商人の娘と魔王
ゴルドがオリハルコン鉱石で打った剣を完成させるまでの間、アリシア達は剣なしでの鍛錬が行われた
「さて、始めるぞ」
「準備は出来ています」
「頑張れよアリシア」
異空間の中へと消えていくサラとアリシアをイヴリスは見送った。どのような事が行われるのか気になるところだが、イヴリスはイヴリスでやりたいことがあったのでアリシアの事はサラに任せることにした
自宅に戻るとホルストンの町を目指して支度を始めた。アリシアがいない間に国がどんな動きをしているのか情報収集をしに行く
「しかし悠々自適に暮らすつもりが魔王国にいる時随分と働き者になってしまったな」
「でもあるじ楽しそうな顔してるよ」
「そうか?」
「うん!前はボーっと退屈そうな顔してばっかだったけど今は生き生きしてる感じ」
確かに魔王国ではマリアや配下達が全てをこなしていてイヴリス本人は玉座に座ってるだけの毎日だった。色々と面倒事に巻き込まれるがその頃に比べれば充実はしている
時間も限られているので使用したくはなかったが今回も転移門を使ってホルストンの町にやって来た。何度か来てることもあって王都の時よりも正確な位置に転移することが出来た
町の門の前まで行くと以前と様子が違う事に気がついた。前よりも明らかに警備の数が増えている
イヴリス達の事が知れ渡り厳戒態勢に入っているのだろう。きっと中も巡回している兵士が多いに違いない。勇者軍の時と同様自身とルインに変身の魔法をかけて堂々と町の中を闊歩した
「やはり中も巡回している兵士が前より多いな。さて、町はどんな様子かな」
町の様子を観察するとやはり以前よりも活気は薄れていた。買い物に来た人間も用事を済ませると外に長居はせず早々に自宅へと帰宅しているようだった
イヴリスは以前クリムシューを購入した店があった場所に寄ってみた。その道中見かけた建物の壁にはアリシアとイヴリスの顔が写った張り紙がそこら中に貼られていた
「わぁ!あるじ有名人みたいだね!」
「ほぉ、随分と人気になったようだな。どれ、記念に一枚貰っておくか」
張り紙を一枚剥がし書かれている内容を読んでみるとイヴリスとアリシアが指名手配されており、更にはアリシアに懸賞金までかけられていた。捕らえた者には恐らく一生遊べる位の金額、情報を提供してくれた者にもそれなりの金額が貰えるらしい
いかにもお金に困っている人間が食いついてきそうな内容だが、お金欲しさに適当な情報を持ってくる輩も多そうだ
暫くしてお店に到着、クリムシューの店は変わらず営業をしていたので購入することに
「おばさん、クリムシューを二つくれ」
「はいよ・・・ってアンタ達子供2人だけで来たのかい?」
「そうだが?」
「悪いことは言わないから早くお家に帰んな」
「なんでだ?魔王が来るかもしれないからか?」
「魔王だけじゃないよ、先日他の町が襲われたのは知っているだろう?そこの町で魔王軍の旗がまた見つかったんだってさ。今も何処かに潜んでるかもしれないからこの町も常に警戒しててピリピリしてるんだ。だからお家で静かに過ごしていた方がいいわ」
アリシアの処刑の時にも聞いた話だ。アリシアとイヴリスが密会している偽の情報を流しているからて出鱈目の可能性もあると思ったがどうやら本当に起きているらしい
だが魔王国の旗だけで断定できるものだろうか。偽の旗なんて作ろうと思えば作れるし直接魔王軍を目撃したという証言はない模様。誰かが画策している様にしか思えないがそれはまた後日確認、そうこしているうちにイヴリス達は目的地にしていたリーブル商会の前までやって来た。商会の倉庫を覗いてみるとそこには普段通り作業をしているマーガレットの姿があったので後ろから声をかけた
「やあマーガレット、久しぶりだな」
「あらどうしたの?私達何処かで会ったことあるっけ?」
「あぁ、この姿だと分からないよな」
「えっ!?イヴさ・・・!ちょっとこちらに来て下さい」
マーガレットは子供の姿からイヴリスに戻る光景を見るなり声を荒げたが、すぐさま手で口を覆い大慌てで人目のつかない道を歩いて2人を空きの倉庫へと連れていき内側から鍵をかけた
「私・・・ここで襲われるのね」
「ルー達食べられちゃうの?」
「ちょっとふざけないで下さい」
場を和ませようと冗談を言ってみたが真剣な表情を全く崩さないマーガレット。イヴリスが魔王であることはもう知っているのだろう何か言おうとする度に言い淀む、そんな時間が暫しの間続き沈黙が流れたのでイヴリスの方から話を切り出した
「マーガレット、私が怖いか?」
「・・・怖くありません」
「無理するな、手が震えているぞ」
「こ、これは・・・」
平静を装おうとしているが体は小刻みに震えている。マーガレットはそれをどうにか抑えようとしていた
すると今度はマーガレットの方が質問を投げかけてきた
「どうしてわざわざ私の所に来たんですか?」
「ここに来たのはどんな様子か見ておこうと思ってな。もしかしたら迷惑をかけていると思っていたが何事もないようで安心した。あまり長居しても怪しまれるだろうしそろそろ出ていく、邪魔して悪かったな」
「ま、待ってください!」
簡潔にそれだけ伝えて倉庫をあとにしようとするとマーガレットに呼び止められる。微かな逡巡の後、マーガレットは意を決したように口を開いた
「イヴさんと過ごしたのは僅か数日ですが私が見てきたイヴさんは人類を脅かすような極悪人にはどうしても見えないんです。勿論あの勇者様も・・・だってそんな人がわざわざ謝りになんて来ないじゃないですか。だから・・・もし私に何か出来ることがあったら言ってください。」
「いいのか?バレたらタダでは済まないぞ?」
「勿論覚悟の上です。きっと両親も分かってくれるでしょう。出来る事は限られてしまいますが・・・それでも私と母を救ってくれた貴女を信じたいんです」
真剣な眼差しを向けてそう言い放ってきたマーガレットの覚悟にイヴリスはそれ以上何かいう事はなかった
「その覚悟しかと受け取ったぞ、だが何か特別な事をしようと思わなくていい。以前通り物資の提供と町で得た情報を教えてくれればそれで構わない」
「分かりました」
正直マーガレットには報告をされてもおかしくなかったがこれはイヴリスにとっては嬉しい誤算だった。だがもし聡い者に感づかれてしまったらマーガレット達を危険に晒すことになってしまう。そこでイヴリスはマーガレットと別れた後、護衛する者をつけることにした
「召喚:変色竜」
イヴリスが召喚したのは蜥蜴の姿にも似ている召喚獣、この召喚獣は風景に擬態することができるので周囲に気づかれる事なくマーガレット達を護衛することができる。もし召喚獣がやられたとしてもイヴリスの方に報せがくるので時間稼ぎ位にはなるはず
イヴリスは変色避役にリーブル商会に見張りを任せ、何かあった時は守るよう命令を下して町をあとにすることにした
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