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熱砂

 バルパがいたところと同様に、ヴォーネのところにも転移魔法陣は設置されていた。

 何か手がかりがあったわけでもないが、これもまた折角の機会の一つなのだからと彼はまた新たな場所へ向かっていく。


 少なくともヴォーネは別れる際に、何か吹っ切れたような顔をしていた。

 恐らく今の彼女なら、大丈夫だろう。

 バルパは小さなドワーフの未来を思いながら、また新たな地へと飛んでいった。





 バルパが迷宮を出てから過ごしてきた場所は、どこも朝と夜の寒暖差はあっても異常な気候地帯ではなかった。

 四季があり、気温が上下しても、雪原地帯のような場所には一度として行ったことはなかったのだ。


 今彼は再び、今まで経験したことのない場所へと足を踏み入れた。


「熱いな……」


 思わずそう呟きながら、喉のあたりを手の甲で拭う。

 べっとりとついた汗が、この場所の熱さを物語っていた。

 おまけに汗を拭っても拭っても、とめどなく溢れてくるのだから始末に負えない。


 バルパは無限収納インベントリアから耐熱用の魔法の品(マジックアイテム)を幾つか取り出して先を進むことにした。


 彼が一歩を踏み出すと、足下からは砂が崩れるシャラシャラという軽快な音が鳴る。

 思い切り目を開けられないほどに頬に砂礫が飛び、気付けば口の中にはジャリジャリという不快な感触があった。


 彼は今、砂漠へとやって来ていた。

 先ほどまでの雪がそのまま砂に変わったかのような強い砂吹雪は、彼を辟易させるほどに強い。


 バルパは現状を打破するために口を覆うための布、目を覆う透明なガラス、そして口の中をゆすぐための水と砂から体を守るためのローブを取り出して対策を万全にした。

 そしてガラス越しの良好とは言いがたい視界の中、今この劣悪な環境下で過ごしているであろう仲間を探すことに努めようと再度足を踏み出して道なき砂漠を進んでいく。



「ここにいたのか、ルル」


「あ、バルパさん。どうも」


 雪原より不快指数は高いのではないかと思うこの砂漠で特訓をしていたのは、ルルだった。 彼女は自分が貼った結界の中で、ふりふりと手をバルパ目掛けて振っている。


 バルパが想像していたその数十倍は、快適そうな暮らしをしているように思える。


 ただ、基本的に悪ガキがそのまま大きくなったようなリィが意味の無い、意地の悪くないことをし続けるとは思えない。

 バルパは彼がヴォーネとルルに与えたであろう試練の内容について、考えることにした。


 ヴォーネは寒冷地帯に置かれ、食料の調達から熱源の確保まで様々なことを自分一人でやることを強制された。

 そこにはある程度万能に物事をこなせる刻印術の練度を上げるという狙いがあるのは間違いない。

 咒法を学びながら、元々ある技術を伸ばすような方向で彼はバルパ達を育てるつもりなのだろう。


(想像するなら俺は何もせずとも自分で修練をするから放置された。そして他の奴らには厳しい課題を与えている、といったところだろうか)


 だとしたらルルがこの場所に置かれた意味はなんだろうと考える。

 それを探るために、バルパは目の前にいる彼女の姿を観察してみることにした。


 ルルの聖魔法サンクチュアリは、物理的魔法的な攻撃を遮断するための結界を張る魔法だ。 彼女が砂漠地帯の中でも平然としていられるのは、間違いなく結界のおかげである。


 バルパはルルから張られている結界へと視線を移し、その様相が今までとは異なっていることに気付いた。


 まず第一に、結界の大きさが小さくなっている。

 ルルを覆う結界は本来なら彼女が守れるギリギリの範囲、つまりは仲間等を結界に収納できるだけの広さを持っていたはずだが、今の結界は彼女のボディラインに沿っているのではと思ってしまうほどに狭く、小さい。

 出力を抑えて、長時間結界が貼れるよう苦慮した結果なのだろう。

 まだ修行を始めて一週間と経っていないにもかかわらず、それだけの成果が出せているのは驚嘆すべきことなのは間違いない。


 そして二つ目の違いは、ルルから少し離れたところにある彼女の鞄にも小さな結界が張られていることだった。


 今までのルルなら、自分の周囲に多重の結界を張ることしかできなかったはずだ。

 だが今はどういうわけか、彼女は自分の体から離れたところにも結界を展開できるようになっている。


 それはバルパとヴォーネにはなかった、明らかな変化である。

 この三人の中で最も修行で伸びているのは、間違いなく彼女と言っていいだろう。


 恐らくはリィの狙い通りに、ルルは結界の複数展開や範囲の縮小をこなしている。

 あとは結界の持続可能時間を伸ばすことと、咒法を絡めてより強固な結界や、相手の攻撃を反射できるような結界を張ることができれば恐らく修行は完成を見るはずだ。


(ルルの修行の方向は、聖魔法全体ではなく結界へと特化しているのだな。回復等他にもやれることはあるはずだが……自分が向かうべき方向を、見定めたのかもしれん)


 とりあえず今のバルパには、彼女へ言えることはなさそうだ。

 魔力の節約、結界の縮小、一方向への特化。

 これを今詰まってしまっている自らの修行に役立てることはできないか。


 バルパはそんなことを考えながらルルとたわいも無い世間話をして、彼女の修業先から繋がっている新たな仲間のいる場所へと足を踏み出した。

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