15.決着
「シアを返してよ!!」
捕らわれたシアを助けようと、わたし達は一斉に女神ヘレネに立ち向かっていく。
武器なんて持ってないけど、拳ひとつで十分よ。絶対殴ってやるんだから。
大神官は魔法でわたしたちを援護してくれた。体が軽くなって素早く動けるわ。
天高く跳び上がった猫神様が、女神の後ろに回り込んで体当たりをした。
『大聖女のために力を使い果たした猫神など、わらわの敵ではないわ!』
「シャーッ!!」
猫神様がシアを抱えていない方の腕に鋭い牙で噛み付くと、女神が一瞬ひるむ。
その隙に、わたしは急いでシアの方へと手を伸ばした。
あと、少し――!
『くっ。そんなに返して欲しければ、返してやろう。こやつはもう用済みだ』
そう吐き捨て、女神ヘレネはシアを誰もいない方向へと投げ飛ばした。
「あっ……」
シアの細い身体がまるで紙切れのように宙を舞う。
やめて…! もうあの子には、妖精の守護魔法はかかっていないのよ!
地面に叩き付けられそうになる寸前、シアの身体を誰かが庇った。
大神官だわ。無理に移動魔法を使ったらしく、苦しそうに咳き込んでいる。
わたしは慌てて彼らの元に駆け寄って声をかけた。
「二人とも、大丈夫っ?」
「聖女殿が……目を覚まさぬ」
「ええっ!? 嘘でしょ、シア!」
猫神様に動きを封じられたまま、女神ヘレネは楽しげに嗤っていた。
『ふはは、無駄よ。魂ごと、聖女の力を奪ったのだ! 人間として愛されたければ力を捨てろ、と言っただけで簡単に言う事を聞いたぞ。人の心などもろい物よ』
「そんな……シア。しっかりしてっ! シアっ」
何度呼びかけても、閉じられたまぶたはぴくりともしない。
信じがたい現実に、涙がにじんできた。
これから、笑顔で暮らして、幸せになろうって、言ったばかりなのに……
ぐったりとするシアを抱き、大神官が絞り出すような声で話しかける。
「……シア。早く起きぬと、今日は朝食抜きだぞ……」
すると、シアのまつ毛がゆるゆると持ち上がり、か細い声が口から聞こえた。
「…………大神官さま……もう朝…?」
「シア!」
その様子に気付き、大神官はシアの体をずらして膝枕をして寝かせる。
「どうしよう…寝坊しちゃった。ごはん抜き……?」
どうやら目覚めたばかりで、まだ意識がはっきりしていないみたい。
そんなシアに、彼は優しくこう告げた。
「――食事は抜かないから、このまま横になっていなさい。シア」
「…………うん。そうする……」
頭を撫でられて、シアはとても幸せそうに微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
良かった! シアが目を覚ましてくれて、本当に……。
わたしは涙をふいて立ち上がった。ちゃんと使命を果たさないと。
猫神様だけに負担をかけて、お任せしているわけにはいかないもの。
「女神ヘレネ! 貴女の悪行もここまでよ。わたしは聖女じゃないけど、守るべきものぐらい守ってみせる!」
『何を言っておる? 誰もが他者を道具扱いし、使い捨てる。こんなクズしかおらぬ世界など、守る価値すらなかろう。愚か者がッ!!』
激昂する女神に向かって、わたしは一歩ずつ進みながら反論する。
「いいえ。たとえクズばかりの世界だったとしても……わたしは守るわ」
女神の目の前まで行き、きっぱりと心からの言葉を告げた。
「だってわたしもクズだから。完全に清らかな存在なんてあるわけない。わたしだって貴女だって、醜い感情がある。生きるってそういう事なんじゃないの?」
『何を、知ったような口をきいて――!』
桃色髪の女神は、それ以上を言えなくなる。猫神様が力を抑えているからだわ。
わたしは、女神の腕に噛みついたまま懸命に力を振り絞っている猫神様の、逆立った背中をそっと撫でた。
彼はついこの間まで小さな猫ちゃんだったのに、必死に頑張ってくれている。
神様だって、痛かったり疲れたりもするはずよ。
そんなこともずっと気付けなかったなんて……
「……猫神様。今まで頼ってばかりでごめんなさい。わたし、何の力もないけど、みんなのことを守りたいの。もちろん、貴方のことも」
『ありがとう。セレステラ……いいや、ステラ。大好きだよ』
「えっ?」
初めてのような懐かしいような男性の声が頭の中に聞こえてきて、ドキリとする。
『君が話しかけてくれたら、僕は勇気が湧いてくる。なんだって出来るんだ』
すると猫神様の身体が眩しく光り輝き、その輪郭が分からなくなっていく。
『女神ヘレネよ。己の醜い感情――嫉妬の存在を自ら認めず、闇雲に他者を害するだけのお前には、この世界で生きる資格はない。冥府に堕ちてやり直せ!』
『くっ、貴様。原初の力を使うなど、死ぬ気か……ッ!?』
次の瞬間、辺りは目もくらむような閃光に包まれる。
待ってよ猫神様! 一体、何をするつもりなの――――




