町を襲う黒い影
勇者アリシアの処刑を魔王イヴリスが阻止し連れ去るという大騒動が起こったその前の晩、セルビニア王国領に位置するとある小さな町で事件が起きていた
町の殆どの人達が寝静まり外を出歩いている人も疎らになっていた頃にその悪夢は始まった
「ヒック・・・ちょっと飲みすぎちまった。早く帰らないとあいつがうるさいからなぁ。いやもう怒ってるか」
「はぁ~いお兄さん、ちょっと私と楽しい事していかない?」
酒の呑みすぎで酔い潰れ、店仕舞いになるまで眠ってしまって帰宅するのがこんな時間になってしまった男に話しかけてきたのは黒装束を身に纏う女性。その見た目を見れば普段であれば一般人ではないと怪しみすぐその場を立ち去っていただろう、しかし酔っていた男はそんな思考に至るよりも先に女の美貌の方に目がいってしまっていた。しかし運の悪い事に先程溜まった酒代のツケを支払ったばかりで手元には女を買うお金すら残ってはいなかった
「悪いな、今持ち合わせがないんだ」
「そんなのいらないわ、私は今お兄さんの****を****たまらないの」
途中何を言っているのかよく聞き取れない、だがその時は相当酔ってしまっているのだろうと気にする事ことはなかった。それよりもこんな小さな町では滅多にお目にかかる事ができない女性からのアプローチに男は歯止めが効かなくなっていた
女に招かれ街灯のない暗がりへと誘導される。男は疑いもせずにその後をついていく、しかし女に案内された先は壁に覆われたただの袋小路だった
「この辺りでいいかしら」
「おいおい外でするのか?悪いがこっちは妻帯者だからできればもっと落ち着いた場所で・・・」
「あぁ大丈夫よ、すぐ済ませるから」
女は男に対して微笑みかける、すると次の瞬間町の反対方向から爆発音のようなものが聞こえてきた。そして暫くすると町の至る所から悲鳴が聞こえてくる
「な、なんだ・・・何が起こっているんだ」
「あぁもう始まっちゃったのか。食事の時位はゆっくりとさせて欲しいのに」
「な、何を言って・・・ヒッ!」
男が向き直るとそこには先程まで自分に微笑みかけていた綺麗な顔が液状になっていく女の姿があった。その時点で男の酔いは完全に醒めてしまい尻もちをつく
腰が抜けてしまった男はどうにかしてその場から逃がれようとするがいくら藻掻いても一向に進む気配がない。その原因は男の足元に纏わりついている粘液にあった
顔の次に今度は女の腕が粘液と化して男の脚を引っ張ってくる。男は懸命に足掻くがその抵抗も虚しく女の元へと引き摺られていく
「や、やめろ!」
「さっきまでノリノリだったのに。暴れてもいいけどその分苦しむことになるわよ?」
女の目の前まで引き摺られて来ると女は黒装束を脱いだ。黒装束の中は一糸纏わぬあられもない姿、しかし普通の人間とは明らかに異なっており女の腹部は腕と同じく粘液状になっていた
先程の言葉の意味、男はそこでようやく女が自分を取り込もうとしていることを理解した
恐怖に襲われた男は死に物狂いで叫び藻掻く、指先からは血が噴き出し爪が剥がれる。それでも徐々に女の腹の中へと吸い込まれていき、最後にはその場から跡形もなく消えてしまった
「もう少しゆっくりと味わいたかったわぁ・・・さて、あっちは上手くいってるかしら」
爆発が発生してから数分が経過した頃、町は火の手に覆われていた。突然の事態を把握出来ていない者達が飛び起きて外の様子を確認しに家を出ると、その者達は瞬く間に黒装束を身に纏った者達に殺されていった
「なんなんだアイツらは・・・!」
「もしかして例の魔王国の奴らか!?」
「見張りの兵士は何をやってたんだ!」
噂になっていた魔王国の兵かと思われたが黒装束を身に纏っていて判断がつかない。更に不思議なのはこれだけの騒ぎになっても敵襲を報せる鐘も鳴らなければ兵士達が応戦している様子も全くないということ。だが今はそんな事をまともに考える暇はない、今日まで平穏な日常を暮らしていた町の人間達が一人、また一人と殺されていった
町の出入口は先程の爆発によって瓦礫で埋め尽くされていてそこからの脱出は不可能。黒装束の者達は町から一人たりとも逃すつもりはなく、命乞いしてくる相手でも容赦なく殺して回った。そしてそれは当然年端もいかない子供も例外ではなかった
「お願いします、どうか子供の命だけは・・・お願いします」
「ママァ・・・」
「あなたはその子供の事が一番大事なの?助けて欲しい?」
「そ、そうです!だからどうか・・・」
親子の前には町の人間を殺し回って血塗れになった女、その女に子供だけでも助けようと必死に縋る母親。その母親の様子を見た女は母親の訴えが響いたのか、ゆっくりと腰を下ろし親子に向かって笑みを浮かべた後子供の頭に手を置き優しく撫でた
助かる、その言葉が脳裏に浮かんだ。しかし母親の希望は一瞬にして絶たれることとなり、次の瞬間には子供の頭と胴体は切り離されてしまっていた
「ぁ・・・あぁ・・・」
「あはっ!殺しちゃった♪ねぇねぇ、一番大切なものを奪われた時ってどんな気持ち?」
眼前には今さっきまで抱きかかえていた我が子の顔、生気のない虚ろな目をしながらこちらを見つめているように見えた。母親は精神が壊れただ口を魚のようにパクパクとさせるだけで女の問いに答えることはなかった
「ありゃ、もう壊れちゃったの?じゃあもういらないや。ばいばい」
興味をなくした女は持っていたスティレットで母親の心臓を貫き処理。母親が死んだ事を確認した女は子供の頭をそのまま自分の口元へと持っていくと、滴り落ちてくる血を口に含み始めた
「ん~いまいち・・・やっぱそこら辺の石ころみたいな奴じゃ満足出来ないや」
血の味が気に入らなかった女は持っていた子供の頭をもう用はないと放り投げた。そこへ先程男を取り込んだ女がやって来る
「終わったかしら」
「ちょうど全部終わったよ。小さな町だから苦労しなかったね」
「この町は人も少なくて徴税が減ってきてたみたいだから利用するのにちょうど良かったんでしょうね。さっ、さっさと帰還しましょう。あっ、これを置き忘れてたわ」
そう言い残した後町全体に火を放ち、魔王国の旗を目立つ場所に放り捨てたら黒装束の集団は音もなく町を去っていった
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次回は土曜日20時に投稿予定です。よろしくお願いします!




