ひなどりは拾われた その10
もう少し僕が割って入るのが遅れていたらロッコは背中から串刺しになっていたところだ。
続けて剣をひるがえして、こわばったままのハーマンの手から剣を弾き飛ばす。
「ごめんよ、どうやら僕のもめごとに君を巻き込んでしまったようだね」
ロッコを縛っていたロープを切ってあげる。
「君の勇気には感心したよ。僕がギルド長ならいますぐ君に三ツ星をあげているところだよ。四つ星でもいい」
「お前……」ロッコは呆けたような顔をしている。
シャロンが青ざめた顔で僕をにらみつけてくる。
「貴様、一体どうやって……あの洞窟にはほかに出口なんて……」
「そこにあるじゃないですか」
僕が指差した先、大岩の横に小さな穴が空いている。もちろん、僕が空けたものだ。
「バカな、あんな穴、いつのまに……」
シャロンは腰を抜かしそうなくらいびっくりしているけれど、種を明かせば、全部『贈り物』のおかげだ。
暗闇でもらんらんと光る三つ目は、僕にとってかっこうの目印だ。おそってきた三つ目オオカミをおにごっこの方の『贈り物』で気絶させた。
それからかくれんぼの方の『贈り物』を使いながら、剣で穴を空けていく。僕のアダマンタイト製の剣は、普通の岩なんかバターみたいに切り取ることができる。
『贈り物』を使っている間は僕が何をしていても気づかれることはない。けっこう大きな音がしたけれど、みんな僕には無関心だった。
ようやく通れそうな穴をあけて外へ出た時には、ロッコが縛られていた。それから救出するタイミングをうかがっていたのだけれど、急に殺そうとしたのであわてて姿を現したというわけだ。
姿を消したまま全員倒すという手も考えたけれど、ここは視界が開けすぎていた。目の前で仲間がいきなり倒れていったら僕の力に気づかれる恐れがある。まったく、不便なものだ。
「いきなり真っ暗になるものですからびっくりしましたよ。まあ、おかげで証拠も見つけられましたけれど」
そう言いながらカバンから魔物用の首輪を取り出す。三つ目オオカミが付けていたものだ。シャロンが持っているものと同じ首輪を野生の三つ目オオカミがしていただけでも証拠になるはずだ。首輪を詳しく調べればもっと確かな証拠が見つかるかもしれない。
「こいつ……何なんだよ。魔法の杖だけの子供じゃなかったのかよ」
斥候役の男が腰を低く落としながらナイフを構える。
「そいつは思い込みだよ」
僕はオトナだからね。
「油断するなといったはずだぞ、ワトキン」シャロンが僕をにらんだまま剣を抜く。
「見た目であなどるとひどい目にあうぞ。腕前は見たとおりだ。取り囲んで確実に殺せ」
「わ、わかりました」
シャロンたちは素早く僕とロッコを取り囲む。このあたりの連携は見事なものだ。
「僕はさっぱりわかりませんよ」僕はうんざりって感じで言った。
「なぜ、こんなおおげさなマネを? 僕の命が狙いならいくらでも方法があると思いますけど。毒を盛るとか」
「町中でやれば衛兵がうるさいからな。おかしな死に方をすれば、あの衛兵隊長がしゃしゃり出てくる。山の中ならいくらでも言い訳はつく」
「どうしてここまで恨まれなくてはいけないんでしょうか。僕、何かしましたか?」
「恨みはない。恨みはないが、仕方がないんだ。お前に生きていてもらっては困るのでな」
シャロンさんの顔には悲壮感が漂っている。やりたくないけれど、仕方がないというあきらめが顔に浮かんでいた。
「それってどういう……」
「バカめ」
いつの間にか、剣を拾ってきたらしい。ハーマンが後ろから切りかかってきた。僕は振り返らず、剣だけをひょいと後ろに払う。鋼の折れる手ごたえが柄を通して伝わってきた。
振り返るとハーマンは根元から折られた剣を信じられないって顔で見ている。僕はマントをひるがえしながらその懐に飛び込み、あごを横から殴り飛ばす。申し訳ないけれど、手袋をしたままだから『贈り物』で気絶させる訳にはいかない。ハーマンは白目をむいて倒れる。体をふるわせたまま起き上がる気配はない。
