私はか弱い女の子です!
ペリルがこめかみに指を置き、何かを探っている。
「やっぱり。とりあえず一度回収するね?」
ふぅと息を吐いて、右手を地面に伏せ、手をスゥーっと横に滑らせた。
そこには、ペリルが作り出した、敵だった物が回収されたが……
「……これは、原型が無いな? 1体だけか?」
グシャリとひしゃげて、半分以下のサイズになっている"何か"の塊がそこにはあった。
「これは100キロ先の奴だよ。手前の二つは80キロ先のは粉砕、50キロ先のは当たった瞬間消滅したよ」
やっぱり、距離が近い方が威力は高いな。
「・・・凄く強いな」
「強いし正確だよね」
「やるな! チャコ! 凄いでは無いか!」
「チャコちゃん揶揄うのもうやめとくわ」
皆、それぞれの反応を見せた。
うん、強いんだよね勇者だし。
「間違えないでください。私は弓や投擲は強いけど、それ以外はか弱い女の子なので」
近距離戦は、怖いから無理です。
「本当か? ちょっと組み手でもしてみるか? オリガンやってみるか?」
ソージュがオリガンに提案したので
「戦いと認識して力を入れると、多分吹き飛ぶような気がします……」
血飛沫は見たく無いんだよ
「……それは、か弱いのか?」
「か弱いですよ? 精神面が。怖いのも血飛沫も嫌です」
ソージュが疑ってくる
「あぁ、そっちか。強度はどうなんだ?」
「うーん、痛いのは嫌ですが。試してみますか? 因みに栗の棘は平気です」
何すれば良いのかな?
「あの棘は、聖なる力があるから、何でも貫ける程の強度があった筈だが?」
「認識次第かも知れません。痛いのは嫌だから傷にはならないのかな? 吹き飛びはすると思うのですが、吹き飛ぶのは怖くて嫌なので、やっぱり私はか弱いんです!」
だから、守って下さい!
「……トングはどんな感じだ?」
「木が柔らかいですね。ゼリーってわかるかな?」
つるりと切れますよ?
「……ゼリー? とは、あの果汁を固めたプルプルした菓子で合ってるか?」
「あ、こちらにもあるんですね? それだと思います」
ゼリーもあるなら、今度食べてみたいな
「……トングもかなり強力だな?」
「でも、トングはカッコ悪いから使いたく無いです」
ソージュさんは「ゔーん」と唸っている
「そういう問題か?」
「大切な事です」
トングを振り回す勇者なんて、たとえどんなイケメンでも、カッコ悪くて嫌だ。
「とにかく、私はか弱い女の子なので、遠方からの攻撃は出来るけど、近いのは無理なので守って下さい!」
どうにもならなくなったら、動きますよ?
「ちょっと使ってみてもいいか?」
エストラゴンが、ワクワクしながら近づいて来た。
「どうぞ?」
トングを渡すと、少し離れた位置にあった木をトングで切り倒していた。
「ワハハ! 凄いな? 切るというか、触るだけだな?」
楽しそうで何よりです。なんなら空振りでも大丈夫です。
「「使っていいか?」」
オリガンとペリルも聞いて来たので、了承すると、走ってエストラゴンの元へ行き、それぞれトングで木を削っている。
「本当にゼリーみたいだね」
「挟むと潰れるぞ!」
色々チャレンジしているみたい。
「・・・チャコ、やっぱり強いよな?」
ソージュが、なぜか青い顔で放心している
「切る意思がなければ、普通にトングとして使えますよ? 私の力も、無意識で攻撃する事はまずないので。以前のナンパも、振り払うことは可能でした。そんな事したら大惨事ですよね? 我慢したんですから、褒めて下さい!」
あの時は、本当にムカついたんだよね
「……良く我慢したな? 俺も気を付けなければ危険だと理解したよ」
ソージュさんはぶるりと震えている。
「ソージュさんは大丈夫ですよ? 私が、抵抗したくなるような無理強いはしないでしょ?」
私は嫌ではないし。言わないけどね?
「……頑張ります」
一体、何を頑張るのかな?
「ソージュ隊長! そろそろ向かいますか?」
エストラゴンが、馬を荷馬車に繋いでいた。
「全ての準備は整った、このままゴルドファブレンに向かおうと思うがどうだろう?」
ソージュが皆に向かって尋ねた。
「「「大丈夫です」」」
今から行くらしい。少数だからこそのフットワークの軽さの様だけど、
「あの、栗の棘は良いのですか?」
勢いに水を差す様で申し訳ないが、武器屋の親父が待っているはずだ。
皆がこちらを見て、がっくり首を項垂れた
ソージュの屋敷に戻り、籠と私の荷物を受け取ると、屋敷前に停めた荷馬車の荷台で、棘を分解する。
それをペリルが確認している。
「多分、出来るかな?」
そう言って、棘の塊を手にして何か呟くと
パラパラと針が手からこぼれ落ちた。
「大丈夫そうだ。箱に布を敷いて? 纏めてやるから」
レヒテハントに箱に布を準備して貰った。
ペリルが空中にペンで何か書くと、籠の中のイガは、バラバラになった状態で、準備された箱に移った。
「早いですね?」
「魔法だからね?」
ペリルの魔法のおかげで、あっという間に作業終了だ。
そのまま武器屋に行き、棘を預けると、屋台で食事を買って、荷馬車の荷台で食べた。
「やっぱりこの串焼き美味しいですね♪」
朝食べた時にも思ったけど、好みの味だ。
「これ美味いよな! 空間魔法の鞄に、沢山購入して入れてあるから、道中も楽しめるぞ!」
オリガンはそう言って、2本目の串焼きを渡して来た。
結構ボリュームのある串焼きだから、もう少し食べたい気持ちはあるけど、流石に2本は食べれない。
「2本目は食べ切れないです!」
と言うと、
「食えるだけ食え、余ったら俺が食うから」
と、ソージュさんが隣に座った。
「一口だけ食べていいですか?」
「好きなだけ食べろよ?」
大きくなれないぞー、と頭をぐしぐし撫でて来た。頭はボサボサだけど、どうせすぐボサボサにされるから、整えるだけ無駄だ。
「お待たせしたな!」
エストラゴンが武器屋から、出来立てのダーツの矢が、沢山入った箱を持ってきて、荷馬車に乗り込むと、箱の中を見せてくれた。
「随分と沢山出来ましたね?」
短い時間しか、経っていなかったのに
「親父が既に土台を作っておったわ! 後は棘をつけるだけだったぞ?」
おお、さすが職人仕事が早い
「言っとったやつはこれでいいか?」
エストラゴンが、矢をひとつ箱から出して渡してくれた。
「いい感じです。ありがとうございます!」
早く仕上げたのに手触りも良く、いい仕上がりだ。
「ソージュ、戻りの術式はゴルドファブレンで刻めばいいよな?」
ナイフ達と一緒にやって貰えるのかな?
「そうだな、それが良さそうだ。数に限りがあるから、術式は必要だな」
棘が沢山あっても、使い捨てだと数が足りないよね?
「ならいい。とりあえず一箱だけ貰って来た。残りはフェルゼンに行く前にもう一度寄れば良いな! 今度こそ行くか?」
そう言ってエストラゴンは御者台に座った。
「行くか」
「今度こそ出発ですね」
ワクワクして来た
「次の御者俺だからちょっと今から寝る」
オリガンは寝てしまった。
ペリルが、何か魔法を書いている。
「オリガン、イビキ凄いうるさいから無音の魔法かけといたよ!」
そう言ってペリルは、とても良い笑顔でにこやかに笑った。




