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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第三章 剣を捧ぐは誰がために
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下手の考えなんとやら

 少しばかりピリピリしている様子の男達に挨拶をすると、彼らの態度は臨戦態勢に移れるようなそれへと変わっていた。

 首輪の意味を知っているからかピリリの主がバルパであると理解して態度を硬化させ、今にも殺し合いに発展しそうなほどの形相を浮かべていたのである。そんな彼らを諌めてくれたのは、仲裁などという言葉があまり似合わなそうに思えるピリリであった。彼女がこんこんと自分達の出会いを時、バルパに心を許している様子を見せたことで、男達はその剣呑な態度を取り去ってくれたのである。

 今バルパの背後にはまだ実力的に不安の残るヴォーネやズルズ族の面々がいる。彼らに危害が加わらないようにするためには半殺し程度は覚悟していたバルパではあったが、とりあえず事態が沈静化してくれたのでありがたいと思えた。ピリリの頭を撫でてやると彼女は喜び、シルル族の男達が微妙な目付きでバルパを見つめた。なんだかその目が嫌だったので、バルパはピリリを持ち上げ、彼らの姿が目に入らないような体勢に体を動かした。

 集落の場所はそれほど遠くないとのことだったので、バルパ達は話はそこでしようと早々に会話を切り上げるよう提案し、彼らもそれに賛同した。

 だが何やら事情があるようで、顔に刺青を入れたパリトという男がバルパ達を案内し、残りの三人は引き続き森で警戒を行うことになった。

 理由はわからないがそれならば話はここで良いと伝えたが、ピリリを一度返してやりたいからとパリトは頑として譲らなかった。

 そこでバルパはズルズ族の男衆を置いて先にシルル族の集落へ向かうことを決めた。女達とパリトならばギリギリ馬車に入るし、彼らを運ぶ分にはバルパの纏武で大幅に時間を短縮できる。

 バルパはじゃあなと簡潔に伝え、皆を馬車に乗せた。よくわかっていない様子のパリトを馬車の入り口付近で顔だけ出して指示をするようにお願いし、了承を得た上で纏武神鳴を起動する。今回も持久力は瞬発力重視なために使うのは神鳴だ。

 パリトが絶叫しながらもなんとか道案内をしてくれるのをありがたく思いながら、バルパは全速力でシルル族の拠点目指して空を駆けた。


 拠点はわかりにくい場所へあった。ズルズ族のそれもボロいと思えたが、シルル族のそれは彼らの集落に輪をかけてボロい。最早家というか掘っ立て小屋と形容するのが相応しいようなものがポツポツと並んでいるだけで、あまり生活感も感じられない。

 もしかしたら転居したてなせいでまだ準備が整っていないのかもしれないと考えながら、集落へ入る。馬車から降りるよう伝えるとピリリが凄い勢いで飛び出してきて、バルパは上体を捻りなんとか衝突を回避した。

 ピリリは飛び出すと辺りを見渡し、不思議そうな顔をしていた。やはり予想通り、この集落は建設されてからまだ間もないらしい。バルパはどうするべきか考えた末、当たって砕けろと適当な民家へ入っていく彼女の後ろ姿をゆっくりと追っていく。

 最初の家にいた若い女は、ピリリの帰還を知り我がことのように喜び、半泣きで彼女を抱き締めていた。そして隷属の首輪に気付き、バルパを敵視しながら殺そうとしてくるところまでパリトと同じである。パリトの方を向くと彼はすまなそうな顔でヘコヘコと謝ってきたので、気にしていないと小さく手を振った。

 そして先ほどよりも少し熱が入ったような気のするピリリの説明を受け彼女の態度は先と同様に軟化した。

 もしピリリがなんらかの手段で操られていたり、彼女の意図にそぐわないような発言を強制させられていたりしたのならどうするのだろう。バルパはシルル族の防犯意識の低さが少しばかり気になった。

 話をしてくれるようになった女性に謝られたので、マナーとして教え込まれた通りに兜を取って謝り、お詫びに花を渡した。男と女で態度を変えるのは当然、というか世界の摂理、とはヴァンスの金言である。

 なぜか急に口数が少なくなり、指先による指示だけすると俯いてしまった彼女に礼を言い、ピリリも欲しいと駄々をこね始めた彼女にも同じものを渡した。急がなくて良いのかと訊ねるとハッとしたように口を大きく開き、急ぎ小屋を出ていくピリリ。相変わらずどこか抜けていて、そこがまた愛嬌になっている。

 バルパは彼女と家族との再会に水を差すのは良くないと考えて後ろをついていくのを止めようとしたのだが、ピリリが一緒にいて欲しいというので一緒にいることにした。手を握っていて欲しいと言われたので、握ってやることにした。もうバルパは、言われるがままである。

 俯いてしまった女性に教えられた場所は、支柱が崩れているのではないかと思えるほどに型崩れを起こしているテントであった。

 ピリリはめくれるようになっている入り口部分の布を開き、中を覗きこむ。


「…………っ‼」

 

 何も言わない、というよりかは言葉が出ないという表現の方が適切なように思える。

 どれくらいぶりかを正確に知っているわけではなかったが、恐らく一年近くぶりの再会になるはずだ。手を握っている自分は明らかに邪魔な部外者だろう。

 バルパは少し考えた末、申し訳程度ではあるが闇の魔撃を発動させ申し訳程度に気配を隠した。


「おばあちゃんっ‼」


 だが寧ろ下手に気を回そうとしたせいで、ピリリの祖母らしき人物が変な物を見るような目でバルパを見つめる結果になった。

 ピリリの説明と弁解が必要になったことは、言うまでもない。

 やはり下手なことをするくらいならやらない方がマシだな。そうわからせてくれる良い機会だと、バルパはポジティブに捉えることにした。

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