魔道具店ツァオバライ商会
エストラゴンの養女発言で、昨夜の盗聴に対するお互いの気まずさは霧散した。
揃って朝食を取った後、宿を出る。
ソージュは来た時と同じく、認識阻害眼鏡を掛けてサッと荷馬車に乗り込んだ。私も念の為ペリルから貰った認識阻害眼鏡をつけて後に続いた。
荷馬車はオリガンが御者をする。
「今から向かうのがアルゼがいる商会ですか?」
早くからお仕事頑張ってるんだな
「ツァオバライ商会だよ。僕の父が創設して、各国に任せられる人材を派遣してるんだ。ゴルドファブレンの商会長は元は父の右腕だった人だよ」
ペリルの実家の家業の様だ。彼もボンボンだった。
「他所の商会より、ツァオバライは商品が充実してるんだよ。右腕の者が会長だからアウスヴェーク家の直属感が強いんだな」
ソージュは何度も来たことがあるのかな?
「実際、義理とはいえ娘が直接動いてますし、各国の売り上げを見てもここが一番高いですよ?」
売り上げNo. 1の店舗って事かな?
「ペリルはよく顔を出すの?」
商品知識はあるのかな?
「この国に来た時は、必ず寄るようにはしているかな。以前にも商会でアルゼと会うことはあったよ」
その頃はまだ、アルゼの事を実妹とは知らなかったんだよな
店舗前に、荷馬車が止まった。
振動が来ないから分かりにくいけれど、空気の流れが止まったので気付いた。
「着いたな」
外に出ると、そこに広がっているのは、中央に大きな噴水がある噴水広場だった。
「綺麗な噴水広場ですね?」
噴水も念入りに手入れされてるわ
「ゴルドファブレンは水も豊富だ。ここ以外だと王宮にも宮殿の中央に立派な噴水があるぞ?」
エストラゴンは王宮にも出入りしていたのか……
「水もってことは、ここは他の資源も豊かな国なのですか?」
だとしたら、とても恵まれている国なのね
「ここは、海と山にも隣接しているから、食材も鉱物資源も豊富だと聞いたな。学園では教育に力を注いでいるが、それが無くとも十分に豊かな国だぞ」
周りを見渡すと、広場を行き交う人々は、確かに身なりも子綺麗だ
ペリルに案内されて、倉庫っぽい建物の中に入ると、壁に対して等間隔に陳列棚が棚があり、区間毎に商品が分けられている。
「若様、おはようございます。お連れようにご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」
若様……そうか、そう呼ばれているのか
「ああ、よろしく」
店の入り口で待機していた壮年の男性が、ペリルに話し掛けている。
——この人が右腕の人かな?
「皆様、本日は、ツァオバライ商会にご来店頂き誠にありがとうございます。商会長を務めさせて頂いております。デアマギアと申します。何かございましたら何なりとお申し付けください」
いかにも仕事が出来そうな紳士的な人だ。こちらにも丁寧に礼をしてくれた。
「どうぞこちらへ、商談室にご案内いたします」
商会長は、さっと踵を返し先を歩いていく。
案内された先は広い応接室だった。調度品は見るからに豪華だけど上品でセンスが良い。案内に従ってソファーに座ると、宿泊した宿の物とはえらい違いだった。
「こちらがご依頼の品です。全て揃いましたのでお納めください」
卓上に綺麗な箱が置いてある。
確か購入した時は木のささくれた箱だったけど、丁寧に塗装された箱にナイフ達は収納されていた。箱もわざわざ購入したのかな?
よく見たら、箱に商会のロゴらしきものが記載されているのでサービスのようだ。
「チャコ、撒菱は?」
ペリルに促され、カバンから撒菱の箱を出した。
「これもお願いしてもいいですか?」
デアマギアは撒菱の箱を預かると、
「一旦お預かり致します。」
丁寧な手付きで箱の中を確認している。
——撒菱が高級品のように見えるわ
「この数でしたらさほどお時間は掛かりませんので、暫くこのままでお待ちください」
デアマギアは箱を抱え、頭を下げて奥に向かった。
「あの方は、商売人とはいえ物凄く丁寧な方ですね?」
彼は、すべての動作の端々が洗練されていた。
「デアマギアは元々家に仕える執事の1人だったんだ。商才を認められて商会長になったからね」
貴族の執事か……納得だわ。
「あ、だから若様呼びなんですね?」
若様って何だか凄く後継者って感じがするわ。
「デアマギアがそう呼ぶから、他の商会でも若様呼びが定着しちゃって、そろそろ若くもなくなってくるんだけど、この先はどうするんだろうね?境目がわからない」
ぺリルは、何とも言えない気持ちなのか曖昧な笑みを見せた。
「確かに……若様呼びが無くなったら、年を取ったんだなぁってなりそう」
若様の次は……若くないならおじ様かな?
「……おじ様ではないと思うよ」
——何でわかった?!ぺリルが心を読んだ?
「チャコ、顔で返事しないで。チャコなら考えそうかなって思っただけだから」
ぺリルは笑いながら返事を返してきた。
「正解です!」
ペリルの観察能力は、凄いな
ふと、皆が静かだなと思って周りを見たら、それぞれ魔道具の記載されたリストを真剣な表情で見ていた。私は見てもよく分からないので、ペリルと喋っていた。
「チャコ、これはどうだ?」
ソージュが何か見つけたみたいだ。
「ん?軽量化魔導電熱温水器?長い名前ですね?温水器?お湯ですか?」
お風呂関係かな?
「これは、持ち運びできる湯沸器だね。ソージュ隊長、実物をみてみますか?」
湯沸器だった。お風呂ではなかったようだ。
ペリルが従僕を呼んで品を見たいと頼んでいる。
「チャコは、お茶が好きだって言っていたろ?宿でも、好きな時に自分で入れたかったのかなと思ってたんだ。火を使わないから室内でも湯が炊ける」
それは……あったら嬉しい
「それはかなり欲しいですね。でも、お高いのでしょう?」
それは、無駄遣いではないかな?
「ん?大した事はないよ?」
そうなの?ならいいのかな?
「そうなの?だったら欲しいですね」
皆にも、お茶を入れてあげよう。
「ソージュ隊長、こちらです」
ペリルが従僕から品を受け取り、ソージュに渡した。
「これか、どうやって使うんだ?」
ソージュは商品を手にぺリルに説明を求めた。
「ここの蓋をスイッチで開けて、この中に水を入れます。で、蓋してこの台座に置くと湯が炊けます」
ペリルが説明書を見ながらソージュに伝えているが……
どっからどう見ても『電気湯沸かしポット』だよ
発案者って……絶対アルゼじゃない?
ツァオバライ商会は、「以心伝心」の比較的序盤から出てくるお店です。アルゼも出て来ます。お時間があったらそちらも覗いて下さいね?