ジェフおじさんに聞いた通りだ。あごをこんな感じで殴ると、気絶させやすいそうだ。実際に試すのは初めてだけれど、うまくいってよかった。
「やれ!」
僕が手を出したのをチャンスと見たらしくシャロンが腕を上げる。その瞬間、森の中から弦を弾く音がした。僕が横っ飛びにかわしたところに鋭い矢が何本も飛んできた。
どうやら伏兵という奴を忍ばせているようだ。おそらく、今回不参加の予定だった『氷の大蛇』の仲間だろう。
続いて切りかかってきたのは、ワトキンとかいう斥候役の男だ。その横から一呼吸おいて『氷の大蛇』の面々が向かって来る。体ごとぶつかって僕の動きを封じるつもりのようだ。僕は背を向けて逃げに入る。
「バカ、何やってるんだよ!」
ロッコの叱りつける声がした。
「仕方ないんだよ」
立ち止まっていたら弓矢のいい的だ。
走り回っていると、背の高い男が正面に立ちはだかる。雄たけびを上げながら長剣で切りかかってきた。切っ先が届く手前で僕はしゃがみこみ、足から地面を滑る。そのまま男の横を通り抜け、一番奥にいたシャロン目がけて走りこむ。うろたえるシャロンが剣を振り上げるより早く、手首ごと持っていた『虹の杖』を蹴り上げる。
「しまった!」
シャロンの手から離れた『虹の杖』を空中でつかみ取り、着地と同時に杖に込められた魔法を開放する。
「『麻痺』」
僕の合図で杖から白い電光がほとばしる。細いイカズチはジグザグに走りながら『氷の大蛇』の面々に降りかかった。
男たちの体が淡く光る。はじけるような音と焦げた匂いがした後、『氷の大蛇』の男たちがその場に崩れ落ちた。
ほっと息をつく間もなく、空気を裂いて矢が飛んできた。ぴょんとウサギのように飛び跳ねながら飛んできた位置を確かめる。さっきとは違う場所からだ。どうやら矢を射るごとに移動しているらしい。気配は三つ。正確な位置をつかませないつもりだろうけれど、問題ない。
「僕はかくれんぼでは村一番だからね」
ジャンプしながら移動して、着地したのはロッコの側だ。
「お、おい……」
「動かないでね」ロッコの肩に手を置き、逃げないようにお願いする。
「まさか、ロッコを盾にすれば矢を射かけられないとでも思っているのか」
シャロンが冷笑する。
「あなたたちの下手な矢にロッコが間違って当たらないようにするためですよ」
おおげさに肩をすくめて見せたとたん、銀色の光が一直線に飛来する。
そいつを待っていたんだ。
「『大盾』」
僕たちの前に現れた光の盾が矢を全部弾き落とす。
森の奥から泡食ったような気配がした。僕は矢の飛んできた方角に狙いを定める。
「『水流』」
冷たい水がまるで糸のように細く鋭く、森の奥へと伸びていく。
悲鳴が上がった。
水をかぶって動きの止まったところに向かって一気に駆け寄る。
「『麻痺』」
もう一度放った電光がやぶの奥や木の上へと吸い込まれていく。
森の奥でばたばたと倒れる音が三つ続けて響いた。
立っているのは僕とロッコ、そして『氷の大蛇』唯一の女性であるシャロンだ。
僕は倒れているハーマンの懐に手を伸ばす。案の定、壊れたペンダントが顔をのぞかせる。やっぱりだ。あの二人組を裏から操っていたのは、シャロンたち『氷の大蛇』だったんだな。僕を山奥で始末しようと思ったのも、既に町中で失敗していたせいもあるのだろう。
よく見ればみんなペンダントを二つ付けていた。一つだと失敗したから二つ、ということなんだろう。『痺れ』を防ぐマジックアイテムすら砕いてしまう虹の杖がすごいのか、二つ付けても役に立たないペンダントがもろいのか。
「さて、残ったのはあなた一人です。観念してもらいましょうか」
「なるほどな」とシャロンさんが感心したようにつぶやいた。
「どうやら君は想像以上に隠し玉を持っていたようだ。恐れ入ったよ」
言葉とは裏腹に、口調も態度も全然恐れ入ってないようだった。
「だがな、隠し玉を持っているのはお前だけではない」
ぐらりと地面が揺れる音がした。
「疑問に思わなかったのか? 洞窟をふさいでいた大岩をどこから運んできたか」
