表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの勇者  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章 少女達は荒野へ向かう
106/388

ドラゴン基準

 力を失いその命を散らしたドラゴンが地に墜ちていく。先ほどまで青空を写していたはずの瞳が今は急降下し目まぐるしく動く視界と近づいてくる密林を写していてもなお、バルパはどこか他人事のように現状を第三者的な視点で見つめていた。バルパの体を覆うように光が発生することはなかった、どうやら既にバルパとドラゴンの間に隔絶した生物としての差はないらしい。魔力の上昇はしっかりと感じることが出来たが、彼の気は晴れない。

 勝利を、またしても自分の手で掴むことが出来なかった。防御は盾任せ、攻撃は剣任せ、移動は靴任せ、何も変わらない。限界まで魔力感知を広げると、いくつか近づいてくる反応がある。人か魔物かは今の探知能力ではわからなかったが、ドラゴンと戦闘した今の自分なら楽々と倒せるとでも思っているのだとすればそれはお笑い草だ。自分はほとんど損耗していない、戦っていたのは自分ではなく自分の魔法の品(マジックアイテム)達なのだから。

 魔力感知を鋭敏にし、魔撃を効率化し、魔法の武具なしでもある程度は戦えるようになった。ドラゴン以外の魔物なら大抵は倒せるようになったし、持続力も以前より上昇した。身体の限界ギリギリまで動きを加速出来るようになった、魔撃で曲芸じみた操作をすることも出来るようになった。

 だが、だが足りない。自分が学んだことは全て小手先の技術でしかない。それら全てが長期的にみれば間違いなく有用で、自分にとっても益のあるものであることは彼にもわかっていた。

 しかし少なくとも今バルパという一匹の魔物が求めているのは、そういった長時間戦うための継戦能力や危険を察知する能力の強化ではなかった。

 それはシンプルな力、ヴァンスのようにあらゆる艱難辛苦をその身一つで打ち払いドラゴンが我が物顔でうろつくこの魔物の領域をミーナを煩わせることなく駆け抜ける力だ。幸いなことに雑魚を一蹴するだけの力は身に付けている、そのことを少しだけ嬉しく思いながら自分と共に地面目掛けて落下するレッドドラゴンの死体を無限収納に入れた。

 突き刺していた剣に重心を預けていために体の軸がぶれたが、それも宙を数歩蹴りつけてバランスを取れば元に戻った。

 魔力感知を広げ確認するのは、まずはミーナの安否だ。

 ……大丈夫、問題ない。今このあたりにいる魔物は墜落したドラゴンと自分を目当てにするもの達と、そんな強者の戦いの余波に巻き込まれたくないとばかりに一目散に逃げるものの二種類しかいない。ミーナのいるあたりの魔物は既に逃げ散っており、少しばかり放置していても問題はなさそうだ。

 次に確認するのは近くの馬車とそれを守っているであろうあの多重反応の少女、そして羽根の生えた少女のグループだ。

「……急ぐか」 

 バルパは一度着地し、再度空を駆ける。そして中空から二人と二体のいる場所を見下ろした。彼女達のいる場所は自分とドラゴンが戦闘をした場所とかなり近い、故に自分達を狙っている魔物の通り道と彼女達の位置がガッツリ重なってしまっている。

 数十歩ほどの距離を置いて魔物達が少女達に近づいていた。恐らく魔物達も少女達の存在に気付いているだろう、このままでは彼女達の命運が尽きるのはそう遠くはないはずだ。

 だがもちろんそれを指を加えて見ているつもりはバルパにはない。彼女達は簒奪される弱者であり、魔物達は彼女達から奪おうとする強者だ。バルパには彼らを否定する気はないいし、それがある種正しいことであることも理解している。川が高いから低きに流れるように、強者は弱者を従える。今から自分がやろうとしていることは、その弱肉強食の原理を魔物達にも適用させてやるというただそれだけのことだ。それにそもそもを言えば彼らは弱った自分を目当てにきた魔物の群れである、ならば慈悲を向ける必要もない。

