天国と地獄を体験中
チャコの首元で拗ねた気持ちになっていたら、慰める様にポンと手を叩かれて、なんとも言えない気持ちになった。
チャコが急におとなしくなったので、腕の中にいるチャコの様子を伺っていると、
スースースー
……眠った?この状態で?
俺は今、ありえない現実を見ていると思う。
とてもやり切れない気持ちになり、チャコの頭にグリグリと自分の頭を擦り付けてやった。
「起きないのか……熟睡してるだと?」
チャコは走って疲れたのか、安心し切った顔でぐっすり眠っている。
俺は、自分で言うのもなんだが、近づくなオーラ全開でも、あちこちから女が寄ってくる。
それこそ鬱陶しい程にだ。
そんな俺が、わざと意識させるような態度を取ったり、言ったり、何なら触ったりしたにも関わらず、腕の中で安心し切っててぐっすり眠るとは……
随分と、馬鹿にされているのではないかと、もやっとする。
大体『イケメンムリ』とか『ホロべ』とか、俺を意識していた時は拒絶しておいて、落ち着いたら無関心とは……
だいぶ、かなり、おかしく無いか?
「確かに、今触った所で何も出来ないが……」
いや?本当に何も出来ない事になるのか?
触るだけで満足出来るか否か?出来ないか?
ちょっとならいいか?味見くらいなら?
そんな事を悶々と考えていたが、虚しくなってくるばかりなのでやめた。
暇だから、チャコの手を持ち上げ、その小さな手を見る。
「これが勇者の手?」
それは、余りにも貧弱で俺が握ったら、潰れてしまいそうに見える。
実際は栗の棘を素手でむしれる程頑丈だが。
「詐欺だよなぁ……」
さっきも平気な顔して俺をおぶって、ありえないスピードでここまで来た。
途中、俺の力でも引き離されそうになって、思わず息切れした程だ。
俺の懐にすっぽり収まるほどの、この小さな体の、何処にあのような力があるのか不思議でならない。
まるでエネルギー体だ。
「嫌だったら吹き飛ばすのか……」
ナンパ男の命を刈り取らない為に我慢したと言ってたな。俺の事も嫌だったら吹き飛ばすのだろうか?
あの時も我慢したのか?
屋敷で組み敷いた時は、本人も言っていたがそう言う流れだと半ば諦めていたのだろう。
俺はあの時、欲求にただ理性が飛んだのかと思ったが……今は自分でわかっている。
——チャコが欲しい。
自分だけのものにしたい。
今まで女どころか人にすら全く興味なかったのに……今はチャコが、俺の目の届く場所にいないのが嫌でしょうがない。
ちょっと目を離せばナンパされる。
簡単に押し倒されてしまう程、諦めが早い。
どうにも心配で仕方がない。
今まで人嫌いになってからは、特に感じてこなかったが、自分が好ましいと感じると、相手がいい匂いに思うんだな?
さっきからもチャコからいい匂いがする。
——食べたい本能か?
その考えに自分でも驚いた。
「実際、俺が1番危険か?」
ふと、冷静に考えてみるが……チャコを前にすると我慢が全く効かない。
衝動が抑えられない。
美味しく頂きたい。
今だって触りたい。
でも、寝ている相手に承諾なく触るのは、人として違うから、それはさすがに我慢出来る。
——だが、生殺しとはまさに今だ!
何故、こんなに彼女が欲しいのか?考えてみたら、彼女は初めから俺を特別視しなかった。
違う意味では特別視されていたが……
チャコは俺の容姿に嫌悪さえ見せた。顔さえ無ければ良いと言わんばかりだった。却って俺は、初めて中身で評価されたと思ったんだ。
その瞬間、彼女が特別になった。
最初見た時は、農民の格好だった。全く女性には見えなかったな。
だから俺は平気だったんだ。
意識したのは……部屋でだな。
俺を見てもうっとりせず、慌てふためく様になんか激ったな。本能なんだろうな。
——俺から逃げたから追いたくなった。たぶんそれだ。
その後も、平然になったと思ったら、
今度はこちらからのアプローチは……
——全く届かなくなったんだが?
ひどく無いか?極端だろう?
俺、ずっと1人で一喜一憂してるぞ?
今だって、なんだってこんな、何も出来ないのに密着していなきゃならないんだ?
触りたいのに触れない。ここは地獄か?
でも、チャコが腕の中にいるのは天国か?
早く離れたいけど、離れたく無い。
このまま……
「……ソージュさん、何してるんですか?」
チャコの声にハッとした。
俺は、無意識に首筋にキスしていたらしい




