空を飛んで
村へと向かう支度を済ませたイヴリス達は町を出た。昨夜1人で歩いていた時と活気は変わらなかったが、アリシアと共にいることで不思議と怖いという感情は湧いてこなかった
それよりもイヴリスはアリシアが手に持っているある物の方が気になっていた
「ねぇ、なんで箒なんて持ってるの」
「それは町を出てからのお楽しみかな~」
これから村に行くのに何故箒が必要なのか。理由を聞いても明かそうとしないままやがて2人は町の出入口までやってきた
門を出てから少し歩き、町からある程度離れた場所まで来るとアリシアは足を止めた
「さぁ行きましょうか」
「行こうって・・・もう向かっている最中だろ。というかここから村までどれ位かかるんだ」
「そうねぇ、普通に歩いてたら一週間位はかかるわね」
「一週間!?」
村から町に来るまでの間は気を失っていたのでどれ位かかるかなんて知らなかったがせいぜい一日二日程度だと思っていた。まさかそんなにかかるとは思ってもいなかったイヴリスは今から向かって果たして弟が村に残っているかと心配になった
そしてもう一つの懸念、村まで一週間かかると言っている割にアリシアが持っている荷物が少なすぎる。まるでちょっとその辺りまで出掛けに行く程度の荷物でイヴリスはやはり騙されているのではないかと不安になる
疑いの目で見ていると、その視線に気がついたアリシアが得意気に語り出した
「あっその目、疑ってる目をしてるわね。大丈夫、普通に歩いたらって言ったでしょ。私には特殊な移動方法があるんだから」
「特殊な移動方法?」
「そっ、他の人達には秘密にしてるんだけどイヴリスには特別に見せてあげちゃう。これを使うのよ!」
アリシアは持っていた箒を指差し、その後空を指差した。アリシアは空からイヴリスの村を目指そうとそう言っているのだ
何の為に箒を持っていたのかと思ったらそんな事とは・・・イヴリスは人間がそんな芸当できるわけがないと呆れる。魔人の中でも空を飛べる者がいなかったのに、魔人より魔力が少ない人間が空を飛ぶなど到底不可能としか思えなかった
「人間がそんな事できるわけないじゃん。ふざけた事言わないで」
「ふっふっふ、これを見てもまだそんな事が言えるかなぁ?」
自信満々にそう言い放つアリシア。全く信じていないイヴリスを前に箒に跨って何かを呟いた次の瞬間、身体地上から別れを告げアリシアは宙に浮いた
跳躍などではなく間違いなく飛行している。その光景を見てイヴリスは目を丸くした
「わぁ!?本当に飛んでる!?」
「いい反応してくれるねぇ。これで嘘じゃないって分かったでしょ?」
ただの虚言だと思っていたがアリシアの言葉は真実だった。魔力が劣っているはずの人間が本当に空を飛ぶなんて思ってもみなかった
アリシアは飛行したままイヴリスに近寄ってきて強引に手を引いてくる
まだ心の準備が整っていなかったイヴリスは箒に乗るとそのままアリシアの背中にがっしりとしがみついた
「落ちたら危ないからしっかり掴まっててね。まぁオチたとしても助けてあげるから安心して」
アリシアの飛ぶ高度はどんどんと上昇していき、先程まで見えていた町があっという間に見えなくなってしまった
落ちたら間違いなく死ぬ。そんな事を考えているととてもじゃないが目を開ける事なんてできなかった
「ほら、そんな縮こまってないで前を見てみて」
「無理!」
「大丈夫大丈夫、こんな景色見ないなんて勿体ないよ」
アリシアにそう言われ少し気になったイヴリスは恐る恐る目を開ける。するとそこには今まで見たことがない広大な景色が一面に広がっていた
「すごい・・・」
「そうでしょう?ここでしか見れない景色だからね」
その光景を見た時は世界の端っこまで見えるのではいかと本当に思った
気づいた時にはイヴリスから怖いという感情は無くなり、空からの移動を楽しむ余裕ができた
それからアリシア達は休まず一直線に村を目指した。徒歩で一週間と言っていた道のりを半日程かけて移動、昼を過ぎた頃には見慣れた景色が見え村に到着することができた
「あいたたた・・・流石に休まないで移動するとお尻にくるわぁ」
お尻を擦るアリシアを放ってイヴリスは箒から降りて村がある場所へと全速力で駆けていった
しかし村があった場所に到着するもイヴリスの住んでいた村はもう見る影もなかった。家は全て焼き尽くされており、あったはずの遺体も森に潜んでいた魔物達に食い尽くされたのか骨すら残されていない
それでもイヴリスは一縷の望みにかけて弟の名を叫んだ
「※※※※ー!」
懸命に叫ぶも弟からの返事は帰ってこない。それでもイヴリスは何度も何度も叫び声が枯れるまで弟の名を呼び続けた
日が沈むまで休まず心当たりがある場所を探し尽くした。だがそれでも弟が見つかることはなかった
村に攻めてきた人間達に殺されたかどこか遠くに逃げたのか・・・どちらにしても弟はもうここにはいないというのは認めざるを得なかった
もしかしたら生き残りは自分だけなのではないか、そう思うと涙が溢れて止まらなくなり森中にイヴリスの泣く声が木霊した
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