大きな栗の木の下で
ラストです。
今までありがとうございました!
目の前に叔父さんと亮太がいる。なんだか不思議な気分だ。
2人が必死に帰って来いと言う。探してくれていたんだな?と嬉しく感じた。自分が思っていた程、もう恨んでないみたい。
「チャコ、帰りたい?」
ペリルに言われ、戸惑った。目の前には私を必死に連れ戻そうとする2人がいる。
「え?ペリル?「チャコ!ダメだ!一緒にいてくれ!帰って来い!」
私は大声に驚き亮太を見た。
亮太は必死に浮気の言い訳をした。酒の下での間違いは、自分も身に覚えしかない。
私はそれを聞き、既に亮太の事は許している事に気付いた。
必死な彼が、懐かしいなと少し懐かしく涙が滲んだ。
すると私の身体が薄く光り始めた。
もうすぐゲートが閉じそうだ。
私はペリルから離れ2人の側へ向かう。
一瞬ペリルの腕の力を感じたが、すぐ自由になった。
「2人とも、心配してくれてありがとう。叔父さん、ごめんなさい。私は帰らないから、家の事をよろしくお願いします。今、異世界にいるの。嘘みたいだけど本当なの。もうすぐゲートが閉まるわ。最後に会えてよかった」
叔父さんは顔を顰め、走って姿を消してしまった。
怒らせちゃったわね?我儘言ってごめんなさい。
「亮太、ちゃんと甘えられなくてごめんね?あなたの事は許すわ。でも私は貴方とはもう無理。それに、今は、貴方以上に愛する人が出来たの。貴方と付き合えて良かったわ。心配してくれてありがとう」
私はハッキリ断った。初めてかも知れない。
「なんで?誰だよそいつ、だってたった数ヶ月じゃないか!茶子の何が分かるんだよ!」
亮太が噛みついて来たが、もうなんとも感じない。
「彼は、私の事ならなんでも分かるの。自分の事より私の幸せの事を考える人よ。自分が苦しくても私が幸せなら我慢しちゃう人。誰よりも大切にしたい人。凄いイケメンだし?」
私はイケメンアピールもしておいた。
「くそっ……自分の間違いがまければ、一緒にいられたかな?」
亮太がそう聞いて来たから
「さあ?彼曰く、相手がよそ見するのは、こちらの努力が足りないかららしいわよ?私も努力不足だったから、どちらにしても無理だったかもね?じゃあね?今までありがとう亮太」
私に未練は全くないわ。叔父さん、怒らせてごめんね。
私は一歩下がる。ゲートがだんだん閉じて行く。懐かしい我が家が見えなくなって来た時……
「茶子!!」
叔父さんの叫び声と共に、何かが飛び込んできた。
「体に気をつけて!幸せになるんだぞ!!」
叔父さんのその言葉を最後に、ゲートは閉じた
私の足元には、私の愛用の弓と矢と何故か旅行鞄が、落ちていた。
「叔父さん……」
何を入れたのかな?と鞄を拾った時
「チャーコー!!!!」
とエストラゴンの叫び声と
「「チャコ!!!!!」」
ソージュとオリガンも叫び
「チャコ……」
ペリルは私にしがみついていた。ペリルは涙を流している。不安だったかな?