 強者に逆らう弱者がどうなるか思い知らせてやろうとバルパは魔撃を撃ち出しながら馬車目掛けて空を舞った。


 自分が空から二人と馬車のもとへと辿り着いた時には、既に羽根の生えた少女は意識を回復させていた。奇妙な反応の少女と人間の反応の少女は二人で息を合わせ近付いてくる魔物達相手に魔法を放っている。やはり威力は然程でもないが、手数が多いせいかある程度の足止めには成功しているようだ。

 魔力反応に引っ掛かっている彼女達目当ての魔物は大体百匹弱、まぁこの程度ならばさほど時間もかからず殲滅出来るだろう。

 バルパはドラゴン戦の鬱憤をこめて水の魔撃を放射状に放った。イメージしたのは水の刃、ドラゴンだろうと膾斬りにするほどの圧縮された水の刀剣。バルパが放った魔撃が少女達の魔法で若干怯んでいた魔物の胴体に当たる。威力を拡散しても数を当てるつもりで放ったので、第一陣と思われる魔物達のほとんどに命中した。

 紫色のローブを着込んだゴブリン、黒ずんだ葉をつけた鈍色の樹木の魔物、まるで柱に顔がくっついているかのような寸胴体型の巨漢の魔物等その種類は第十二層という深さだけあって中々に多様である。大きさも横幅も魔物ごとにかなりの違いがあるために、水の刃はあるものの額を、またあるものの膝をとバラバラの部位に当たった。

 そしてなんの抵抗もなくするりと体を通り抜け、その後ろで波状攻撃をかけようとしていた魔物の群れごと切り刻んだ。切断された体が地面に落ちる音と、血が吹き出る水っぽい音が森のさざめきを打ち消していく。

 どうやら思っていたよりも水の刃の威力が高いらしい。これなら土よりも水の属性に重点をあてて訓練をするべきかもしれない。いや、もしかしたらただ魔力をこめすぎただけかもしれない。

 バルパは呆けたような顔をして倒れている魔物を見つめている二人の近くに音もなく降り立った。

 そのまま虫の息となっている魔物と、体の一部を欠損してもなお突き進んでこようとする魔物目掛けて雷の魔撃を放つ。幸い彼らの移動速度は明らかに落ちていたから、魔撃の威力とイメージを固めて成型をするだけの時間はあった。

 ドラゴンと通常の魔物の耐久力の違いはいかばかりかと再び竜を模した魔撃を撃ち出し、元気に自分達のところへ向かってくる魔物達にぶつける。

 実際に生きている訳でもないし、彼の手を離れても制御が続く訳でもないのでただひたすらに前に突貫するだけなのだがバチバチと音を鳴らしながら迫ってくる竜の雷は彼らの心胆を震わせたらしい。第一陣の水の魔撃を受けた魔物達の全員に雷の魔撃が命中する、地面に辿り着いた雷が水を通りあたりへ広がり、撃ち漏らした魔物達とまだ攻撃を食らっていなかった魔物達へと伝播していく。攻撃を受けた魔物は体を炭化させ、声をあげる暇もなく息絶えていく。それを見た後続の魔物達が、高低様々な鳴き声を喚きながら逃げ散っていった。

「ドラゴン以外になら通用するんだがな……」

 特に生かしておく理由もなく、下手をすればミーナに向かっていく可能性もあるために後は速度に任せて背を向ける魔物達相手にひたすら雷撃を叩き込み続けた。抵抗の無い魔物を倒すのはそれほど快感ではなかったが、自分の魔撃がしっかりと魔物相手に通用するという事実はドラゴンへの攻撃でズタズタにされた彼の心を癒してくれた。

 優先順位をしっかりと決めている彼に手加減をするという考えはない。ミーナの安全と比べれば数百の魔物の命など塵ほどの価値もない。バルパは威力の向上もせず、ただ速度に飽かせて魔撃を連続で行使し続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
簒奪の使い方が全く違います 日本語検定をやるつもりは無いのですが、物語を読んでいる時にシラけて現実に戻されてしまいます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