二歩目は、前を向いて
「ギルティ」
「有罪」
「罪を償ってください」
「死刑……あ痛ぁっ⁉」
馬車に二人で戻ると、一斉に声がかけられる。
バルパは一体自分が何をしたと抗議をしようとし、自分の身体に巻き付いているピリリを見て口にするのを止めた。
今、バルパの脇のあたりはピリリによってがっちりロックされている。鎧の鱗が当たって痛かろうと何度も言ったのだが、イヤイヤと首を振り彼女は一向に離れてくれようとしなかったのである。
最後の一人はとりあえず攻撃をぶちかまそうとして首を押さえているので放置だが、前者三名には詳しい説明をしておく必要があるかもしれない。あると言えなくもない、というか説明しなさいオーラが凄まじい。
自分は顔を覆っているために変化はないので、彼女達がまるでオーガのような様相をしているのは間違いなくピリリが原因だろう。
そっと視線を下に下げていくと赤く目を腫らしているピリリが視界に映る。彼女はバルパが首を動かしたことを敏感に察知して、自分もすぐに顔を上げた。ニコッと笑いかけてくるピリリを見て、なんとなくほんの少し口角が上がってしまうバルパ。外野から喉を鳴らすような唸り声が聞こえてくる。ここに魔物がいないことは確認しているのでその音の発生源は言わずもがなだ、バルパは現状自分がどう見えているかを考えてみることにした。
長い時間外で話をしており、帰ってきた自分はまだ大分幼い少女をその身体に巻き付けていた。ピリリは明らかに号泣したあとであることがわかるくらいに目が真っ赤になっていて、鼻先も赤く擦れている。
この光景を見れば、自分が彼女のことを泣かせたと考えるのが普通だろう。そして明らかにボロ泣きさせたのもわかるので、自分は彼女達の目にはさぞ悪辣な人間に見えているに違いない。
少女をたぶらかす悪い男、といった感じだろうか。なんにせよあまり良い印象ではないような気がする。
かといってここで大っぴらに彼女の話をするのも違うだろう、さてどうするべきかと考えていると腰あたりにあった重たい感触が消えた。
ピリリが自分の側を離れ、女性陣の前に立った。
そして何をするのかと身構えていると彼女が口から虫を吐き出した。まだバルパの見たことのない手乗りサイズの蜘蛛だ。足が多く気持ち悪いフォルムであるにもかかわらず、微妙に愛くるしい見た目をしている、足があまり長くなく、顔がそこまで異形な感じがしないからかもしれない。
どこか憎めないようなその小ぶりの魔物を皆に見せるように持ち上げながら、ピリリは自分の話を彼女達にし始めた。
間が出来た時やなんとなく視線がブレた時、彼女は時々バルパの方を向いたが、黙って頷いてやるとすぐに笑みを取り戻して説明を再開した。
といっても話の内容それ自体は基本的に彼女がバルパに話したことの焼き直しだ。彼女が自分の故郷がわりと海よりも近い溝に近いと言っていたのが彼にとってはほとんど唯一と言っていい新規の情報であった。
だとすればまずは彼女の古巣を探し訪ねるべきだろう。全員の話を聞きようやくこれからの行動に順序をつけることが出来そうだ。
バルパがそれならご飯を食べたら彼女達に話を通さねばなと考えていると、ピリリが話を終え再びバルパに抱きついてくる。どうやら彼女は自分の右脇を定位置にするようだ、鎧がざらついていないからそこまでのダメージはないだろうし、とりあえずはこのままで構わないだろう。
特に注意をすることもなくなすがままにしていると今度は女性陣から発言が飛んでくることはなかった。
話が終わると同時に詰問されると想定していたバルパにとっては拍子抜けだったが、別段叱られて喜ぶような奇特な趣味はないために素直に喜ばしい。
彼は何か言いたげではあるが黙ったままの四人に声をかけ、これからの話をすることにした。ヴォーネは端っこで座って静観を貫いている。
「まずはピリリの故郷を探す。そして次にヴォーネとウィリス、途中途中でレイの一族を探し回るという感じになるだろう」
否やの声はあがらなかった。腹の調子はさほど空腹というわけでもないが、一応何か入れておいた方が良いだろう。
自分も、そして他の者達も考えをまとめる時間がいるだろう。夜に走るのはやはり目立つし、別段そこまで全速を出しきる理由もない。朝から夕方まで全力で頑張るだけでも十分に距離は稼げる。今は無理をする時ではないだろう。いつかきっと全力のその先を求められる瞬間がやってくるはずだ、バルパはその時のための鋭気を養うためだと休憩をすることを前向きに捉えることにした。
彼は魔物の存在がいないかどうか逐一確認をしながら、テーブルを取り出し食事の準備を始めた。




