二者面談開始
「……とまぁ、こんな感じだな」
「うわぁ……」
「ちょっと、その……ドラゴンさんが可哀想かなぁと」
バルパ達は今、海よりも深い溝の第三十層にやって来ていた。バルパが自分の体の負担を気にせず突っ走り続けたため、時間としてはまだリンプフェルトを出てから半日も経過していないといえばどれだけの距離が出ているかは推して知ることが出来るだろう。
夕暮れ時というよりかは三時のおやつ時である適度に日光があたるこの時間を、バルパ達はとりあえずドラゴン殲滅兼お互いの成長の確認に使うことにした。
時間の短縮は十分に出来ている。ならばこの更に先、ほとんど障害物が消え去りドラゴンの群れに狙い撃ちにされる場所に行く前にある程度は確認をしておくべきだろう。バルパの考えにルルとミーナは一も二もなく頷き、奴隷達は何も言わずただ黙ってそれに従った。
「ていうか首筋を殴ったら首だけ飛んでくってワケわかんなくない?」
「左手で押さえてから右手で殴ったからな、当然だろう」
「当然……なのかなぁ?」
「考えたら負けっぽいですよね」
地面には飛び散った亜竜、つまりワイバーンの死骸が結構な数並んでいる。ワイバーンは結構美味しいので、バルパは首と胴体が泣き別れしたドラゴンを回収する片手間に比較的状態の良い亜竜達を拾っていくことにした。
鱗の破片やもがれた翼、炭になった頭部等の諸々の素材は捨て置くことにした。こんなものあっても大した役には立たないし、地面の土の色が濃いせいで一々探すのも面倒だ。魔力感知を使いちみちみと拾わずとも、どうせすぐに竜まみれになることになる。
ならばとりあえず現状戦力に不足はないとわかったことに納得し、さっさと次へ進むべきだろう。
バルパは再び奴隷の四人とルル、ミーナを馬車へ入れ空を駆け始めた。時々自分を狙いに来るドラゴンはボーナスステージだとばかりに殺し、即座に無限収納に入れる。ドラゴンの死体のストックは既に数えるのもアホらしいほどにまで増えているが、それでもドラゴンの肉を捨て置くなどというもったいないことはバルパには出来なかった。
もはやオークの肉よりもドラゴン肉の方が収容量が遥かに多いという状況にあっても、やはり食べたいのはなんやかんや美味しいドラゴン肉なのである。バルパはドラゴン肉を食べると実家のような安心感を得られるほどにドラゴンに慣れ親しんでいた。もちろん接敵したらワンパンで殺すが、それはそれである。
馬車を担いで走っている間は、流石にミーナ達は話しかけてこない。最初の頃はちょくちょくと顔を出していたのだが、数分も話していると上下運動が激しすぎて顔色を悪くしてし引っ込んでしまった。どうやら馬車の中ではほとんど感じない揺れをダイレクトに感じることで凄まじい乗り物酔いになるらしい。一度馬車を下ろし休憩を挟んだとき、二人の顔がいやにスッキリとしていたが、バルパは詳しい事情は聞かないでおくことにした。なんとなく聞いてしまえば戻れなくなると彼の野性染みた直感が訴えてきたのである。
世の中知らない方が良いことも多い。バルパは肉を嫌そうな顔で見つめる彼女達に葉っぱを渡しながら、自分は肉を頬張って食事を終えた。
「そろそろしっかり休憩をとっておく。もう少ししたら更に木々が疎らになるから、戦闘の前の小休止というやつだ」
バルパは適当な木陰を選び着陸し、馬車を肩から下ろし中に顔を突っ込んだ。
中では僅かな振動で既に大分グロッキーになっているヴォーネと妙に静かなピリリを除けば三ヶ月前とほとんど変わりのない光景が広がっている。ルルが増えて少し、というか大分賑やかになりこそしたが大きく変わってはいない。
バルパは魔力関知を使いながら、馬車の中で適当に食べ物を取り出していく。それを同様に取り出したテーブルと皿の上に乗せ、並べればあっという間に食事の準備の完了である。
別に規律が厳しいわけでもないから、特別な号令をかけたりせずとも各々が自然と食事を取り分け始める。
必死になって自分の分を取ろうとしてくれているルルとミーナを見て、先ほどの戦闘の様子を思い出すバルパ。
どうやら彼女達はかなり無茶をしていたらしい。魔力量の急激な増加からなんとなく推測は出来ていたが、実際に目の当たりにするとその確信は一層強くなった。
ワイバーン程度なら容易く屠ってしまうミーナの火力、そしてドラゴンのブレスを直撃してもビクともしないルルの防御力。そのどちらもが自分が以前に見たものよりも数段強くなっており、バルパとしては喜びを感じざるを得なかった。
自分が強くなっている間、彼女達は現状で満足することなく先へ進もうとしてくれ、そして実際に強くなった。その姿勢は、彼にとり大変好ましいものだった。
後先考えない全力ならなんとかエレメントドラゴン一匹なら殺れると豪語していたミーナの言葉や先ほどのルルの聖魔法を見る限り、更に奥深くまで進んでも大きな問題は起こらなかった。
ルルがいれば奴隷の四人を守りながら進むことも出来るだろうし、いざというときにはミーナの捨て身の一撃で相手を倒すことだって出来るだろう。保険があればバルパとしても心置きなく戦えるし、とりあえず魔物の領域に到達するところまでは可能そうだ。
だがとりあえず来てみたは良いものの、バルパ達に魔物の領域について決して明るくはない。入ったら最後、どうすればウィリス達の故郷につけるかということに関しては皆目見当がついていない。
魔物の領域に入ったは良いがどこへ行けば良いのかもわからず立ち往生、そればかりはどうしても避けたかった。
ここに来て戦闘訓練ばかりでまともな情報収集をしていなかったツケを払わされることになるとはな、バルパはどうしたものかと考えながら小さなパンを大きな肉で挟んだもうただの肉塊でしかないものを口に入れる。
奴隷とある程度話をしなくてはいけないとも思っていた。
一度休息のとれそうな場所でも探して詳しい話を聞いてみるか。ウィリスとピリリが大人しくなった理由もわかっていないのというのは流石にマズい気がする。
バルパは今まで通ってきた道の中に適切な場所はあっただろうかと考えながら、ようやくパンの見えてきた肉包みの最後の一欠片を口に入れた。