後から聞いたら、ペリルの声は届かず、私は存在が消えかけ、光が強くなると、全く姿が見えなくなったみたいだ。
ソージュ達は私達が、栗の木に飛んだのを見て、慌てて向かおうとした。
3人は荷馬車より、身体強化魔法をかけて走った方が早いと、走ってここまできたようだ。
栗の木が、皆の到着までゲートを保ったのだろう。
時間も歪めたのかも知れない。ソージュ達が到着した時が、1番光っている時で、ペリルは独りで無表情だし、帰ったかと心配したようだ。
「ペリル!わしにも娘を抱っこさせろ!」
エストラゴンが、ペリルから離そうにもペリルは離れる気がない。
「ふん!」
エストラゴンはペリルごと私を持ち上げ抱きしめた。ちょ、勇者じゃなきゃ折れてるって
「チャコ、この先はずっと一緒だ!ペリル、気持ちは分かるがいつまでもぐずぐずするでない。ほれ、拠点の移動を早くしろ」
エストラゴンは城に馬を置いてきたが、荷馬車は空間魔法に入れてきた様で、取り出した荷馬車に私からむしり取ったペリルを放り込んだ。
「チャコ、この荷物はなんだ?」
ソージュが、足元に散らかった荷物を拾ってくれた。
「叔父さんが、最後に投げ入れてくれました。愛用の弓と矢です。鞄の中はまだ見ていません」
話をしていたら
「ほら、出来たから早く中に入って!」
ペリルが、最速で拠点を移した。
リビングで、皆に見守られながら鞄を開けたら
・道着と、弓道用具一式
・良く道着の上から着ていた防寒用のコート
・小さな頃の宝物のウサギのぬいぐるみ
・買い置きのお菓子
・祖父母とお母さんの写真
が、入っていた。
私はお菓子が出てきた時は、なんでお菓子?と笑いながら、慌ててこれを詰めていた叔父さんを思って涙が溢れた。皆は、写真を抱きしめて泣く私を静かに見守ってくれた。
泣きすぎて頭が痛くなってきた頃、ふと栗の木に挨拶しないと、と、思い
「……栗の木に挨拶してもいい?」
と言うと、皆も行くとついて来た。
皆は一歩後ろにいるのに、ペリルは私から離れず栗の木の下へ来た。
私は、栗の木に触れながら、祖父母と母と叔父さんに、心からありがとうとこれから頑張るねと、念を込めた。
「チャコ、ありがとう」
ペリルが、栗の木に触れながらお礼を言って来た。
「え?何?」
と、ペリルを見たら、ペリルは私の足元に跪き、私の事を真摯な目で見つめる
「私、ペリル・アウスヴエークは、聖なる木と仲間に宣言する。たとえ世界が違っても、私はチャコを誰よりも信じ、誰よりも愛する。チャコを唯一としてその幸福を誰よりも願い、支えていき、一生涯かけて"全力"で幸せにする事をここに誓うよ」
ペリルが、そう宣言すると、私とペリルの聖石が光り、ネックレスから外れ2つの石はひとつになり、栗の木に吸収された。その瞬間、栗の木がザワザワした後
"パァン!"
と弾けるような音がして、栗の木から虹色の祝福の魔法が2人に降り注いだ。驚きもあり、私とペリルは気付いたら抱き合っていた。
ペリルの腕に抱かれながら、周りにキラキラ舞っている祝福を見る。綺麗だと思って見ていたら、ペリルと目が合った。
どちらからでもない……
気付いた時には、抱き合ってキスをしていた
「ペリル!人前でイチャイチャするな!」
エストラゴンの叫びが聞こえる
「チャコ、粘着したらちぎっていいぞー」
ソージュがからかうように笑う
「ペリル!あー羨ましい!」
オリガンは相変わらず素直だった
声に反応して私から顔を離したペリルが
「隊長!3日間、お休みを頂きます、一切連絡しないでください」
と、ソージュに伝えた。
返事も待たずに、ペリルは私にキスをしながら軽々と抱き上げ、そのまま自室に引き篭って行った。
残された3人が皆手を合わせて見送った事を……私は知らなかった。
そう、私は勘違いをしていたんだ。
ペリルの"全力"も、
栗の木の"祝福"の意味も……
私はこの世界をまだ何も知らなかったんだ。
トングが聖剣?使わないけど
〜最強女勇者はイケメンたちに守れれていたいんです〜
完結
完結です!ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!
「トングが聖剣?使わないけど〜女最強勇者はイケメンたちに守られていたい〜」は、栗拾いから始まったドタバタ異世界生活、そしてイケメンとの恋と、全く出てこないトングの物語でした。
勇者チャコが、ひとりの女の子として、だんだんと前に進んでいく姿を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
ラストではやっぱりペリルと……でしたね(笑)
※お察しの通り、あの後、3日間は本当に誰とも連絡を取りませんでした。
この物語は完結ですが、
異世界5国リンクス
〜アレクサンディー山脈の物語〜
として、他の話と世界がつながっています。
チャコ達のお話は一足早く終わりましたが
「オカン転移」では、ソージュと、瑠璃との関係も……一方その頃が、明かされていきますので、気になる方はぜひそちらもチェックしてみてくださいね?
また別の物語でも、時間軸を超えてチャコたちに再会できる日が来る事でしょう。
その時はまた、お付き合いください
本当に、最後までありがとうございました!
黒砂無糖




