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ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
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「や・だ」

 ヴァンスに話をしたところ、開口一番彼は鼻くそをほじりながらとても良い笑顔を浮かべた。人を小馬鹿にするような笑みを見てもバルパは特に何も感じなかったが、どうやら他の人は違ったらしい。

「師匠、いきなりそんな無碍な態度とる必要もないじゃないですか」

「そんなこと言うもんじゃないよ、ヴァンス」

「ふがっ……あ、でっけぇの取れた」

 彼に同行していたスースとアラドの言葉を聞いてもヴァンスは知ったことかと鼻くそをほじり続けた。そんなことをしてなんになると訊ねると気持ちいいと言われた。お前もやってみろと言われ兜を取ったバルパが鼻の穴に指を差し込もうとしたところでスースのストップがかかったために事故は未然のうちに防がれた。

 スースにぴしゃりと背中を叩かれあーあーと変な声をあげるヴァンス、あたりの魔物を漏れ出る魔力だけで逃げ散らせている人間とは思えないだらしなさである。

 ここが木々の間隔が大きくなり、空から丸見えになっている場所であっても一見隙だらけに見える彼の様子は変わらない。

 バルパは急ぎ空を駆け、やつあたり気味に二匹ほどドラゴンを殺してから層の継ぎ目を細かく確認することもなくザガ王国騎士団の痕跡を辿っていき、彼らの後方で待機していた冒険者達から情報を聞きようやく五日目にして彼らのもとへたどり着けたのだ。

 周囲に騎士団の姿はなかったので聞いてみたところ、彼らは独断専行が認められ好きにやらせるのが一番良いということになったのだそうだ。ヴァンスが問題を起こしすぎるために放逐されたとはアラドの談である。彼の頭皮は大丈夫だろうか、ふさふさとした髪をことあるごとに鏡で確かめているミルミルを見てバルパはそんなことを思った。

 ミーナ達は現在ティビーのもとでお世話になってもらっている、流石に彼女達をヴァンス探しに付き合わせるつもりはなかったからだ。

 奴隷を奴隷商店に置いておけば売られてしまうかもしれない、もしかしたら自分達は既に売られているのではないかと四人には別れようとすると強硬に反対された。だが奴隷を泊められる宿は少なく、そんな宿にミーナと四人だけで置いておく方がよほど危険だろう。ミーナはまず間違いなく主として見られるだろうし、そうなれば殺される危険性もある。急いで帰ってくるし、もし連れていかれそうになったら最悪その相手を殺すと約束すると四人は素直に別れるのを認めてくれた。唯一ピリリだけは純粋にバルパと別れたくないと感情的に駄々をこねていたが、甘いケーキを腹いっぱいになるまで食べさせるとすぐに眠ってしまったので問題は起きなかった。

 そんなリンプフェルトで受け入れ体制を整えさせ、その後彼女達を街に入れ、一悶着起こりそうになったところは俺の借財奴隷だと言って誤魔化し、なんとか奴隷商店にまで運び入れた。そして奴隷契約の履歴を教えてもらうために星光教にお布施を行い、ウィリス達は星光教の助祭によって非公式に仮の奴隷になっていたため奴隷の主の変更登録ではなく新たな捕虜奴隷の登録として契約を結んだ。仮契約とは星光教の中である程度の地位を持っている人間が個人の裁量で出来る奴隷契約であり、レベルは三までしか出来ないししよう期限や制約等細かい規定の多い代わりに弾力性を高めた特殊な契約であるらしい。

 どうやらあの馬車には星光教の人間が乗っていたようだった、炭になっていた人間の中に彼女達に奴隷契約を強制した人間がいるのだと考えると少しだけスッキリした。

  正式な契約をするには助祭以上の人間と共に教会へ赴き、教会だけが持っている特殊な魔法の品(マジックアイテム)を使わせるためのお布施をしなくてはならないのだが、その変の煩雑な処理は手間賃を渡したらティビーがやってくれた。