洞窟の大岩がふるえたかと思った途端、腕や足が生えた。ごつごつとした岩でできた、泥人形のような雑な作りではあるが、間違いなく手足だった。
大岩は立ち上がると大ザルのように両腕を上げて、吠えた。四角い頭が突き出てきた。
気が付けば岩石の巨人が僕たちの前に現れていた。
「さあいけ、ロックゴーレム! そいつらを踏みつぶせ」
ロックゴーレムが腕を伸ばし、のしのしと僕に迫ってきた。
やばいぞ、これは。
僕は背を向けて走り出す。気を失っている『氷の大蛇』の男たちの首根っこをひっつかみ、洞窟の方に放り投げる。
「こんなところで寝てたら踏まれちゃうよ!」
逃げ回りながら気絶する人たちをぽんぽんと放り投げていく。こんなことならもっと安全なところに引き寄せてから気絶させるんだった。
ひととおり安全なところへ放り投げたのを確認した後、向きを変えてもう一度駆け出す。行く先はロッコのところだ。
「お、おい?」
うろたえた顔のロッコの首根っこをつかむと、虹の杖を掲げ『瞬間移動』で移動する。
僕とロッコは、衛兵さんの詰所の前に来た。
「え、あ、ここは?」
「すみません、リオです。トバイアスさんはいらっしゃいますか?」
わけのわからない顔をしたロッコに悪いけれど、事情を説明しているヒマはない。詰所の扉をどんどん叩いていると、中からトバイアスさんが出てきた。
「何だ、一体……」
「すみません、詳しい事情は後で話します。彼を預かってください」
ロッコの背中をトバイアスさんの方に押す。あのまま戦っていたら巻き添えにしてしまうかもしれない。
安全な場所に避難させておくのが一番だ。
「『氷の大蛇』の犯罪の証人です」
そう言い残して僕はもう一度『瞬間移動』を使い、シャロンのいる山奥に戻った。
「お待たせしました」
僕の姿を見て、シャロンは意外そうな顔をした。
「何故、戻ってきた?」
「このまま放っておくわけにもいきませんので」
衛兵さんと協力して『氷の大蛇』を捕まえようとしても魔物を率いるシャロンを野放しにしては大勢ケガ人が出る。
食い止められるのは僕だけだ。
「そうか……」シャロンは少しだけ後ろめたそうな目をしたけれど、すぐに僕を指さし、大声で叫んだ。「やれ、ロックゴーレム!」
僕を目がけて岩の巨人が再び迫ってくる。大岩そのものの拳を振り上げ、僕を押しつぶそうとする。
僕が飛び下がると同時に巨大な柱のような腕が眼前で大地に突き刺さる。
ゆっくりと拳を引っこ抜くと、地面にすり鉢状の穴ができている。あんなの食らったらぺしゃんこだ。
でも動きが鈍い分、よけるのは簡単だ。
そう思っていると、森の奥からたくさんの黒い影が飛び出してた。三つ目オオカミだ。全部で七匹。別の群れを森に潜ませていたのか。
三つ目オオカミはほえながら大きな口を開け、飛び掛かってきた。僕は虹の杖でオオカミの白い牙を受け止める。動きの止まった隙をついて残りのオオカミが牙をむく。
「イノシシの骨でもかじってろ!」
足にかみつこうとしてきた奴を蹴飛ばし、ひじで叩き落とすけれど、すぐに復活して僕に飛び掛かってくる。真正面のオオカミを突き飛ばし、体を向き直ってかわしながら距離を取ろうとした時、僕の頭の上に影が落ちる。
そいつの正体が何なのか考えるより早く、思い切り飛び下がる。一瞬遅れて、ロックゴーレムの拳がまた地面をへこませた。
シャロンの顔がにやりとゆがむ。
「わざわざ死ににもどってきてくれて礼を言う。せめてもの情けだ。死に方を選ぶといい。オオカミに食われるか、ロックゴーレムにつぶされるか」
「あの……」
なるべく平然と言おうと思ったけれど、がっかりした口調を隠せなかった。
「あんまり悪人の芝居みたいな顔はしない方がいい。美人が台無しです」
「まだ余裕がありそうだな。なら、こいつはどうだ?」
シャロンが指を鳴らす。
羽ばたきが聞こえた。見上げると、細長い首をした竜が僕の頭上をぐるぐると回っていた。
