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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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異常

 ここを難なく抜けることが出来るようであれば、ミーナも魔物の領域ですぐにやられるということはなくなるだろう。そして戦闘の難易度を適度に上げるためにはバルパのボロ剣はしまっておいた方が良い。

 出来るだけ彼女の実力を発揮させる形で戦うのが良いだろうとバルパは魔法の品ではない普通の鉄製の剣を取り出した。そして少し緊張した様子のミーナの頭をポンポンと叩く。

「そう緊張せずとも大丈夫だ。さっきまでと同じように戦えれば特に問題は無く倒せるだろう」

「……もし前『紅』と戦ってた時みたいに私の方に向かってきたらどうすれば良い?」

「それは俺がなんとかしよう」

「うん、わかった」

 答えになっていない答えを聞いたというのにミーナの顔には不安げな表情は浮かんではいない。バルパは黙ってミーナの前に出た、そして階段を下っていく。

 一番下の段を踏み越えれば小さな広場が広がっている、そして向こう側には以前見た時と変わらぬような格好をしている朱染戦鬼の姿がある。二人はすぐさま戦闘体制に入った、それと同時に炎が階段と小部屋を隔てる境界を覆う。

 服は腰に布を巻いているだけで着ていないも同然、右手に持っているのは一撃で敵を潰すための棍棒のような殴打武器。左手は無手で、こちらにあの黒炎を放つために手のひらをバルパ達の方へと向けている。

 バルパはミーナの前に立ち雷の魔撃を放った、それに間髪入れない時間でミーナが火の球を放つ。二つの攻撃は着弾し、戦鬼が悲鳴をあげる。だがどうやら炎のダメージはほとんど無いようだった、バルパはミーナに属性を変えろと指示を出してから盾を構える。

 二人目掛けて戦鬼の黒い火炎放射が発射される、バルパはそれを緑砲女王で受けた。赤く脈動する女王の盾が自らを襲う炎を吸収し、その魔力を自らのうちに溜め込む。そして瞬時に自らに内蔵されている魔力の回路を用いて炎に使われた魔力を増幅させ、そのまま放ってきた相手目掛けてのカウンターを放つ。

 バルパ達にあっという間に到達した火炎放射は、更にその速度を更に上げて朱染戦鬼に届く。しかしやはり自分の攻撃だからか思った以上にダメージが通っている様子はない。

「これを使えっ‼」

 氷の柱を生み出し今度はしっかりと戦鬼に痛手を与えたミーナに緑砲女王を投げ渡す、彼女は戦鬼の方からすぐに視線をバルパへ向け、盾を危なげなくキャッチした。

 バルパは身体強化を発動させる、そして自らの体内を巡っている魔力のその循環速度を上げる。瞬間、彼の動きが見違えるように速くなった。

 これこそ彼がヴァンスとの戦いで体得し、そして一週間の修行で研鑽を積んできた新たな身体強化。彼はこれを従来の身体強化ではなく身体強化の魔撃迅雷(じんらい)と呼称していた。

 迅雷は身体能力の向上を主に速度に特化させておこなえる魔撃だ。この魔撃に使う魔力を全て身体強化に回すよりか筋力や攻撃力は落ちるが、その分自分がしたいと思った動きに肉体が答えすぐに動くことが可能になる。

 バルパが迅雷を使い朱染戦鬼に迫った、すると敵の接近に近づいた戦鬼がバルパめがけてその黒い棍棒を横凪ぎに放ってきた。攻撃を避けるためかがんで低い態勢を取り、すれ違いざまに戦鬼の右の腱を切り裂いた。攻撃力はそこまで高いわけではないため一撃で腱を断ち切るまではいかなかったが、それでも機動力のうちの幾ばくかは削げたはずだ。バルパは転身し再度戦鬼目掛けて突っ込んでいく。それを迎え撃とうとした朱染戦鬼の腱に今度は土の槍が刺さる。バルパが切り裂いたのとは反対側の足にまで傷を負った戦鬼はそれでも腰の捻りと腕力でバルパを迎え撃つ。今度は身体強化を足に発動、強化した脚力で棍棒の攻撃をジャンプして避けた。顔を撫でるように斬りつけると頬の辺りが浅く切れるのが見えた。バルパを振り上げで攻撃しようとしていた戦鬼の横っ面に炎の槍が当たる。あまり与え荒れるダメージは大きくなくとも速度を優先して放たれたのであろうその一撃は、しっかりと戦鬼の意識をバルパから外してくれた。

