表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

竜は人を喰らう

作者: 蒼井陽貴



人口一万人ほどのベンゲルは観光都市だ。白い壁と青い屋根の街並みの中心に、液体につけられた竜がいる。この竜が観光地で、竜の鱗から作られたアクセサリーが観光土産になる。


『ベンゲルを訪れよ。さすれば神の使者に出会うだろう』


昔から伝わるよく知られた言葉だ。それほど長い間、竜はベンゲルで眠り続けている。



リセンタは九つで、初めてベンゲルを訪れた。右手を父と、左手を母と繋ぎながら興奮した足取りで竜をめざす。


「リセンタは怖くて泣いてしまうかもしれないわね」

母がそう言ってリセンタを見下ろす。リセンタと竜の対面を待ちきれない様子だ。


リセンタは口を尖りせ「泣かない」と言った。涙は度胸のないヤツが流すものだと、友達がよく言っていた。


「男勝りだから、惚れるかもしれない」


「かっこいいの?」


「かっこいいなんてものじゃない」


父は興奮を交えて言う。世界が変わるんだと。


リセンタは心待ちに空を見上げた。竜は知っている。竜は空を飛ぶ、大きな生き物だ。空にはいつも鳥しかいないから、父から話を聞くまで、飛べるのは鳥だけだと思っていた。


ベンゲルの白い迷路を進んでいくと、次第に頬を赤らめた人が増えた。彼らは興奮しながら、竜について話していた。


一歩一歩、足を進めるたびに胸が膨らむ。期待で目眩がして、リセンタは父と母の手を強く握りしめた。


ぱっと視界がひらけた。広場に出たのだ。丸い広場の地面は中心に向かって深くなっていて、階段のついた蟻地獄のようだった。そしてその中心に大きな円筒がある。そこに竜が眠っていた。


トカゲのような胴体に、コウモリのような羽。頭からは鹿のようなツノが生えている。それらは全て深い青色で、街の屋根よりも色鮮やかだった。竜は子供のように丸くなり、羽をたたんで寝ている。その大きさたるや、鋭い鉤爪だけでリセンタの身長を超え、近づけば仰いでも足しか見えないだろう。


「かっこいい」


リセンタは目を輝かせた。竜の鱗が光を反射し、円筒の中は青色に輝いている。まるで美しい宝石のようだ。


リセンタは父と母の手を離し、竜の元へ駆け出した。


竜の足元に白い影があった。


近づくうちにその正体がわかる。死んだ祖母を鳥に捧げたあとに残った物と同じ、骨だった。


リセンタは追いついてきた両親へ困惑の顔を向けた。


二人は事情を知っているようで、少しだけ困った顔をしていた。


父が優しく背中を撫でる。


「なんで死んだの?」


「竜に呑まれたのさ」


言葉の意味はわからなかった。リセンタはそっと、竜の眠るガラスに手を当てた。ひんやりと冷たい。竜とリセンタはこのガラス一枚に隔てられている。けれど骨の彼らは、同じ水の中で、竜と眠っているのだ。




スマホ内の小説が全て消え、やる気がなくなってから数年経ちましたが復活

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