 契約を終え商店に戻ってから、ティビーは彼女達四人を亜人ではなく魔物の領域にいた現地人ということで話は通したと話をしてくれた。どうやら海よりも深い溝(ノヴァーシュ)には逃げた奴隷や食い詰めた傭兵等一部の人間が細々と生活していることもあるらしく、怪しまれる可能性は高くないだろうとティビーは話してくれた。だがウィリスとレイはかなり容姿が優れているので気をつけた方が良いと言っていた。ヴォーネとピリリは孫可愛がりをするような老人の貴族と顔を合わせないよう気をつけてくれというティビーの言葉を聞いて、ヴォーネが少し悲しそうな顔をしているのが印象的だった。だが甘いものをあげるとすぐに機嫌を直したので、彼女にとってそれほど大きなことではなかったのだろう。

 なんにせよ正式な奴隷契約と証明書の発行をしたおかげで、バルパが殺されない限りは新たに他の誰かの奴隷になる可能性はグッと低くなった。例外はあるらしいが流石に細かな事例に対処しておけるだけの余裕をもたせる時間はなかった。

 契約だのなんだのと話を通し書類に書くために自分の名前を何度も書かされた。おかげで自分の名前が書けるようにはなったが、もう自分の名前はしばらく見たくない。そんな風にバルパが考えたのも無理のないことである。

 リンプフェルトに拘束されたのは三日ほど、そしてヴァンス達を探すために街を出てから更に四日ほど。海よりも深い溝をミーナと二人で歩いていた時間も含めるとかなり久しぶりの再会ということになる。だが数週間ぶりに出会ったヴァンスは彼の労をねぎらうでもなくふざけていた。そんな態度もヴァンスらしいの一言で片付けられてしまうのだから、それもまた彼という強者の持つ能力なのだろう。バルパは未だ足跡すら見えぬその頂の遠さを確かに感じ取った。

「なんとなくそれはわかっていた。だからヴァンスには何かが起これば自分が出るかもしれない、とそれとなく匂わせて欲しい。それならほとんど迷惑はかからないはずだ」

「えー、やだよー。ミーナのお尻揉ませてくれるなら考えるけど」

 スースが思いきりヴァンスの頬を叩いた、顔の右側に大きな紅葉が出来たので『紅』の四人がまたかと苦笑しながらポーションを取り出してヴァンスの顔にかける。

「ミーナが良いと言えば良いだろう。あいつのことはわからないが……そうだな、奴隷の四人なら身の安全と引き換えならば尻に触れる程度のことは許してくれると思う」

 尻に触られるだけで死のリスクが減るなら彼女達も嫌とは言わないだろうし、もし自分がその立場に置かれたならバルパは喜んで尻を差し出すだろう。

 それが人間や亜人にとっては屈辱であることを理解してもいたが、屈辱的でも生きていることの方が大事だ。背に腹は変えられないというやつだ、とバルパはルルに教えてもらった諺というやつを思い出す。

「ふむ、なるほど……」

「真面目な顔してスケベなこと考えてるねこれは、間違いない」

 まともに話の出来ないヴァンスをよそに、スースが一度乗り掛かった船だからとバルパ達に便宜を図ってくれることを約束してくれた。まぁこれでやるべきことは一番重要なことを除いて終わりだ。

「おいバルパ、それだけで終わりじゃねぇだろ。目ぇ見りゃわかる」

 ヴァンスがスースとバルパの話が終わったのを見計らって急に真剣な顔をした。相変わらず不真面目な癖に大事なところはしっかりと見ている師匠の姿を見て少し妙な気分になるバルパ。自分はそんなにわかりやすいだろうか……いや、ヴァンスが変なところで鋭いだけだろう。

 だが話をするならば早い方が良いと特に躊躇うこともなく口を開いた。

「ドラゴンをワンパンで殺したい。だから俺をもっと鍛えてくれ」

 ヴァンスは音を出しながら息を吸い、小さく口笛を鳴らす。そして頭の後で手を組んで……ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

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[一言]  正式な契約をするには助祭以上の人間と共に教会へ赴き、教会だけが持っている特殊な魔法の品マジックアイテムを使わせるためのお布施をしなくてはならないのだが、その変の煩雑な処理は手間賃を渡したら…
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