魔王参上
翌日、公開処刑の日がやってきた。普段寝つきがいいのに前の晩は一睡も出来なかったイヴリスは気だるげに王都の道を歩いていた
「くぁ~・・・眠い」
「あるじ目の下隈が凄いよ」
「寝ないとこうなるんだ」
愚痴をこぼしながら重い足を運び続けるとやがて広場に到着した。広場の中央には勇者アリシアを処刑する為の処刑場が設けられていて、そこには処刑を見にやってきた有象無象の人間達が既に大勢待機していた
「うわぁ人間がたくさんいるねぇ」
「そうだな、これだけいれば近づいても怪しまれる事はなさそえだ。だが王都には私の顔を知っている者もいるかもしれないからな・・・おっ、ちょうどいいものがあったぞ。一つくれ店主」
「ルーも!ルーも欲しい!」
イヴリスは露店で売られていたお面を見つけたのでそれで顔を隠し、人を掻き分けながら勇者が来るであろう処刑台の前へと向かっていった
するとイヴリス達がいる方向とは反対の方がザワつきを見せ始めた。何があったのか確認したいが群衆のせいで見ることができない、そこでイヴリスはルインを肩車して向こう側で何が起きているのか見てもらった
「どうだルイン、何か見えたか?」
「んー・・・あっ!あるじ!勇者が来たよ!」
騒ぎの元は処刑人勇者アリシア、収監されている場所から解放されてこの処刑台へと向かって歩いてきているようだった
「この裏切りもんが!」
「私の従姉妹がいた町もアンタが手引きしたんだろ!」
「人の皮を被った悪魔め!地獄へ落ちろ!」
処刑台へと向かうまでの間周囲から罵詈雑言を浴びせられるアリシア、中には予め持ってきていた石を投げつける者まで現れる。その程度避けることは簡単だろうが首に枷の様なものがされているせいか、そもそも避ける気がないのかアリシアは甘んじてそれを受けていた
石が頭部に直撃すると血が流れたが、アリシアは表情を変えることなく一歩また一歩と処刑台に近づいていく。その光景をルイン経由で知らされたイヴリスは再び腹の奥底から黒い感情が湧き出てくるような感覚に襲われる。それをどうにか飲み込もうとしているうちにアリシアは処刑台の前までやって来ていた
階段を上がり全方位からアリシアの姿が晒される状態になると周囲の罵声は更に増していった。しかしその喧噪はアリシアの隣にいた人物の言葉によって静まり返る
「静まれ!国王陛下のお成りだ!」
国王陛下という言葉で民衆は声を発するのやめると先程勇者が歩いてきた方向から馬車がやって来て、処刑台の前で停まるとその中から一人の男が現れた
すると全員が一斉に膝をつき始めたので遅れてイヴリス達もそれに倣う
どうやらあの男が今のこの国の王らしい。現国王の顔を見るのはこれが初だが、その顔は初代国王からは感じていた威厳のようなものは全くといって感じなかった
人間はイヴリス達亜人と違って実力よりも血統や身分を重視する傾向がある。この国王も王族の血族というだけで王の座に就いてるだけなのだろう。そんな国王が用意された席に着くと自身の声を大きくする道具を用いて民衆に聞こえるよう話し始めた
「これより勇者アリシアの処刑を執り行う。執行官、罪状を読み上げよ」
「ハッ、まず勇者アリシアは先の戦で魔王討伐という偉業を成しました。しかしそれは誤報であり先日の報告では魔王の生存が確認されています。更に数週間前から村や町が魔王軍に襲撃された報告があります」
淡々と紙に書かれている内容を読み上げる執行官、それを民衆は物々しい雰囲気の中で見守っている。執行官は続けた
「残念ながら逃げ延びた者はおらず目撃者からの証言を得ることは叶いませんでしたが、代わりに魔王軍の物と思われる旗、そしてそれを手引きした勇者アリシアが魔王と密会していた場面を手に入れました」
執行官がそう告げると魔王軍が掲げている旗が上げられ、更には上空に四角い板のようなものが現れるとそこに確かにアリシアとイヴリスが密会している場面が映し出された。イヴリスも知らない魔法、興味深気に見ていると周囲からは悲鳴にも似た声が上がった
これが真実か嘘かなど最早関係ない、これだけで今の状態の民衆を信じ込ませるには十分な内容だった
「以上の内容により勇者アリシアに死刑を求刑する」
「偽勇者を殺せー!」
執行官が罪状を読み終えると民衆は一斉に沸き立つ。アリシアの処刑が進むにつれて空はどんどん厚い雲に覆われていくが周囲はそれどころではなかった
沸く民衆を国王が手で制止、アリシアに弁解の時間を与えた
「勇者・・・いや罪人アリシアよ。最後に申し開きはあるか」
「私は誓ってこの国を裏切ってなどありません。今挙げられたものは事実と異なるものです」
「そうか、残念だ」
国王はその言葉を最後に執行官に目配せをして刑の執行を促した
「これより刑を執行する!」
執行官の言葉で別の執行官達がアリシアの体を押さえつけて無理矢理頭を垂れる姿勢にする。そして渡された大斧を大きく振りかざしアリシアの首に狙いを定めた
それに対して一切の抵抗を見せないアリシア、周りの罵声を一身に受けただその時がやってくるのを大人しく待っていた
そして執行官の狙いが定まり斧を振り下ろした。だがその瞬間アリシアの首を落とそうとした執行官に上空から雷が襲いかかる
「な・・・何事だ!?」
周囲からはどよめきが起こり雷をまともにくらった執行官からは煙が上がっていた。が、まだ息はある
その一部始終を見ていた国王は呟いた
「まさか天が勇者を助けたというのか・・・」
「何が天だこの阿呆が」
その言葉でそれまで雷が落ちた場所を見ていた者達が一斉に上空を見上げた。そこには仮面をつけたルインとその背中に乗ったイヴリスが民衆達を見下ろしていた
「な、何者だ!」
「ハッハッハ!魔王イヴリス参上!勇者アリシアを奪いにやってきた!」
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