大きさは家ほどもあるだろう。赤黒い鱗に覆われ、両腕は長いものの木の枝のように細く、足も小さい。代わりに脇の辺りに薄い膜のようなものがぴんと張ってあり、そいつで風を受けて飛んでいるように見えた。
翼竜……ワイバーンだ。
「私のとっておきだ」
シャロンが誇らしそうに空を飛ぶ使い魔を見上げる。ワイバーンは洞窟の上あたりに着地して僕たちを見下ろしている。
広場には相変わらずゴーレム一体に、三つ目オオカミが七匹。
「なるほど、うまくできているなあ」
動きの速い三つ目オオカミで動きを止め、ゴーレムの一撃でとどめを刺す。上にはワイバーンが見張っている。ジャンプすればあの牙でぱくりだ。
「さて、いくら貴様が剣の達人とはいえ、こいつらを全部相手にできるか?」
「僕からも聞いていいですか?」
僕は言った。
「この前、あのおじさんの牧場をおそったのは、あなたの三つ目オオカミですよね」
「そうだ」
「話では何十頭もいたそうですね。それ全部あなたが飼っていたんですか」
「隠れて育てるのには苦労したよ。それがどうした?」
「自分の育てた魔物を自分で悪者にした挙句に殺すんですか」
「たいしたことはない。家畜と同じだ」
シャロンはふてぶてしい顔を作った。
「あの男とて牛や豚を最後は殺して肉にするために飼っていた。それともお前は肉を食べたことはないのか?」
「あのおじさんは自分の育てた牛で誰かをおそえなんて命令はしないと思いますけどね」
自分で飼っていた魔物で罪もない人たちをおそわせて、しかも自分が正義の味方のようにふるまうなんて、厚かましいにもほどがある。
自分たちの利益のために何年もこの町の人たちをだまし続けていたことが正義になるわけがない。
そう、続けていたんだ。
だからこそ、わからないことがある。
どうして僕をおそわせたんだろう。しかも魔物を使ってまで。リスクが大きすぎる。ばれたら身の破滅だ。事実そうなりつつある。
僕がきらいなら町から追い出せばいい。第一、あの短いやり取りで殺したいほど憎まれるとは、僕の常識からいってちょいと考えにくい。
「ここまでして僕を殺したい理由ってなんですか? いい加減聞かせてくれてもいいんじゃないですか。聞いているのは僕とあなただけです」
シャロンは一瞬、ためらうようなそぶりを見せた。目を閉じ、考え込むように口元に手を当てる。
「四つ目オオカミだ」
僕の脳裏にソールスベリーに来る前に出会った、四つ目オオカミの姿がよぎった。
「三つ目オオカミもそろそろ限界でな。隊商の護衛も腕の立つのを選んでいる。返り討ちにあうことも多くなった。だから、新しく四つ目オオカミをひそかに育てることにした。ところが、裏の商人から買い付けてようやく手に入れた四つ目オオカミのメスが数日前に逃げ出した。そこで転がっているワトキンに探させていたら、報告を受けた。『最後に見失った場所の近くで、白いマントを付けた子供が四つ目オオカミに付けたはずの首輪を持っていた』とな」
あの首輪は……そして四ツ目オオカミはシャロンの魔物だったのか。
「最初に会った時はその子供がお前だとは気付かなかったがな。あとで知って驚いたよ。もし、その首輪が衛兵どもの手に渡れば少々まずいことになる」
「だから、僕を殺そうと?」
「そうだ」
「首輪なら返しますよ」まだカバンの中に入れてある。
「そうはいかん。ここまで来たらお前の口をふさぐ以外に方法はない」
勝手な話だ。
「そうやって、コンスタンスさんも殺したんですか?」
「何の話だ?」
困惑した雰囲気に僕はおや、と心の中で声を出す。
「一月ほど前に切り殺された、旅の冒険者の女性ですよ。あなたが殺したんじゃないんですか?」
「……仕方なかった」
変な間があった。目を泳がせながら考え考え言葉を紡いているように見えた。
「色々不都合なものを見られてしまったのでな」
「そうですか、よくわかりました」
シャロンはコンスタンスさん殺しは知らなかった。
だとしたら、誰が殺したんだろう。シャロン以外の『氷の大蛇』の誰かか、全く無関係な誰かが殺めたのか。だとしたらどうしてシャロンは自分が罪を被るようなことを言ったのか?
