家族の在り方は人によって違う
食事中なのに泣くなんて、と、頬に流れる涙をゴシゴシしていたら
「チャコ、ちょっとこっちにおいで?」
ペリルに手を引かれ、そのままソファまで連れてこられた。
「……食事中ごめんなさい」
子供みたいに泣いて、申し訳なくなってきた
「チャコ、いいんだよ?さっきも言ったけど、僕らはもう家族の様な物だよ。前に言ったよね?ソージュ様は人嫌いだったって、僕ですら、側にいるのは許されるけど中々難しかったんだよ」
——確かに言っていたわ
「僕達は、あくまでも仕事の関係で、能力によってまとまった存在だと周りは思ってる。実際、そのように思われるように仕向けた。ソージュ様を守る為にね?あの人は無意識で優しいから、それを見せないためにも、外ではお互い距離感をわざと開けているんだ」
そう……だったんだ
「実際は、皆ソージュ様に集ってるんだよ。エストラゴンはソージュの才能に惚れ込んで、自分が育てたから可愛くて仕方がないし、僕もソージュ様を助けたくて、笑って欲しくてついて来たしね?オリガンは純粋にリスペクトしてる」
確かにオリガンは前にも言っていた。そうなんだ、皆そうだったんだ。
「でも、実際蓋開けたらさ、エストラゴンはどう見ても僕らの父親だし、ソージュ様と僕はいつもエストラゴンに怒られて、たまにソージュ様に僕とオリガンが怒られて、僕がオリガンに八つ当たりしたり揶揄ったり」
あ、関係だけ見ると、本当によくある家族だわ
「ね?ただの家族なんだよ。実際、ソージュ様にも僕にも、血の繋がりのある家族がいるけど、10歳から離れて暮らしているんだよ?エストラゴンなんか僕が3歳のころにはずっと一緒にいたんだよ。そうなると完全に父親でしょ?なのにエストラゴンは俺に子供はいないなんて言うんだよ?酷くない?」
ペリルはぷぅっと膨れて見せた。
「チャコは、向こうの世界で1人だったよね?色々合ったのに良く頑張ったね?僕ね、資料館で何でチャコが勇者なのか考えたんだ。もしかしたらって」
何か気付いたのかな?
「何で私だったのかな?」
できるなら納得できる理由が欲しいよ……
「僕の仮説ね?ソージュ様、女神様に愛されてるだろ?多分、僕もかな女神様に愛されてるんだよね。で、その2人が揃って愛の国から逃げ出した。1人は人嫌いに、1人は自分で言うのも何だけど、惑わしはするけど愛する事はない。愛の女神のご寵愛が過ぎる2人が、揃って愛を否定してるんだ」
——2人は違うようで似てるんだね?
「きっと女神様が見かねて、勇者召喚時に僕達が放って置けなくなる様な存在として、チャコを選んだんじゃないかな?愛の女神だからチャコに対しては、頑張ったねって妹の魂も呼び寄せたのかもよ?女神様だから歴史や記憶の改竄なんて簡単だろうし。人1人くらい何とでも出来たのかもしれない」
ティト……あの子も辛い人生だったわね
「ティトも、前世頑張ってきたからご褒美だったのかな?だから時空歪めてまで転生したのかな?」
だったらいいな。彼女が幸せになるなら
「そっか、ティトちゃんも?愛の女神のお導きかも知れないね?でね、チャコが来てくれた事で、僕とソージュ様ね、また子供の頃のように付き合えるようになったんだよ?オリガンも近づいて来たし、エストラゴンなんか、完全に悪ガキ2人相手していた時に戻ってるよね?僕もそれが嬉しいんだ」
ペリルが子供のように幸せそうに笑う
「僕達はチャコにはお礼をしたい事が沢山あるんだよ。僕、何度も家族だって言ってるけど、チャコはどうやったって僕等の家族なんだよ。エストラゴンの娘になっても家族でしょ?ソージュ様の嫁になっても家族だし、僕と結婚しても家族だし、あ、でもオリガンは選んだらダメだよ?」
しっかり駄目出しされてるよオリガン……
「ふふ、オリガンダメなんだ」
思わず笑ってしまった
「ダメだよ?あんなナンパ野郎、下心スケスケだし。あいつは顔だけだよ?」
酷い言われようだ
「ソージュとペリルは違うの?」
下心、いつも見せてるよね?何がちがうの?
