第31話 サキュバスでも恥ずかしい
トウキョウのゴブヤ。ここでは毎年、街をあげての仮装イベントが開催されている。
今回の任務は、サキと一緒だ。私たちはイベントエリアそばにある青いビル、そこの前で張り込んでいる。
「パイン」
任務中、サキは情報部隊のコードネーム“パイン”で呼ぶことになっていた。
「なに?」
仮装イベントに紛れ込むべく、サキはサキュバスの衣装を着ている。
私はいつもの仕事着――黒い服とスカート姿だ。見物客は普通の格好だし、目立たないはず……と、思いたいがサキが本物すぎて逆に目立っている。
「お前もあんな感じの衣装を着たらどうだ?」
私は面白半分に、遠くに歩いている同じサキュバス姿の女性を指さした。
大きく開いた胸元と背中、頭には角が生えている。サキの衣装は露出がほとんどないものだ。
「バカ、あんなの恥ずかしいじゃない」
さすがに本物でもあの姿は恥ずかしいらしい。私にはそのゴスロリ風の衣装も恥ずかしいのだが、感覚の違いなのだろう。
サキは堂々としており、顔を隠しつつも通行人から頼まれれば撮影に応じている。私は視線を再びビルへと戻すが、そのまま彼女と会話を続けた。
「売人の情報は確かなのか?」
「確かよ、私がこの目で確認したんだから。本当、あなたが逃がしたターゲットを見つけ出したんだから感謝してよね」
「ああ、わかってる。感謝してる」
そう言って、くすっと苦笑いをする。
なぜに恋敵となっている相手に感謝しないといけないのか。
そんな疑問が頭に浮かぶが、元はといえばターゲットを取り逃がした自分が悪いのだから仕方がない。
「ところでさ」
サキが私の肩を掴み、話しかけてきた。
「なんだ?」
「ライラさんとベルさんから聞いたんだけど」
またその話か、私はその噂話にはうんざりだ。そう言わんばかりに「ちぇっ」と舌打ちをした。