 着地してから大きくしゃがみこみそのまま先ほど切った腱に再び剣を当てる。今度はしっかりとブチリと腱の筋繊維が切れる音が聞こえてきた。 

 バルパは少し距離を取り、足元を重点的に狙いながら魔撃を打ち込む。雷と土を中心にしながら向かってこようとすれば光で視力を奪い、再び位置取りを変えては魔撃を放つ。そして彼の攻撃の切れ目を狙うようにミーナが魔法を放つ。

 防戦一方になる朱染戦鬼は二人に黒炎を発射し状況を打開しようとしたが、バルパに発射しようとすれば光の魔撃で目眩ましをしてから外されてしまい、ミーナを狙えば緑砲女王により自らの攻撃が反射して返ってきてしまう。それならばとミーナに距離を詰めようとすれば、今度は通常の身体強化の魔撃を使い朱染戦鬼より高い膂力を持つバルパが殴打で無理矢理ミーナとの距離を離した。

 そしてそんなことを数度ほど繰り返すと、朱染戦鬼の動きはみるみるうちに衰えていく。まず最初に右足が完全に動かなくなり、次には左足が動きを止めた。そして膝立ちになった戦鬼の右腕をバルパは容赦なく叩き斬り、勢いそのまま首を刈り取った。

 戦闘が終わるとすぐに朱染戦鬼はその体を薄れさせていき、命の証明(コンテクスト)を残して消えていった。ことりと音を立て宝箱が二人の前に現れる。

「バルパ…………どう?」

「問題ないだろう」

「やたっ‼」

 しかしミーナの意識は朱染戦鬼の残した宝箱ではなく、バルパの戦力評価の方にあった。無邪気に喜びを表現するミーナと、これからの旅路がどうなるだろうかと思案げなバルパ。せっかく出たのに大して喜ばれもしない哀れな宝箱君から出てきたのは赤いブローチだった。バルパが鑑定をかけられるとほんの少しだけ情報が読み取れる。


朱染戦鬼のブローチ 炎強い 強い、弱い 発射 耐性


「炎に強くなって、何かが出て、何かに耐性がつくらしい」

 それだけ言うとバルパがミーナにブローチを手渡した。彼女はきょとんとしてから恐る恐るそれを見て、返すのを忘れていた緑砲女王をバルパに返しながら訊ねた。

「私がもらっても……いいの?」

「俺はハゲだ、だからそんなものは使わない」

 ブローチを髪につけるものだということをルルに聞いて知っていたバルパはそう返した。ミーナは戦闘前なんぞよりもよほど緊張した面持ちでそのブローチを受け取り、少しだけ躊躇ってからそれを頭に着けた。 

 銀色の頭髪の右後方部分に真っ赤な薔薇のようなブローチが映えていた。

「……似合う?」

「わからん」

「そこは似合ってるよって言うところなのっ‼」

「似合ってるよ」

「今更遅いっ‼」

 行きと違いミーナを戦闘にした隊列で去ろうとする二人、バルパは奇襲を警戒し念のために魔力感知を発動させた。それに見慣れない反応をするものがあった。

「止まれっ、ミーナ‼」

「えっ、何だよ、返せって言われてももう遅……」

 バルパは周囲を見渡す、バルパは急ぎスレイブニルの靴に魔力を注ぎ込みミーナを強引に拾ってから階段へ駆ける。炎の消えていた階段にやってきてからもじっと一点を見つめているバルパを見たミーナが不思議そうな顔をした。

「も……もしかしてなんかいるのか?」

「いる……とは思う」

「歯切れ悪い言い方だな」

「反応が弱すぎる、ほとんど魔力を持たない人間でももう少しマシな反応がある。魔力感知を相殺出来るだけの相手が地中に隠れ潜んでいるのかとも思ったが……ミーナ、お前はここで待っていろ」

「あ、ちょっ……」

 バルパはミーナを置いて一人で再び獄蓮の迷宮の第十階層へ足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブローチについて説明する場合、大抵服等を留める物と説明するかと思います。 髪にもつけることも出来ますが、ピンやゴムをブローチをつけないと髪につけるのは少々難しいかと。
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