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勇者が抱えた不安

 リデが僕達から離れてしばらく経った、あれから僕達は魔界に赴いては調査、魔物討伐を繰り返している。


 魔界は広く、何より魔物はこちらに現れる個体より獰猛だ。いきなり魔王の元へ辿り着くというのはできない。だから僕達勇者は、このリスティアの街に居を構え、魔界の魔王城への侵攻ルートを探し、拠点として機能できる比較的安全な場所を探し、そこからリスティアを繋ぐルートを確保する。


 それを繰り返し、魔界に侵攻していくのが今の僕達の仕事だ。あとは、冒険者達による開拓により、さらに生存圏を増やしていく。


 リデとの第一次遠征で、彼をこれ以上頼るわけにはいかないからと突き放し、僕達は今第二次遠征を完了し、拠点とするリスティアに帰還した。


「そんな事が起こっていたなんて……」


 帰還してすぐ、拠点には僕宛の手紙が一通届いていた。差出人はリデ、蝋の封印が国家の機密印だった為、誰も検閲ができない手紙だ。


 急ぎ僕はそれを開けば、帰路を行くリデが、未だに聖都に帰還していなかった事、さらにはノプラド村周辺にて、聖教会の汚職による魔物の再発生、リースタットのエルフ集落が襲撃されていた事実を知った。


「で、リデは無事なの?経過は?」


「心配はないみたい、ただ、頼みにエルフ達をリスティアにて匿って欲しいと、さっき書状が来たからサインして渡したから、もう問題ないと思う」


 同じ机上にて話を聞いていた僧侶ファラは、リデの安否を確認した。


 ファラはそれを聞いて胸を撫で下ろした。まさかこんな事態になっていたなんて、思いも寄らなかった。


「手紙によると、彼はそのまま帰ろうとしたけど、ノプラドの一件もあって、そのまま来た旅路を確かめながら帰るそうだ、で……今は……ザンビゴファミリーを潰すと」


「一人でか!?」


 話を遮るように、入ってきたのはエドだった。


「いや、現地で協力者を集めると、ご苦労さまエド」


「あぁ、で……どうする、助けに行くのか?」


 エドもまた椅子に座り、僕に尋ねた。遠征を一時休止して、リデの助けに向かうのかと。


「それしたら、僕らが殺されるだろうさ、リデならそうする……」


 僕はファラとリデに、知れた事ときっぱり言い放った。今までだって、こんな仕事をしていると知りながら、手伝おうとしたら冷ややかに拒絶されていた事を知っている。


『勇者が自分の仕事投げ出すな』


 旅路で何度、この言葉を聞いた事か。


「何もできないのかしら、私たち……」


 ファラの言葉にエドが顔を曇らせた。エドは特にリデを敬愛していた節があったのを、僕は知っていた。言いかねないな、僕が助けに行くと。


「何もしない、をするしかない」


 しかしエドは、拳を握り、自らに言い聞かせる様に頷いた。


「リデさんは……いつだって何か考えて、何か理由があって行動する、僕たちが向かったら……リデさんの考えを狂わせるかもしれない」


「エド……」


「僕たちはこのまま、魔界を遠征して、魔王城を目指そう」


 そうだろう、ジン?僕を見てリデがそう呟いた。僕は、僕も今すぐリデに加勢したかった。


 自分が救った村が、集落が、またひどい事になっているのだ。それを助けに行くのが、民草の命を守るのが、勇者ではないかと。


『違う』


 リデは僕にそう言った事を思い出した。


『勇者の責務は、魔王を討ち、世界の希望となる事、その為には……民草の屍を時に踏まねばならない』


『民草を助けるのは騎士が助ける、勇者は純白のマントを羽織り輝き続けねばならない、シミの一点、血の一雫たりとも付けてはならないのだ』


『そのかわり、汚濁と罵声、血飛沫の一切は俺が受けてやる、だからお前は魔王討伐のみを考えろ』


 旅路の中で、彼が僕に語った事だ。僕はシドに頷いた。


「このまま第三次遠征を予定通り決行する、ファラ……確か皇国に送るリデの正式な離脱書類、あったよね?」


「あ、あるけど」


「まだ出さないで、絶対……リデは在籍の状態を望んでいるらしいんだ、そうしないと行動に制限が掛かるらしいから」


「反勇者派の貴族どもが気付いたら?」


「単独任務を命じている、これで行こう、叱責されるまではそれで」


 僕はとりあえず、リデが自由に行動できる様に取り計らう事にした。本来、この旅の同行者が入れ替わった場合や抜けた場合、皇国に書状を提出せねばならない。


 一応、人数に応じて定期的な資金も、決まった日にちに書状を渡せば各地の銀行から引き取れるが、それが一人分多くなる為横領になるからだ。


 しかし、勇者である僕が『国内に魔族の気配あり』としてリデを、別任務として派遣した形にすれば、一応の体面は保てるだろうと僕は考えた。


 それももって一月だろうか……それまでに事が終わればいいのだがと、僕は手紙をしっかり懐に押し込んだ。


「本当、ジンはしっかり勇者やってるな……真勇者との事を思い出すよ」


「ん、あぁ、あの子か……今でも恐ろしいな、魔王が出てきて休戦中であれ、クーラントが敵国だと改めて感じたよ」


 エドの過去話を聞いて、僕は身震いしてしまった。今でも、あの時の恐ろしさに肝が冷えてしかなたない。


「女神を介した異界からの勇者召喚……もしも、リデが居なかったらと思うと、気が気で無いよ」

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