳ねぇ。

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― 新着の感想 ―
今回のヒロインルートはいくつあるのかな?楽しみにしてます! インフルエンザ流行ってますね。 お身体にお気をつけください。 沸かしたお湯を保温水筒に入れて枕元に置いておき、ちょこちょこ飲むようにすると良…
いつも楽しみにしています。体を大事にお休みなさってください。
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