誰がための…… その19
今回は短めです。
最後に重要なお知らせがあります。
『サイドワインダー号』に戻って来ると、ジルさんが待ちかねたように近付いてきた。
「あの子は……うまく乗れたのかい?」
「……ええ、お母さんとも再会できましたし、シムドーラ王国行きの船にも乗れました」
僕の反応に何かしら勘づいたのだろう。ジルさんが浮かない顔をする。
「どうしたんだい? ずいぶん落ち込んでいるみたいだけれど」
「そんなことありませんよ」
気持ちも落ち着いたので、笑ってごまかすことが出来た。
「ただ、別れがちょっと、悲しいな、と思っただけで」
「そうかい」
ジルさんは僕の頭をくしゃくしゃと、引っかき回すように撫でた。
「ま、元気だしな。またいい子と出会えるさ」
「ありがとうございます」
髪の毛を手ぐしで整えながらお礼を言っておく。
「あといくら年下といってもこういう態度はオトナにすべきではありませんよ」
「はいはい、お疲れ様。ジェントルマン」
と、そこにオーヴィルが湯気の立つコップを持って来た。このかぐわしいにおいは……。
「もしかして、たんぽぽコーヒーですか?」
「こいつがないと昼も夜もあけないんだろ」
ずい、と僕に差し出す。
「わざわざ作ってやったんだ。感謝しろよ」
「どうもありがとう。僕のことじゃないけど。まあ、そういう人もいるってことで」
コップを受け取ると両手で持ちながらすする。うえっ。
「……まあまあかな」
苦みばかりでコクというものがない。きっと焙煎し過ぎたのだろう。口の中に炭を水に溶かしたような苦みが広がる。
ただせっかく作ってくれたのだから、悪くは言うつもりはない。
僕にだってこれくらいの気遣いはできるんだ。
夕陽が西の海に沈みつつある。東の空はもう群青色に塗り替えられている。
僕の頭の中で、消えゆく日の光を浴びながら南へ向かって一隻の船が進んでいく。
今、ブレンダがどんな顔をしているのか想像しようとしたけれど、うまく形にならなかった。
締め付けられる胸の痛みをごまかしたくて、もう一度苦いばかりのたんぽぽコーヒーをすすった。
了
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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【休載のお知らせ】
いつも本作をお読みいただきありがとうございます。
楽しみにしておられる読者様には申し訳ありませんが、
都合により当分の間、更新を停止させていただきます。
次回の更新は6月ごろの予定です。
本当はあと一話は投稿するつもりだったのですが、今回のクライマックスのくだりがどうしても思うように書けず、時間切れとなってしまいました。
誠に申し訳ありません。




