僕は、身の程を知っている
ソージュ様は真剣で、僕に懇願するような眼差しでお願いをして来た。勿論、僕だって彼女を引き止める事に異論はない。
「……ソージュさ」
ドンドンとドアを叩く音に、声がかき消される
「おい!ソージュ!ペリル!何してる!早く行くぞ!!」
チャコは書類を書き終えたらしい。
ソージュ様と目を合わせやれやれと首を振り、諦めて防音を解消した。
「お互いに頑張りましょう」
僕は、ソージュ様の肩をポンと叩きドアを開けた。
扉を開けると、眼前にエストラゴンの胸板が迫っている。余りの近さに驚き、一歩下がると
「2人とも何しとるか?!早く行くぞ!」
と怒鳴られ、頭を鷲掴みにされ部屋から引っ張り出された。
横を見たらソージュ様も同じ扱いだった。
思わず笑ってしまう
「エストラゴン、痛いじゃないか!少しくらいは待てるだろ?」
ソージュ様がイテテといいながら、チャコの側に近寄って行った。
「チャコ、書けたか?」
ソージュ様は背が高いから、チャコの手にした書類をチャコの真上から覗いている。
チャコは目を見て話す癖があるのに、ソージュ様が真上にいるので、彼女は見上げるのが辛そうだ
「ソージュ様、チャコの首が可哀想ですよ」
好きな子なら、ちゃんと配慮して下さいね?
と思いを込めてにっこりしたら、ハッとして自らの位置を下げた。
チャコがそれに気付き、僕を見てにこっとした。
「ペリル、首痛かったから助かったわ!ありがとう」
首をさすりながら、ソージュ様に「首痛いから縮んでください!」と文句を言っている
——これなんだよな
チャコはいつも僕の配慮に気付く。
言葉にしなくても目で、礼などの態度で感謝してくれるのがわかるんだ。
「ペリル、縮む魔法はあるのか?」
ソージュ様が……バカになっている
「あっても使いませんよ?大きい方が屈めばいいだけでしょう」
僕は、褒められたくてやっているわけではない。
——僕なら出来て当たり前だから。
でも、チャコに感謝されて、嬉しかったんだ。
女性は皆、僕の容姿、能力、家柄を望み、僕に尽くされる事を望む。
表面的に当たり障りなく、近づきすぎない程度に、望む物を与えると、大体皆流れてくる。
流れてきた奴等はすぐに欲を出す。
あれをして欲しい、これをして欲しい、から、
何でしてくれないのか?に変わる
僕は一貫して同じだけの労力しか割かない。
自分が欲深になった事には気付かない。
自分は尽くされて当然だと思っているのだろう。
「おい!いつまでも戯れてないでいくぞ!」
エストラゴンは限界のようだ。
「ほら、ソージュ様、チャコ、エッさんが暴れる前に行きましょう」
チャコを見ると、ソージュ様に何か言われたのか、真っ赤になって拒否を示している。
そもそもそれが凄いと思う。
——なぜソージュ様を拒否出来る?
チャコがピャッと音が聞こえるような動きでエストラゴンの陰に隠れた。
ソージュ様がそれを見て項垂れている。
ソージュ様は、僕には勝てないなんて言うが、あの人は自分の存在を見誤っている。
ソージュ様に限っては、彼が求め口にする唯一の存在がガードになっているだけで、それが無ければ確実に無双出来る。
ハーレム王の血を舐めてもらっては困る。
彼が自分の魅力に気付き、自信をもち、自分の全てを許容し、それを活用する様になれば、きっと手に入らない物はない。
でも、それをしないのがソージュ様なんだ。
だからこそ、僕は彼を信じられるし、支えていきたいと思っている。
項垂れたソージュ様の背を押して玄関へ向かう。
外に出るのは気が抜けない。先を急がなければ。
エストラゴンと歩くチャコを見つめる。
チャコは心の傷がある間は、彼女は僕の事を受け入れてくれるだろう。
勿論僕はそれを利用するし、僕はチャコの心を癒す為になら全力で行くよ?
でも、傷が癒えたら、彼女は女性を利用し食い物にしてきた、汚れきった僕ではなく、ただ1人を求めるソージュ様の心に惹かれるだろう。
チャコは、この先必ずソージュ様を好きになる。
——そんな事わかっている。
でも、ソージュ様が許してくれてる限り、今はまだあわよくば僕はチャコを狙って行くよ?
チャコの側に行き、僕は問いかけでみた。
「チャコ、覚悟はできたかな?」
彼女の目を見て僕の心を伝える様に見つめた
「大丈夫!覚悟はバッチリ?……です?」
勢いよくガッツポーズで振り向いて、チャコは僕の目を見て固まる。
チャコはどうする?
「……ペリルの考えている事まではわからないけど、強い意志を感じた!とりあえず私も、頑張る!」
ムン!と得意気に細い腕を突き上げたから
「えいっ!」
嬉しくて、悔しくて、なんだか腹が立ったから、チャコが拳を上げて隙だらけになっている脇の下をぷすぷすついてやった
「きゃー!ヤメテクダサイ!」
おかしな動きをした彼女をアハハと笑って、
皆の安全のために、僕は先頭を足早に歩いた。
ペリルは実は色々背負い込んでます。自ら汚れ役買うタイプです。平気なふりしてるうちに麻痺してます。




