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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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最強の必殺技

「悪くない……っつうかタイミング的に絶妙」

 ヴァンスの口から出た一言は非常に好意的なものだった、どうやら機嫌を損なわずに済んだらしいのでバルパとしては願ったり叶ったりである。彼につられて少しだけ笑うと、スースと『紅』の四人がまったくこいつらは……という顔をした。兜を取ったバルパの顔に浮かんでいるのもまた、ヴァンスがしていると同類の物だったのだろう。

「どれくらいかかる?」

「うーん…………後先考えなければ半月」

「後を考えれば?」

「五年」

「なら半月の方で頼む」

「そうこなくっちゃな、んじゃあさっさと……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ‼ ルード団長にも勝手な行動は慎むようにって再三言われてるじゃないですか‼」

 膝を立てて立ち上がり、ゴキゴキと関節を鳴らすヴァンスにアラドが駆け寄った。その後ろでああ、またリーダーが貧乏クジ引かされてやがる……とツツとミルミルが不憫そうにアラドの方を見ていた。

「うるさい、それをどうにかするのが弟子の仕事だ」

「駄目だよアラド、こうなったらこいつは真竜に火を吹かれても従わない」

「アラドさん、大人しく謝りに行きましょう。今度は私ついていきますから」

「ああ、うん。ありがと……」

 さっきまで嫌そうだったはずのアラドがまんざらでもないような顔をする。相変わらず人間という生き物は感情の移り変わりが激しい。バルパはなんとなく変な様子の二人を見てから、横に顔を向け肩をぐるぐると回しているヴァンスに向き合った。

「真竜は俺も一度戦ってみたいとは思っている」

「無理無理、今のお前じゃ視認する前に消し炭」

「何、そんなに強いのか?」

「素手で殴ってもしっかり手応えがあるくらいには強ぇ。つか無駄口叩いてる暇があんなら帰んぞ」

「じゃあアンタはバルパ連れて帰ってな、私たちも後から追うから」

「流石わかってるな、俺の嫁なだけはある」

 ヴァンスはバルパが一瞬気を抜きまばたきをしたその瞬間を狙って彼をヘッドロックした。バルパを抱えたまま音もなく空を飛び、大きく笑って空いている左手で尻を掻く。

「あー、やべおなら出る。俺のはくせぇぞ、バルパ」

「どうしてそれを俺に言う必要がある」

「んなもん決まってんだろ」

 ヴァンスは大きな音を出して屁をこき、先ほどまで開いていた手のひらをしっかりと握る。それをバルパの顔に持っていって開き、また笑った。彼が笑うと同時、バルパの鼻を衝撃が襲う。その強烈な匂いと魔力をモロに食らい意識を飛ばしそうになるのをバルパは歯を食い縛ってなんとか耐えた。

「俺の最強の必殺技、にぎりっぺ攻撃を食らわせるからだっ‼」

「ぐ……臭い。…………というかなんでおならが魔法の品(マジックアイテム)なんだ」

 驚くべきことにバルパの魔力感知はヴァンスが握り、そして解放したオナラから凄まじい魔力を感じ取っていた。具体的な例で例えるなら、緑砲女王よりかは確実に多い。おならに負ける魔法の武具が不憫でならなかった。バルパはもし出来ることなら、ヴィーネ経由で緑砲女王をおならに負けない盾にしてもらおうと心に決めた。

「当たり前だろうが、ドラゴン程度の魔力量でもその鱗の一枚一枚が一級品の魔法の品だなんて言われてるんだぜ? それなら俺のおならがオークションで取引不可能なレベルの代物なのも当然だ」

 ヴァンスの言葉を聞いて確かにその通りだと思えた。ある程度強力な魔物ならば素材が魔法の品になるのならば、ヴァンスの体など重要部位はおろか睫毛の一本、瘡蓋一つ取っても超一級品の魔法の品になって当たり前だ。

 そういえば先ほどヴァンスは鼻をほじっていた、それならば鼻クソがどこかに落ちているのではないだろうか。バルパは魔力感知で強い魔力反応を示す場所を探した。

 そしてスースの胸の中に入っている何かがもっとも強い反応を示すのがわかった。どうやら鼻くそはお嫁さんによって回収済みらしい。

 バルパは自分の諸々は果たして魔法の品になるのだろうかと考えながら、未だ残っている臭気を仕方がなく吸って肺に取り込んだ。

「うっし、それじゃあ行くぜ。まずは一回戻ってから、お前を鍛えつつ俺様もテンションを上げられそうなパラダイスへ連れてってやる」

「……意外だな、てっきりそのまま戻らずに向かうと思っていた」

「バッカだなお前、奴隷ちゃんズに超絶美形最強無敵こと俺様がお前なんぞよりも遥か上にいることをしっかりと見せて惚れさせておかないといけないからな」

 本来ならどんなことでも自分の思い通りにしようとするヴァンスが、わざわざ街に戻るということが……もしかしたら自分のことを思ってのことか……? だが自分を抱えスキップしながら空を駆けている彼の鼻の下が伸びているのを見て、違うなと即座に自分の考えを否定した。

 バルパとしても時間を優先してミーナを含めた五人にはほとんど話が出来ていなかったから渡りに船だ。その動機が自分とは関係ないところにあろうと、自分に有益なのだから文句をつける必要もない。

「待ってろよ、エルフっ娘ちゃん‼ そしてドラゴン共‼」

 ウィリスが将来受けることになるであろう艱難辛苦に黙祷を捧げてから、バルパは気分を切り換え空の旅を楽しむことにした。

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