「気がすんだか。なら今度は私からの質問だ。四つ目オオカミはどこにやった?」
「やった、とは?」
「群れならいざ知らず、はぐれものの一匹くらいお前ならどうとでもなるだろう。言え。どこに埋めた?」
「殺してませんよ」僕は眉をひそめた。「そんなことしたらおなかの子供も死んじゃうじゃないですか」
あの四つ目オオカミが妊娠していることはすぐにわかった。おなかも大きかったしね。
「それに関しては僕からもお聞きしたいのですが、オスの四つ目オオカミはどうなったんですか?」
商人から買い付けたのにメス一匹だけというのは不自然だ。増やしたいのなら普通はつがいで買うはずだ。
「殺したよ」
僕は目をみはった。
「術を掛けた時にひどく暴れてな、やむを得なかった」
ひどいことをする。僕はいやな気持になった。
「もういいだろう。メスの四つ目オオカミはどこへやった」
返事なんかしたくなかったけれど、さっき教えてもらったし、それに答えても問題はない。
「あのオオカミなら山奥に逃がしました」
「どこの山だ」
「裏山です」
「どこの裏山だ」
「裏山は裏山ですよ」
「ふざけているのか?」シャロンの声に苛立ちが混ざる。
「そういわれても、ちゃんとした名前を知らないんですよ。昔っからみんなも裏山とだけ呼んでいましたので」
そう言って僕は虹の杖をぽんと手のひらでたたく。
「アップルガース村の裏山です。この杖でちょちょいと運びまして」
アップルガースの裏山には四つ目オオカミが何匹も住んでいる。四つ目オオカミのエサになる鹿やウサギもいれば、天敵である一つ目熊もいる。数が増えすぎることも減り過ぎることもない。運が良ければ、生き残れるだろう。あの辺には村の人たちも寄り付かないし、第一、四つ目オオカミなんかにどうこうされる人たちじゃあない。
「バケモノに食われないといいがな」
僕としては良かれと思ってやったことだ。あとは運次第だろう。
「まあいい。四つ目オオカミならまた手に入れればすむ話だ。お前を殺した後でゆっくり考えることにしよう」
「そんなにすごんだって怖くもなんともありませんよ」
ジェフおじさん一人を相手にする方が絶対に怖い。『虹の杖』があっても勝てる気がしない。
「貴様に冒険者としての礼儀を教えてやろう」
強気な言葉とは裏腹に、シャロンの顔には焦りが隠せない。ちらちらと『虹の杖』を見ている。気になるようだ。そりゃそうか。『瞬間移動』で逃げられたら、おしまいだもんな。
「そんなに気になるようならしまっておきましょうか」
僕は虹の杖をカバンの『裏地』にしまいこむ。細長い杖がカバンの中に入ったので、ちょっと驚いたようだけれどすぐに憎々しげに僕をにらんできた。
「なめているのか?」
「ちょうどいいハンデです」僕は肩をすくめた。「魔物の陰に隠れて命令しているだけの弱虫には、僕の杖はもったいない」
こんな美人の女の人に悪口を言うなんて僕も人が悪くなったものだ。村を出る前には思いもしなかった。
「なら、見せてもらおうか」
お読みいただきありがとうございました。
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次回は11月15日午前0時頃に開始の予定です。




