軽量化。だから私は走るの
取り立てて、何もない砂利道を、荷馬車はガラガラと音を立てて走っていく。
「荷馬車って人が載っていないともっと早いんですか?」
ふと疑問に思ったので、隣に座るソージュに尋ねた
「そうだな。車の本体があるから人が少なければ。その分荷物は軽くなるから、早くなると思うぞ?どうした?何か気になるのか?」
チャコは少し考えてみた。
「馬は4頭いるので、私が誰か1人を抱えて走って、もう1人が馬に乗って走ったら、荷馬車がもっと早くなるのかなと思って」
1人乗りの馬ならば、倍のスピードが出るんじゃないだろうか?
「チャコが走るのはまだわかる。誰か1人抱えると言うのはなぜだ?」
ソージュが困惑した顔でそう答えた
「私は体が小さいので、減ったとしてもさほど変わらないけど、大人の男性1人分の重さと私の重さが減ったら、だいぶ軽くなるのかなって思ったんです。今は昼間だし私少し走ってもいいかなって思って」
私は、御者の経験がないから交代要員から外されてしまっている。
少しは手伝いたいし、正直ちょっと暇だ。
「荷馬車の中じゃ退屈か?」
ソージュには暇しているのがバレている
「若干……暇かな?」
ソージュがふふっと笑って頭をポンと叩いた。
「エストラゴン、ちょっと止まってくれ」
荷馬車の前方へ行き、荷馬車を停止するように言った。
荷馬車が停まるとソージュから降りるように言われた。
「一体どうしたんだ急に止まれだなんて」
エストラゴンはどうかしたのかと不思議そうにしている
「ちょっと試してみたいことがあるんだ、この先エストラゴンとオリガンとペリルは交代で荷馬車と馬とを乗りながら来てくれないか?1人は馬に乗って、残りが荷馬車で進んでくれ。荷馬車は神経を使うから、必ず交代で休んでくれ」
という事なら、私が運ぶのはソージュと言う事だ。
「なんでそんなこと?チャコとソージュ隊長は?」
ペリルが尋ねたので、ソージュが私の考えを伝えた。
「ペリルは荷馬車に軽量化の陣を描いてくれるか?そうすれば荷馬車を引く馬の負担も減る」
ペリルさんはそんな事も出来るんだ。便利な魔法使いだわ
「そういうことなら了承したすぐ準備に取り掛かる」
エストラゴンとペリルは、それぞれに準備をしている。オリガンは、まだ眠っている。
起こすまで眠り続けるだろう。
「ソージュ隊長は軽量化しなくていいですか?」
ペリルが面白そうな顔をしながら、こちらを見ている。
「多分大丈夫です。ただソージュさんが私から吹き飛ばされないように捕まっていてさえくれれば」
一応加減はするつもりだ。
「……吹き飛ばされるのか?」
ソージュさんが複雑そうな顔をしている
「一応手加減はするつもりです。でも、念のためロープなどで縛っておいた方がいいかもしれません」
縛ってあれば、まず大丈夫だろう
「ソージュさん、はいどうぞ?」
背中を向けておんぶするように促す
「……本来、逆なような気がするが」
ぶつぶつ言いながら、背中から覆いかぶさる
「本当に乗ってしまって大丈夫か?」
バックハグの状態で、ソージュさんが耳元で尋ねてくる
「くっ、声が近いです。仕方がないですが、一思いに乗っかってください」
背中がゾクゾクするので、耳元はやめていただきたい。ソージュは諦めたのか、地上から足を離し、おんぶされた。
「ペリルさん離れないように縛ってもらっていいですか?」
今は手がふさがっているので、ペリルに頼むことにした
「……ぷぷっ、どうやって縛ればいい?」
ペリルはおんぶされているソージュを見て笑っている。
「私の手が自由になるように、胴体を中心に縛ってもらっていいですか?ソージュさんの手は自由に動かせるようにしておいてください。長い足は邪魔なので縛っておいてください」
万が一、敵が現れた場合、腕さえ動かせれば何とかなるだろう
「ぷふふっ……分かったよ。せっかくだから魔法で縛っておくね?ふふふ」
ペリルは笑いが隠せないらしい
「ペリル!笑いすぎだ。あと魔法じゃなくていい!普通のロープでやれ!」
ソージュさんが慌てたように言う
「もうやっちゃったんだからいいじゃないですか。いきましょうか、方向はあちらで良いですか?」
何でかワタワタしているソージュさんを無視する。もうさっさと走ってしまおう
「方角は今見ている方向で合ってるぞ。ここをずーっとまっすぐ行くと、我が国の1番隅にある櫓があるはずだ。
このまま馬車で走ると夜には着いて、今日はそこで小休憩する予定だったが、軽量化をすることで半分ほどの時間で着くと思われる。
休まずに馬車を飛ばしていく予定だったが、ゆっくりと櫓で休んでもいいかもしれんな」
エストラゴンがそう教えてくれた。
「じゃあ、そこまで先に行って待ってますね!ソージュさんしっかり捕まって下さいね!では、行って来ます!」
チャコはドカン!と言う爆発音と共に遥か先迄、走り抜けていった。




