勇者と村の散策
(イヴ、どうしたのその怪我。まさかまた村の人達と喧嘩をしたの?暴力はダメって前にも言ったでしょ)
(だってアイツら私が集めて置いといた木の実を盗んだんだもん・・・)
(なにぃ!?アイツらタダじゃおかないわ!ちょっとぶちのめしてるくる!)
(アリーさっき暴力はダメだって・・・)
(悪さした奴は例外よ!私の可愛いイヴを虐める奴は誰だろうと許さないわ!)
「・・・夢か、久しぶりに見たな」
目が覚めると見慣れた天井、最近は滅多に見ることがなかったイヴリスがまだ魔王になる前の今よりもずっと幼い頃の記憶。長く生き過ぎて過去に起こった多くの出来事を忘れてしまっているイヴリスだが、その時の記憶だけは今でも鮮明に憶えていた
外を見るとまだ陽が顔を出したばかり、昨日のこともあってもう一眠りしようかと思っていると前触れもなく扉が開いた。扉の先には隣にいたはずのアリシアがそこにフライパンを持って立っていた
「起きなさい、朝ですよ」
「アリシアか・・・そんな物を持って何をやってるんだ?そんな得物じゃ私は殺せないぞ」
「寝ぼけているんですか?朝食を作っていたんです。貴女達の分も作ったので早く下りて来て下さい」
「私達の分も?」
昨日はあれだけ警戒していたのに一体どういう風の吹き回しなのか、そうこう考えているうちにアリシアの顔つきがどんどん険しくなっていったのでこれ以上機嫌を悪くさせない様に言うことを聞いた
階段を下りテーブルを見るとそこには3人分の朝食が並べられていた。コカトリスの卵で作ったスクランブルエッグと魔獣の肉を燻製したベーコン、野菜がふんだんに使われたスープにパンと想像していたよりもずっとまともなものだった
「どうかしましたか?」
「いや、思っていたよりまともな食事で驚いている」
「喧嘩を売ってるんですか?早く席に着いて食べて下さい」
椅子に座りアリシアの用意してくれた料理に口をつける。いきなりこんな真似をしてきたのものだからてっきり毒でも盛ってあるのかと思ったが、普通に美味しかった
「おいしい!」
「うん、中々やるじゃないか。その目でよくできたものだな」
「慣れたら別に大したことではないです」
「というかなんで私達の分まで朝食を作ってくれたんだ?」
「例え相手が魔王であろうと恩を売られたままでは私の気が収まらなかっただけです。それにあとで何を要求されるか分かりませんしね」
「律儀な奴だな」
変なところで真面目なアリシアを見て微笑むイヴリス。その時にアリシアの目の下にうっすらと隈ができているのに気がついた
「まさかお前本当に朝まで起きていたのか?」
「言ったでしょう、貴女が変な行動を起こさないように監視をしていると」
「そうは言っても毎日そんな事をしていたらすぐ限界がくるぞ。今日はゆっくり休んでおけ」
「貴女は今日どうするのですか」
「私は適当にぶらぶらと・・・」
「では私もついていきます。昨日はあれでしたがこの村の様子観察しておきたいので」
自分が何を言っても無駄だと理解したイヴリスは仕方なくアリシアがついてくることを許可し、3人で村の中を散歩することに
その間アリシアはイヴリスの背後にベッタリとくっついて監視を行っていた
「イヴさんおはよう、勇者様もおはようございます」
「あぁ、カミラおはよう」「おはようございます」
「ふふっ」
カミラはアリシアの方を見てクスリと微笑んだ。それが自分に対してのもだと分かり不思議に思ったアリシアは問いかけた
「・・・?何でしょう?」
「勇者様ったらイヴさんにずっとベッタリでおかしくって。仲がよろしいんですね」
「え?いやちがっ・・・!これはそういう意味ではなくて」
「私の美貌は男女問わず見惚れさせてしまうからな。恥ずかしがることはないぞ」
「貴女の顔まで私には分からないのでそれはあり得ないですね」
そんなやりとりをしながら向かった先はゴルドがいる家。服の件を報告しにやってきたのだが、前回来た時とは家の様子が変わっているのに気づいた。ゴルドの家の隣にはいつの間にか鍛冶場と思われる仕事場が出来ていて、煙突からはモクモクと煙が立ち上っていたので鍛冶場の方へと訪ねてみるとそこではゴルドが作業をしていた
「おぉイヴ殿、どうしたんじゃ」
「よぉゴルド。先日作った服な、あれの卸先が決まったから報告しに来たんだ」
「おぉそうか!そりゃあ良かった。じゃあ嬢ちゃんにも伝えておかないとな」
「それにしても中々いい鍛冶場が出来たじゃないか」
「簡素なものじゃがの。最近アイアン・タートルっちゅう魔獣が川辺にいたのを見つけてな、狼達に頼んで狩ってもらったんじゃ」
アイアン・タートルは食べるところこそ皆無だが甲羅が鉄で出来ているようで、ゴルドはその甲羅を利用して村で使う包丁や鍋を新調しようと考えたらしい
後ろで聞いていたアリシアがどうやらこの話に興味を示したらしく、ゴルドに相談を持ち掛けた
「あのすみません、ゴルドさんは剣を作ることも出来るんでしょうか」
「作れることは作れるが・・・儂は魔工が扱えんからただの剣しか作れんぞい。そもそも勇者殿には聖剣があるのでは?」
「ちょっと諸事情がありまして今は持つことができないんです・・・剣は肌身離さず持っていたのでなんだか落ち着かなくて」
「ふむ・・・分かった!勇者殿の剣、全身全霊をかけて作らせてもらおう!出来上がったら声をかけるからそれまで待ってくれるか」
「よろしくお願いします」
ゴルドに剣を打ってもらえることになったアリシアの表情は少し綻んでいた。ここに来て見せた二度目の表情、それで気を良くしたイヴリスはアリシアを連れて次なる場所へと向かった
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