魔王、勇者の救出に動く
勇者が死罪、町中を走り回りながらビラを撒き散らす男は確かにそう言っていた。しかも死罪の理由が魔王と裏で繋がっていたという荒唐無稽なもの
いつの間にそんな話になってしまったのか皆目見当もつかないが、勇者アリシアと出会ったのは初めて戦ったあの時と先日町であった二度のみ。そのうち一回は相手がイヴリスだと気づいていない状態
それにあれだけ敵意むき出しだった相手が魔王と手を結ぶわけがない。というかそもそもそんな事実はない
自分の知らないところで誰かが自分を利用し勇者を陥れようとしているということは魔王本人であるイヴリスには容易に予想がついた
「まさか勇者様が魔王と繋がっていたなんてなぁ・・・ってことは魔王はまだ何処かに潜んでいるっていうことだよな」
「せっかく平和が訪れると思ったのに・・・俺この前来た時泣きながら握手しちまったよ」
男の言葉を聞いていた町の人間達はビラを見ながら嘆いていた。こんな上辺だけの情報を鵜呑みにしてしまう人間達もどうかと思うが、この情報の発生元となっているのが王都であるということが信憑性を増しているのだろう
だが周りで勇者を非難する声が上がる一方で、マーガレットだけはビラに書かれていた内容と以前会った勇者の姿が重ならないようで困惑していた
「イヴさん・・・今のって本当なんでしょうか?私が見た勇者様はそんな事をするような方には見えなかったんですが・・・」
「当たり前だ、そんな事するわけないだろう」
「えっ?」
「あっいや、あの勇者がそんな事をするとは思えないというのは私も同意だ・・・すまんが私は急用ができた。商品化の件任せたぞ」
「は、はい。またお待ちしていますね」
マーガレットには予定があると言ってイヴリス達は町を出ることに。町を出る途中でも勇者を貶す者達で溢れていて聞いているこちらも気分がいいものではなかった
それを見ていたルインが心配そうな顔をしてイヴリスの腕をギュッと掴んできた
「あるじ大丈夫・・・?」
「ん?何がだ?ルイン」
「だってそんな顔見たことがないから」
ルインに言われ窓に映る自身の顔を見る。そこで初めて自分が怒っていることに気づいた
腹の底からふつふつと湧き上がってくる怒りの感情、多少の苛立ちを感じる事はあっても本気で怒るという事は自分の中でも数える程しかなく、それももう随分と昔の事だった
何故敵である勇者が貶されただけでこうも心がザワつくのか自分でも不思議に思っている。勇者の名を知っていなかったらこうはなっていなかっただろう
一度心を落ち着かせ、それから改めて今後の事を決めることにしたイヴリスの方針はすぐに定まった
「とにかく確かめに行ってみるか、王都へ」
「王都に行くの?ルー王都はじめて!ワクワク!」
「ふっ、あまり燥ぐなよ」
イヴリスの思惑とは別に王都に行けることを喜ぶルイン。以前イヴリスとマリアが王都へ赴いた時の話を何度かした事があるからか、王都がどんなものか楽しみにしているようだ。その無邪気な姿のお陰でイヴリスは普段の様子に戻ることができた
聞いた話によるとホルストンの町から王都までは馬車で一週間はかかる距離、普通に移動するとなるといくらイヴリス達でも一日での到着するのは困難。だが魔法を使えばその距離を一瞬で移動することが出来る
2人は町を出た後人目のつかない離れた場所まで移動すると魔法を発動した
「転移門」
魔法を唱えるとイヴリスの前に異空間へと繋がる扉が現れた。転移門は自分の行った事がある場所を思い浮かべれば一瞬でその場へと移動することができる
「よし、行くぞ」
イヴリス達は転移門を使い王都を目指した。転移門通り抜けた次の瞬間には目の前に王都の光景が広がる・・・はずだった
「あれ?ここが王都?森の中にあるの?」
「いやこれは・・・どうやら失敗してしまったようだな」
転移門はあらゆる場所に一瞬で行くことができる非常に便利な魔法だが、目的地となる場所のイメージがしっかりできていないとイヴリス達のようにズレた場所に転移させられてしまう。イヴリスはその頭に思い浮かべるという行為が苦手で、今回の様な緊急の時だけ仕方なく使うことにしている
「近くまでは来ていると思うから空から見てみよう」
ルインに乗って上空へと移動し周囲を見渡す。すると数キロ離れた先にイヴリス達が目指していた王都を見つけた
「わふぅ~、さっきいた町よりもずっと大きいよあるじ」
「久々に来たが随分と様変わりしているな。まぁ何百年と経てばそりゃ変わりもするか」
昔来た時よりも王都はずっと大きくなっており、二つの壁で区切られていて中央には王国の王が住まう城が建っていた
まずは勇者アリシアがどこにいるか突き止めなければいけない。イヴリス達は王都へ入る門の前までやって来るとマーガレットから貰った札を見せた。この王都でも使えるか疑問だったが問題なく通過することができた
ルインには不可視化の魔法をかけて耳と尻尾が見えないようにした。ここはホルストンの町と違い王国の中心地、バレたらどうなるかも分からないし勇者を救う前に騒ぎにしたくはない
「しかし人が多いな、とりあえず何処か飯屋にでも入って腹ごなしをしながら情報収集をしよう」
「ごはんたべる~」
イヴリス達は適当なお店に入り、そこで勇者についての情報を得ることに。幸いなことに周りの話題も勇者アリシアの事で持ち切りだったのでその事について聞き出すのは簡単な事だった
「なぁ、私はついさっき王都に来たばかりなんだが勇者の処刑というのはいつ行われるんだ?」
「なんだ公開処刑を見に来たのか?物好きだな。勇者の処刑は明日の正午執り行われるよ」
「なるほど明日か・・・明日!?」
ホルストンの町ではついさっき知れ渡り始めたばかりだったので、少なくとも数日から一週間程度は猶予があると思っていた
既に一日は切っており残された時間は十数時間、その時間で勇者アリシアをどう救出するかイヴリスは考えあぐねることとなった
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