表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
203/388

いつだって

 バルパは相変わらず見た目も戦い方も奇妙なまでに似ている黒服達を次々に葬っていった。単独行動をしている者を優先的に狙い、中にいた虫使い達にとりあえずの集合場所として助けた女達を置いてきた場所を伝えてから新たな獲物を探しに行くという作業を繰り返すうち、彼は奇妙な感覚に囚われていた。

 自分が戦っている相手は見た目だけでなく、戦闘技能も戦法も、似ているというレベルでは片付けられないほどに類似性が多い。

 一目見る限りでは違いを理解し辛いゴブリンですらじっくりと見れば違いがわかるというのに、黒服の男達は背格好も割れた箇所から見える目鼻立ちも全てがそっくりに見える。

 バルパはふと思い付きから数人の黒メガネとマスクを取り、そして気味悪さと疑問の大きさから彼らの死体を無限収納インベントリアにしまいこんだ。 

 あとで一度リンプフェルトまで戻り、ヴァンスに聞いてみるべきだろうか。そう考えながら掃討を続けると、単体行動の男達は全員狩り尽くすことが出来た。

 幌の中に死体や処理された人の皮はなく、知り合いの多くを助けることが出来た。その多くは年寄りや怪我を負い戦士を引退した人間であり、若い男手と若い女達、それと子供達の数が圧倒的に少なかった。数人見知らぬ人間もいたが、どうやら彼らは別の部族の民らしかった。状況説明をするのは面倒だったので、基本的には後の処理は知り合いに任せるようにしている。そして見知らぬ人のなりを見ても、彼らはその多くが老人と中年の男女であった。

 重要度で人の数を決めているという彼の推測は正しかった。となればおそらく二人以上のグループで行動している奴等が運んでいる幌の中に、彼らにとり有用らしい若い虫使い達が収容されているはずだ。

 若い人間ならば自分達の好きにできるとでも思っているのだろうか。それとも若いうちから奴隷として使えば年をとるまで長い時間使えるとでも考えているのだろうか。

 あるいはこの気味悪い黒ずくめの男達同様、彼らをなんらかの碌でもない人体実験の玩具にでもするつもりなのだろうか。

 どちらにしても虫酸が走る。何か別種の移動手段を使われても自分ならば追い付けるという自信はあったが、バルパはかつてヴァンスが一周のうちに距離を飛び越えて全く別の場所へ跳躍する瞬間移動の巻物スクロールを使っていたのをその目で見たことがある。

 もし彼らの中に瞬間移動持ちか、瞬間移動の巻物を持っている人間がいたとしたら。自分の武器であるスピードでもなんとかできないような手を打たれてしまえば、みすみす敵を逃し、将来有望な若者達を彼らに渡してしまうことになる。

 未だ敵が消えるような事態にはなっていないが、発動までに時間がかかる魔法という可能性もある。瞬間移動の魔法がどういうものかはわからないが、発動までにタメが必要なのだとすれば今この瞬間にも彼らは発動のための準備を整えているかもしれない。

 バルパは先ほどより光を増しているボロ剣を握りながら、空を蹴る。風切り音しら置き去りにしながら彼は次の目標である二人組の魔力反応を目指し進んでいった。


 使ってくる魔法も、殴打の際のモーションも、咄嗟の時の判断も全く同じなので、何度も戦闘を重ねるうちに最早黒服はバルパの脅威たる存在ではなくなっていた。頭を使って変かをつけることなどゴブリンにだって出来るはずなのに、これほどまでに動きがパターン化されていれば強敵とはなり得ないだろう。

 動きも早いが、僅かな身動ぎから次の行動は察知できる。魔法行使の種類も遠距離ならば二パターン、中距離ならば三パターンとかなり限られており、バリエーションも多いとは言えない。

