最強の男

　街に入る為の大門が見えてきたので、兵士達は一斉に頭に装備を装着する。

　それまでは各々自由に馬を走らせていたが、装着後は隊列を整えて進軍する。

　隊長を先頭に２列目の中央に僕、左にエストラゴン、右にオリガンが並び、その後は三列に並んで大門まで進んでいく。

　先頭を走るソージュ隊長は、研ぎ澄まされた圧倒的強者のオーラを纏っている。

　先程、小さな少女に邪険に扱われて、凹んでいた情けない姿とは雲泥の差だ。

　そもそもソージュ隊長を邪険に扱う人など、この国にはいないのでは無いだろうか？女性ならば、そのようなことはありえないのだが……容姿は勿論、言うまでもなく圧倒的に整っている。

　家柄だけでも、あやかりたい者は多いはずなのに……

　能力に至っては、人としての領域を遥かに超える程の実力者だ。前隊長のエストラゴンもその昔、あまりにも強すぎたため、魔族からも大魔神と呼ばれていた。

　大魔神は強く、1人で魔族の小隊を軽く潰せる程だった。

　

　そんな大魔神が、公私混同、心血注いで鍛え上げたのがソージュ隊長だ。

　ソージュ隊長は二年前に、大魔神エストラゴンと隊長の座をかけた試合で勝利した。実際は、エストラゴンがソージュ様に隊長の任を任せたくて無理やりけしかけていたのだが……

　見る物が恐怖を感じる程の圧倒的な勝利だった。

　「エストラゴンにはめられた」と後から裏で、ぼやいていたのを今でも鮮明に覚えている。

　それ以来、容姿の良さに擦り寄っていた者達は、憧れと共に恐れも感じるようになっていった。

　ソージュ隊長は、強すぎて1人で何でも出来てしまう。

　いつも、他の者達が手を出す前に、一人で終わらせてしまう。

　それでは隊の兵力が低下してしまうと、エストラゴンに言われ、最近は後方で援護に回っている。オリガンと僕はその隊長の補佐役だ。後方支援の役を貰ったけど、思った以上に暇だったりする。

　正直、今の隊はソージユ隊長とエストラゴン、オリガンと僕がいれば、魔物も諸外国にも対抗出来る。

　隣の軍事国家のフェルゼン国の精鋭部隊を丸ごと潰すとなると、一人ではちょっと厳しいくらいで、４人一緒なら潰せるのではないだろうか？

　戦神ソージュ隊長、

　大魔神エストラゴン、

　守護神オリガン、

　大魔道士ペリル

　これらは他国から、僕らに付けられた二つ名だ。

　僕は周りから大魔道士と呼ばれているけれど、戦いにおいては、広範囲殲滅魔法と瞬間治癒魔法が役立つ位だと考えている。

　簡単に言えば、大きな攻撃と早い治療。他に比べたら大した事は無いと自分では思っている。

　他国からは、単体で世界征服が出来ると思われているけど……

　今日の討伐も、ソージュ隊長と僕が現場にいたら、秒で終わってしまうから引っ込んでいろと、エストラゴンによって、櫓に詰め込まれた。

　僕とソージュ隊長はピンチ要因らしい。僕はいても良いのでは？と思ったけど、瞬間治癒魔法は普段から使うなと、これもエストラゴンによって禁止された。

　すぐ治療をすると、実力のない奴が命を捨てる戦い方を覚えてしまうので、良くないのだろう。

　後方支援でソージュ隊長達と過ごすのは居心地がいい。隊長は人嫌いだから、基本的には無駄に関わって来ないし、オリガンは脳筋だからあしらい易い。

　今日も、兵士たちが大型魔獣と戦闘していたのを櫓の上で観戦していたんだ。万が一負傷者が出ても、魔法を飛ばせばいいかなと思っていた。

　そんな時、ソージュ隊長が、農村出身の小さな迷子の娘を連れて来たから驚いたんだ。

　ソージュ隊長は人嫌いで、特に女性は何より遠ざける人なのに……

　パッと見た時は、格好から少年かと思ったけど、話声や身体つきで女性であるのは一目瞭然だった。

　しかも、ソージュ隊長が甲斐甲斐しく世話している。その姿を見た時は、余りにも驚いて魔力が暴走するのではないかと思った。

　「ソージュ様が警戒しないなんて、彼女は、何者なんでしょうね……」

　オリガンは相変わらず空気読まずにナンパしていたけど、それを咎める隊長すら珍しくて、僕も反応が見たくてつい構いに行ってしまった。

　この僕が、ソージュ隊長に女の件で怒られるとか面白すぎた。

　それに、まさかオリガンと同列の女好きだと思われていたとは……

　しかも、ソージュ隊長は、彼女をかなり幼いと勘違いしているように感じたけど、彼女は身体が小さいだけで、立派なレディだよな？

　彼女は僕と年齢的には変わらない気がする。

　彼女の本当の年齢を知ったら、ソージュ隊長は大丈夫かな？無意識だったのだろうけど、イタズラで指先にキスしてたし。

　小さな少女を揶揄ったつもりだろうけど……あれは、本能的に……

　今日はソージュ隊長の自宅に連れ帰ると言っていたけど、彼女の貞操は大丈夫だろうか？

　まあ「滅べ」と言われるくらいだし問題無いかな？

　そもそもソージュ隊長はあの顔だから、この国の女の子は皆、好きになるのが普通なのに……

　それが「イケメン　コワイ　ホロべ」とか言うし。

「変わってる子だよな？」

　エストラゴンを見ても恐れなかったよな……

　大概エストラゴンと初対面で向き合う人は、強者の圧に負けて、女子供なら泣くか漏らすか固まるんだけどね？

　僕が子供の時ですら初めは緊張したのに、さっきはソージュ隊長に暴言はいて凹ますし、あのエストラゴンにも懐くし

　チャコってもしかして最強なのかな？