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わかってないのは


「わぁ、なんていうかあれだねぇ……」

「そうだな……」


 龍という生き物には色々な種類があり細かい種別がある。

 中でも最も力を持つのが竜王と呼ばれる存在であり、明確に席次のようなものが存在しているのだ。

 現在は既にこの世にない、全ての龍の源となった存在が龍神であり、それを讃えその存在を忘れぬようにするための年に一度の祭典が龍神祭である。

 龍神祭という大層な名前はついているが、その実はそれほど格式張ったものではない。

 出店が出たり、よくわからない出し物をしたりしている個体もいるが、その賑わい振りは人間界とそれほどの差異はない。

 どれだけ寿命が長くとも、そのあたりは知性ある生き物ならば何一つ変わらないのかもしれない。

 そんな風に思いながら、バルパはミーナと一緒に色々と回って見ていた。

 ちなみにミーナは既に空中飛行をマスターしており、その点においてはバルパと並んだと言っていい。

 総合的な戦闘力では未だ彼の方に分があるが、この様子ではいつ追いつかれるかもわからない。


「相変わらずお肉しか食べないね」

「生き物の身体は肉からできている、野菜を食べるのは道理に合わない」

「意味が通ってるようで、全然通ってないよそれ」

「俺の中では通っているからいいんだ」


 バルパは露店で、とりあえず肉々しいメニューをかたっぱしから購入しては腹に入れていた。

 とてつもなく長い寿命を生きる龍達は、儲けや採算などという者を度外視して面白さや好みを重視して物を出している。

 中にはタダで食べられるようなものもあるし、買えるものなら買ってみろと客に真っ向から喧嘩を売るような価格帯で売っているものもあった。

 バルパはそれらを金の暴力によって買い、またある時は物々交換などをしながらとりあえず胃の中に流し込んでいた。

 味もたしかめずに物を飲み込むその様子はやけ食いそのものだ。





「変わらないね」

「変わったところもあるさ、だが変わらないところも多いというだけだ」


 二人の間の距離感は、何一つ変わってはいなかった。

 それは進歩なのか、それとも現状維持なのか。

 バルパは気にせずに歩き続け、ミーナはそれに追随し続けている。


 彼は己というものを見失っている。

 ミーナにはそれがわかった。


 ここ最近のバルパの行動は、精彩を欠いていることが多かった。

 思えばその兆候は、以前からあったようにも思える。

 それはダンと戦う頃からだろうか。

 或いは奴隷娘達を拾った頃からだろうか。

 いやもしかすると、自分がヴァンスに泣きついた頃からだろうか。


 だとしたらそれは、自分にも原因があることだ。

 何故なら結果として、バルパを焚きつけることになったのは自分なのだから。

 ミーナがいなければ、バルパの生き方は全く別の物になっていたはずだ。

 自分と共に行動するようになったせいで、背中に幾つもの重石を乗せることとなり、それが彼の生き方を大きく変えてしまった。


 ミーナは自分にも、責任があると思った。

 バルパというゴブリンを、海よりも深い溝へと引き込んでしまった責任を、何らかの形で返したいと常々そう思っていた。


 どうするのがいいのだろう。

 ただ自分勝手に、理想や生き方を押しつけることはしたくなかった。

 とすれば理想は、バルパの目指す在り方に沿う形で提案をすることだ。


 バルパは今、自分の根幹とすべき何かを探している。

 彼と長期間行動を共にしてきたミーナには、その程度のことはお見通しだった。

 ミーナもまた、頭を悩ませるバルパの隣で考えていた。


 二人は考える。

 だが袋小路に入り込んでいるバルパと、楽観的な考え方をするミーナでは結論の向かう先は大きく違っていた。

 空を見つめながら、遠い目をするバルパに対しミーナは問いかける。


「ねぇ、バルパが本当にしたいことって……一体何? それをするために必要なことを、探さなくちゃいけないよ」


 バルパは自分が考え続けてきたことを、ミーナに指摘されるのが嫌だった。

 そんな簡単に答えが出ることならば、自分はこれほどにまで悩んではいない。

 思考が行き詰まっている彼の語気は、自然とげとげしくなった。


「ミーナにはわからないさ、俺の気持ちは」

「そりゃあそうだよ。だってわかってもらおうとしてないのは、バルパの方じゃない」


 そんなバルパに対し、ミーナはそう優しく答えた。


次回更新は7/17です

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