 最早屠殺作業だなと思いながらも、決して手を抜くことは考えない。定型化されているのならば、そのパターンをしっかりと覚えれば相手を最短で追い詰めることが可能だ。

 現在は虫使い達にそこまでの非道を行ってはいないとはいえ、生物というのは追い込まれるとおよそまともとは言えない選択肢を取ることも多い。 

 なんらかの通信手段や仲間の生存を確認できるだけの手段を保持し自らの劣勢を悟れば、どのような強行手段に及ぶか、それはバルパには想像もつかないことだ。

 もっと、もっと速くだ。

 バルパの思いに応えてか、ボロ剣が彼の魔力を増幅させる度合いが更に増していく。

 バルパが天を駆ける速度は最早視覚することすら困難なほどにまで上昇しており、傍から見れば空を飛んでいるのと変わらないほどだ。

 彼は脳内で最短で黒服を殺すためのシュミレーションを重ねつつ、全速力を維持し続けた。


 二人組になっても対処の方法は基本は変わらない。察知されないように近づき、相手の反撃をパターンに当てはめてから後の先を取られる前に後の先の先を取る。

 天井知らずに上昇する速度のおかげで最早流れ作業と化している戦闘ではあるが、戦闘後に幌を覗く瞬間の緊張ばかりはいつまでたっても消えなかった。

 幾度もの多対一の戦闘を終え、ようやく最後の五人組の場所までたどり着いた。

 既にバルパは洗練化された対黒服用の戦闘スタイルにより、最長でも三手で相手を詰ませることが可能になっていた。彼は相手の攻撃を見てから難なく対応し、苦労もなく黒服の頭部を吹き飛ばし、腹部に大穴を空け、胸部と下半身を分離させた。

 戦闘を終え、一度息を飲むバルパ。戦闘時よりも戦闘後の方が緊張するというのは奇妙なことだが、これで最後だと思えば我慢出来た。

 未だ確認できていない人の数と幌の中の人数が一致していることはわかっていたが、それでも茶色く変色している布をめくり中を確認するのには勇気を要した。

 一度深呼吸をしてから一気に入り口を開き、中へ入る。そして人の人相と名前が一致するのを一人一人確認していってから、安堵の溜め息を吐いた。

 音を立てる存在を察し、何事かと虫使い達がバルパの方を一斉に向いた。そして彼の姿を見て一様に驚きの声を出す。布を噛まされているためにくぐもってはいるが、その声は慣れ親しみ聞き慣れたものであった。

 バルパは慣れた手つきで彼らを縛る布を取り去っていく。

 彼の目は一人の少年の顔を見て、その動きを止めた。

 パルマは彼のことをちらと見やってから、その顔を下へ向けた。泣き腫らしていたからか、その目は充血し、顔からは疲れが見てとれる。

 自分が任せたと言ったことが、想像以上に彼に重荷になっているのかもしれないとバルパは自分の迂闊さを悔やんだ。

 何か慰めの言葉をかけようとしたが、今彼に何を言っても、パルマはそれを自責の念へと変えてしまうだろうという確信があった。

 だからバルパは、パルマの肩を軽く叩いた。パルマがビクッと体を震わせる、バルパは彼の動きに頓着せずにグッと肩を掴んだ。


「ずっと向こう、北北東へ行ったところで、セプルがお前を待っているぞ」


 それだけ言って、バルパはその場を去った。

 ズタズタにされた雄としてのプライドをなんとかしてくれるのは、いつだって強い雌だ。いつの時代も結局、強いのは女なのだから。

 バルパはミーナを自らの胸に抱いた時のことを思い出し、少しだけ気恥ずかしさを覚えた。胸のあたりから込み上げてくる妙な感覚を振り払うために、彼はトップスピードで最後の集団、明らかに三十を超えている人間の反応のある場所へと向かった。

 これで最後だ、そう思うバルパは自分の肩の荷が降りているのを自覚した。

 とりあえずズルズ族は全員が無事であった。

 ある程度気持ちを落ち着けることが出来るようになると、今度は彼らを拐かした男達への怒りが湧いてきた。

 バルパは指先で鎧を小突きながら、疾走を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  バルパは先ほどより光を増しているボロ剣を握りながら、空を蹴る。風切り音しら置き去りにしながら彼は次の目標である二人組の魔力反応を目指し進んでいった。 →風切り音すら
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