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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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吸収

そこは本当にダンジョンの中なのか疑わしい程に広大な空間だった。風にそよぐ草木、足元は地面が広がり、階段で下がり地下に入ったはずなのに青々とした空が見えている。自分が下った階段の段差は三十段ほどだ、だが上に広がる空はどこからどう見ても無限に空が広がっているようにしか見えない。明らかに感情が合わない、一体どういう仕組みなのだろうか。

 自分の持っている無限収納インベントリアのようなものがダンジョンの内部に広がっているのかもしれない、もしそうだとすれば納得できる。

 バルパは自分の予想をヴァンスに話してみたが、どうでも良いと一蹴された。

「んなことどうでも良いんだよ、ほらあっち見てみろ」

 ヴァンスが首をしゃくった方を見ると、悠々と空を飛び獲物を見定めているらしいドラゴンの姿がある。赤い体色と燃えるように逆立つ鱗の継ぎ目の毛から推察するに、恐らくレッドドラゴンだろうと思われた。強化した視力で見ているために遠近感はいまいち曖昧なために、それほど自信を持って断言は出来ないが。

 レッドドラゴンらしき竜は空を旋回し、眼下に広がる広大なエリアの中から餌になる生き物を探しているようだった。

 ……ということはドラゴンの餌になるような魔物が存在しているのだろうか? バルパの疑問は新たに出現したドラゴンの口元を見てすぐに氷解した。

 背中に棘を生やした猪が、棘と骨をボリボリと噛み砕かれながらブラックドラゴンの口の中で咀嚼され原型を無くしていく。数回も咀嚼すれば食べ終えてしまったようで、ドラゴンがレッドドラゴンの横で同じように獲物を探し始める。猪がいた痕跡はドラゴンの口周りにべっとりとついた鮮血だけになってしまった。

「ここにいるのはドラゴンと千棘猪メギーラだけだ。猪はすぐにカッとなって突っ込んでくるだけの脳足りんだから別に心配しなくても良い。ドラゴンの種類はエレメントと亜竜がごった煮って感じだな。なんとなくネームドクラスはいなそうではあるが、もしかしたらどっかで巣作りして姿を見せてないだけかもしれんから一応注意しとけ」

「わかった」

「そんじゃあ早速ヴァンス先生の課外授業と行くか。さてさて丁度良い相手はっと……」

 太陽もないのにどうしてか明るい不思議な空間を目を凝らして見渡すヴァンス。彼は手で庇を作りキョロキョロと目を動かし、少ししてその動きを止めた。

「よし、あそこに一体いる。じゃあまずはあっちへ歩きながら説明をしてやろう」

 ヴァンスが指を差している方には確かに一体のドラゴンがいた。ただドラゴンとしてはかなり小振りなように見えるため恐らくそのランクはエレメントより下の亜竜になるだろう。自分としてはエレメントを殺す方法が見たかったので、バルパとしては少し不満が残った。

「そんなつまんなそうな顔すんな、ぶっちゃけ痛いから俺もあんま乗り気じゃねーんだよこれやんの」

「……その方法は痛みを伴うものなのか?」

「当たり前だろ。邪道な方法で強くなろうってんだから碌でもない方法に決まってる」

 小走りになりながら葉を繁らせる大きな木の上であくびをしている土色の亜竜へ近付きながら、バルパはヴァンスが魔力を動かし始めているのに気付いた。

「良いか、これは俺様みたいな人間が使える技じゃない。どちらかというとその存在が魔物に近いタイプの亜人が近接戦闘能力を無理くり上げるために使う技だ。亜竜は放置してしばらくは俺のことだけ見とけ」

 素直に言い付けに従うバルパ、ヴァンスは視線を受けながら魔力を右手に集め始めた。

 魔力が放出され、変質し、炎へと変わっていく。今見ている限りではヴァンスがやっているのは普通の魔法の行使だ。魔力を循環させ、一点に集め放出し、イメージにより変質させる。

 だがそこからが普通の魔法とは違った、ヴァンスは魔力が完全に炎に変わる前に、変質した魔力を無理矢理自分の体の中に押し込んだ。そんなことが出来るのかと疑問に思うバルパだったが、目の前で見せられている以上は可能な芸当なのだ。

 魔法になりかけている魔力を無理矢理体に戻す。魔力を攻撃に転用するときは放出させることしか意識に無かったためそれを敢えて戻すことは今のバルパには出来ないように思われた。

 ヴァンスは炎になりかけた魔力を右腕に無理矢理流し入れた。送り出すことしか出来ないものを無理矢理吸収させるとどうなるのか、答えはすぐに現れた。

 ヴァンスの右腕が燃え上がる。彼はそのまま空を駆けた。

 右腕の炎がドンドンと勢いを増していく、そして右腕にだけだった炎は魔力の流れに従い全身に移っていき、彼が亜竜の目の前に辿り着く時には全身が火だるまになっていた。

「ふんっ‼」

 ヴァンスが右ストレートを放つと一撃をモロに受けた亜竜が吹っ飛んでいく。顔の近くを殴ったせいか、既に意識を失ってしまっているようだった。そして地面に落ちて体を痙攣させ、すぐに動かない死体へと変わる。

 ヴァンスがゆっくりとバルパの方へ戻ってきた。その全身は未だ煌々と燃えていて、まるで魔物か何かに変わってしまったかのようだ。

「これが今のお前にも出来る新しい力だ。魔力を放出させる管を無理矢理逆流させて魔法を体の中に流し込む。これをやると魔法の分の力が自分に加算される。雷入れれば速くなるし、炎を入れりゃあ力が増える。まぁその辺は色々試せ」

 ヴァンスの右腕から赤い線が迸った。筋になって地面に落ちるそれは、間違いなく血液である。ボロ剣の一撃を受けた時にしか出血していなかったヴァンスが血を流している原因は、亜竜の反撃ではあるまい。彼は収納箱からポーションを数本取り出すと、手当たり次第に腕にぶっかけた。

「この技法は無理矢理管を広げる荒業だから、肉体構造的にキツい部分が多いんだ。だから亜人でもこれを使う奴は一握りだ。ミスって魔力管を広げすぎれば二度と魔法の使えない体になることもあるし、そもそも体内に魔法を打ち込んだ状態だと魔力が完全に霧散するまで他の魔法は使えなくなるしな。それに痛みもやべぇ、二度と正直今俺の右腕は常人なら三回意識吹っ飛ばしてもお釣りがくるくらいに悲鳴をあげてる」

「……話を聞いている限りデメリットしかないように思えるが?」

「痛くて、ミスると死にかけるが、覚えられればシンプルに肉体の出力が上がる。わかりやすくて良いだろ? あぁ痛ぇ、実演はもうやんねぇからな」

「ああわかった、ありがとう」

「んじゃ俺は行くわ。また後でな」

 ヴァンスは伝えることだけ伝えると、空を飛んで行ってしまった。行き掛けの駄賃とばかりにドラゴンをパンチ一発で仕留めていく様子を見る限り、本当に自分に見せるためだけに先ほどの技を使ってくれたのだとわかる。

 魔力感知でなんとなく流れは掴めた。あとは実践と、反復と、推論だ。

 バルパは魔力感知を使いドラゴンの群れを避けながら、先ほど見た魔法吸収の光景を脳内でリフレインさせてイメージトレーニングを重ねることにした。

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