「ソージュ様も僕も真実の愛を求めてるから、下心なんてないよ。実際直接言葉にしてるでしょ?隠してないよ。隠す必要もないしね?」
確かに一緒に風呂入ろうだしなぁ……
ソージュに至っては「やる」って言い切ったし、ダメだ笑っちゃいけない
「くぷぷぷっ」
こらえ切れず笑いがこぼれてしまった。
「チャコ、笑うならちゃんと笑われたほうが相手は傷つかない物だよ?」
ペリルが、ジトっと見て来た。
「あはは、ごめんなさい、本当に2人揃って直接的だったから、何だか可笑しくて」
本当に、ソージュとぺリルは違うようでよく似ているわ。
「僕達が口説いてるのに笑うの、チャコ位だよ、ねぇ?ソージュ様」
ペリルが、ソージュに話を振った。
「チャコ、良かった笑えたな?よし、ペリル戻ってこい!」
ソージュに呼ばれたし、私も落ち着いたから席に戻る。戻る間ペリルが手を繋いでいてくれた。
「ペリル、ありがとう」
感謝の気持ちを口にすると
「感謝は今度ベッドの上でして貰うよ」
と言って繋いだ手にちゅっと、わざと音を立ててキスをして笑顔で席に戻って行ったら
「ペリル、お前、やりすぎ」
と、ソージュに”ゴチン”とゲンコツされていた。ペリルは痛いよーと言いながらも笑っていた
「チャコ、これ」
ソージュが何かを私の前に置いた。
「これは……アイス?」
アイスクリームなんてあったかな?
「今、作った」
え?ソージュ作!
「え、今?早くないですか?作れたんですか?」
凄い!え、凄いよね?
「昔、良くペリル泣かせちゃって、謝る時に作っていた事思い出した」
それを聞いたペリルが目を見開いた。
「ソージュ様……覚えていたのですか?」
ぺリルは嬉しいのか悲しいのかわかりにくい表情をしている
「忘れた事はないよ?言わなかっただけだ」
ソージュはそう言って、ペリルの前にもアイスを置いた。
「……ありがとうございます」
今度は、ペリルが泣きそうだ
ソージュが、オリガンとエストラゴンにもアイスを配った。
「あの、泣いちゃってごめんなさい。本当に幸せすぎて涙が出ただけだから。その、色々ありがとうございます」
私は座ったままだけど頭を下げた。
「チャコ、明日、ヴァルドに着いたらすぐ養子縁組するぞ!断りは聞かん!」
エストラゴンが宣言した。
「断ってもいいんだよ?」
ソージュは心配そうにこちらを見る
「もしも……元の世界に帰る事になっても、許してくれますか?」
エストラゴンの目を見て尋ねる
「構わない。ただ、嫌だから暴れるかも知れん。その時はソージュ、ペリル、お前らがわしを止めろ」
嫌だ!とそっぽを剥くエストラゴンの姿に、むしろ暖かさを覚えた。
「誰よりも私が1番力が強いから、もしこちらが嫌になったら、パパを倒してから帰ります。だから娘にしてください!」
私は、皆の温かさを感じ、にっこり笑って宣言した。
「チャコ!おれの娘だ!お前ら!家族が、増えたぞ!」
私を軽々持ち上げくるりと一周して椅子に戻してくれた。
「食事の続きだ!せっかく作ってくれたんだ。皆で食べような」
エストラゴンが、優しく頭を撫でてくれた。
「シチュー、全く冷めてないのはなぜ?」
よそった時のままほかほかだ
「スープボールにも時止め付けといたからね?」
ペリルが、ニヤって笑う
「じゃあ、アイスも溶けない?」
ソージュを見たら
「大丈夫、ゆっくり食べような?」
と、やっぱり優しく撫でてくれた。
オリガンは、ちらっと見たが、実に美味しそうに食べている。放置しても良さそうだ。
何だか嬉しくてウキウキして来たら、今まで食べたシチューより、うんと美味しく感じられた。




