女嫌いと天才の孤独
役所から走って荷馬車に向かう。視線の先にはソージュとペリルが走っている。
走る後ろ姿もイケメンだ。足が長い
「アウスリーベン様がいらっしゃっているわ!どこにいるのかしら?」
「奥の部屋よ!急がなきゃ!ペリル様もご一緒のようよ?」
走り抜ける時に、役場の事務室から騒めきと2人を探そうとする令嬢の声が一瞬聞こえた
「チャコ、スピード上げるぞ?」
エストラゴンが私を抱えたまま走っているので、落ちないようにギュッ捕まった。
私は、走れば誰よりも速いけど、運んでくれるなら甘えてしまおうと思ったので、大人しく抱えられている。
「いないわ?どこよ?」「そんなはずないわ」「サインしてあったわ今の事よ?」「先程走り抜けた二人組じゃない」「馬車を探さなきゃ」
「マズイか?オリガン!!!いくぞ!」
エストラゴンがナンパ中だったオリガンに大声で指示を出す。
ソージュ達はあと少しで荷馬車だ
「あの2人じゃない?」「そうだわ」「きゃー!ソージュ様ぁ!」「ソージュ様がいらっしゃるわ!」「ペリル様ぁ!」
気付いた瞬間から、どわっと黄色い声に厚みが増した。オリガンが慌てて御者台に飛び乗る
「あん、行ってしまうわ!」
ソージュとペリルは荷馬車に飛び乗り中に入った。馬車は既に発進している。
馬車の進んだ後には、取り残された令嬢達がわさわさいる。
「行っちゃいましたけどどうするんですか?」
歩みを緩めたエストラゴンに尋ねると
「こんな事は、いつもの事だ慣れとる。こんな時用に、大体落ち合う場所が既に決まっとるから大丈夫だ」
エストラゴンは慣れているのだろう。私を抱えたまま役所を出た。
ざわついていた役所前の令嬢達がこちらに目を向けているが、その目はエストラゴンに向かう。その目には畏怖が宿っている。
「見られてますね?」
エストラゴンは、気にした様子もなく、スタスタと歩いて行くから、令嬢達の人垣は自然と左右に割れていき進行方向に道が出来た。
「こんな物はいちいち気にしちゃならん。石ころだと思っておけば良い」
エストラゴンはそう言い捨てて、令嬢達の前を何食わぬ顔で素通りして行く
「あの2人は……本当に凄いですね?」
そのまま歩いているエストラゴンに思わず話しかけると
「奴らはちょい特別だろうな。特別故にちぃとばかし歪んどる。
チャコにはしょっちゅうちょっかいをかけに行く様だが普段はそんな事しないな。自ら行くのはオリガン位だ」
以外だ、ペリルも自らだと思っていた。
「ペリルもナンパするんじゃないの?女と見れば見境なく口説くって……前にソージュが言っていたわ?」
違うの?
「ペリルは、よって来る者しか口説かないが、ほとんどがよって来るからな?
結果見境なく口説く事になるだけだぞ。オリガンとは格が違う」
そうだったのか。
でも、確かに納得かもしれない。
「さっきはソージュがいたから逃げたが、ペリルはケムに巻くのがうまいから、アイツは囲まれても無傷だ」
無傷って、随分と過激な
「無傷って……令嬢相手ですよね?」
令嬢達ってそんなに激しいの?
「以前ソージュが逃げ遅れたとか時は、服が引き裂かれてえらい事になって、ペリルの魔法で救出した事もあるぞ?」
え?それは流石に酷い、ソージュ可哀想に
「そんな事ばかりだから、ソージュは女性が苦手になったんですね?
仕方がないかもしれない
「苦手なんて可愛いもんじゃないな、嫌悪しとるぞ?だからチャコは本当に特別なんだ。
その、わしが言うのも何だか、あの2人の傷を癒せるのはチャコだけかもしれん。
バカな奴らだが面倒見てやってくれんか?」
エストラゴンは2人を心配しているのだ。
「ソージュが嫌悪してるのはわかります。ペリルもなんですか?
彼は物凄く女慣れしてるし、あしらい上手なんですよね?」
ペリルの傷は想像付かないわ?
「ペリルはな、天才故の孤独だな、奴は本当に何でも出来てしまう。
頭の回転も、観察眼もある。故に、昔のソージュもなんだが、相手の望みを見分けてしまい、それをとっさに演じてしまう」
それは……自分の意思がわからなくなるわ
「相手を理解し過ぎてしまい、裏の顔が見え過ぎるんだ。貴族令嬢なんざ、皆裏の顔を持っとるが……ソージュを守りたかった奴は、幼少期から色々見過ぎてな。感性も感情も笑顔に閉じ込めてしまったんだ」
見たくない物を見続けたんだ……キツイな
「一見、ソージュの方が大変だが、親からも放置されて来たペリルの方が、傷はデカい」
確かに、ソージュは人嫌いだけど、きっかけさえあればなんとかなるんでしょうね。
ペリルはそんな風に見えなかった……
でもそれが彼の傷になる原因なのかな
「私に何か出来ると思わないけど、2人には笑って欲しいわ?どうすればいいのかしら?」
簡単な事ではないわよね
「チャコはそのままでいい。奴らに構われ嫌なら嫌とハッキリ言っていい。
人に疲れてしまった奴らは、チャコの裏の無い所に惹かれているのだ。
だからそのまま素直でいてやってくれ。時間はかかるだろうが、信用出来る人も居ると教えてやってくれんか?」
それは……私、帰れなくならないかな?
「約束は出来ないわ。だって向こうに帰るかもしれないし」
適当な事言えないよ?
「わはは!それでいいんだよ?その素直さがいいんだ」
エストラゴンがワシワシと頭を撫でる
「奴らが本気なんだ、チャコは帰れなくなるとわしは思っとるぞ!」
何だかご機嫌なエストラゴンに抱えられたまま、気付けば目の前に荷馬車があった。
決めていた場所で、ペリルが荷馬車に魔法を掛けて隠していたようだ。
エストラゴンには色々言い返したい事もあったけど、そのまま2人で荷馬車に乗り込んだ。




