魔王、監視を見抜く
勇者達がホルストンの町に滞在していた頃、イヴリスとルインは村の近くまで来ていた。町に勇者がやって来たことは想定外だったが何事もなく帰ってくることができた
しかし安心したのも束の間、村にはマリアが放った偵察専門の部下シャドウが待ち構えていることにイヴリス達はこの時点ではまだ気づいていなかった。一方のシャドウも村の外にいるイヴリス達の存在には気づいていない
(マリア様の指示通りここ数日村の監視を続けているが・・・魔王様に関する情報は特に得られない。外れか?)
人間達の陰に潜んで会話を盗み聞きしたり、夜中家の中に侵入してイヴリスがいないかなど隅々まで捜索したが存在が確認できるようなものは見つからなかった
監視していろとの命令があった以上自己の判断で監視を終わらせることはできないので引き続き監視を継続するしかないが、正直ここにはイヴリスに関する情報はないのではないかとシャドウは考えていた
しかしその疑念は人間の言葉によって払拭された
「あっ!イヴ姉だー!」
人間の子供が声を上げると村の外の方へと走っていった。シャドウがこの村の監視を始めてから初の訪問者、その存在を確認しようとそっと物陰から覗く。するとそこにはマリアが必死に探し続けていた魔王イヴリスの姿があった。更にその横にはフェンリルのルイン、シャドウは思わず声を出しそうになったがそれをどうにか堪える
(まさか魔王様が本当にこんな小さな人間の村に住んでいたとは。早急にマリア様に報告をしなければ・・・)
この事を伝えればマリアは大喜びで駆けつけるだろう。最大限の注意を払いつつイヴリスに気づかれぬ様村を離れようとするシャドウ、しかしその瞬間背筋が凍るような感覚がシャドウを襲う
そっと背後を振り返るとシャドウがいる方角に対してジッ睨みつけているイヴリスがそこにいた。その様子はまるでシャドウを捉えているように見えた
(こ、こちらの存在に気がついた?いや気のせいだろう。あそこまで距離が離れている上にこちらは気配を消して陰に隠れているんだ、気づく筈がない)
これでも偵察を生業としているシャドウ、いくら魔王相手といえどそんな簡単に気づかれてしまうなんて諜報員としてのプライドが許さない。もう一度確認しようと振り返ると先程までいた場所に既にイヴリスの姿はなかった
(えっ?消え・・・)
「おいお前、そこで何をしている」
「ヒェアッ!?」
イヴリスの姿が消えたその直後、シャドウの背後から声が聞こえ振り返ってみるとそこには先程数百メートル先にいたはずのイヴリスの姿があった。驚きのあまり声が裏返る
「ま、魔王様!」
「お前魔王国の奴だよな?名前は覚えてないが」
こんな状況になることを想定していなかったシャドウはこの場をどう切り抜けるか必死に考える。イヴリスにバレてはただで帰されるはずがない
シャドウは諜報に特化していて戦闘能力は皆無、仮に戦う術があったとしてもイヴリス相手にそれは無謀というもの
故にシャドウがとった行動は・・・
「魔王様お願いします!マリア様が魔王様の帰りを待っております!いえ、マリア様だけでなく他の者達も!どうか何卒!」
「マリアには悪いとは思うが私は帰らないしお前らがどう思っているかなんて興味もない」
無理矢理連れて行くなんて事は出来ないシャドウはイヴリスに懇願するしかなかった。だがその苦肉の策でとった行動も即答で拒否される。こうなっては残された手段は一つしかない、一か八かイヴリスから逃げてマリアに報告をすること
魔王国領の近くまで逃げることが出来ればそれ以上追ってくることはないだろうということと、逃げ足だけならそこそこの自信があるという点に賭けて逃走を図る
影に溶け込み身を潜めつつイヴリスから逃れようと全速力で影の中を移動していく。このまま逃げ切ることが出来るかとも思ったが、そう甘くはなかった
「その程度で私から逃げられると思っているのか」
「どういうことぉ!?」
後ろを振り返るとなんと自分と同じく影の中を移動して来るイヴリスがもうすぐそこまでやって来ていた
自分の能力があっさりと真似されてしまったシャドウのアイデンティティは崩れ落ちてしまい、その後呆気なく捕まってしまった
「お前に出来ることが私に出来ない筈がないだろう」
「魔王様・・・どうかご再考を」
「しつこい奴だなお前も。だが仮にも私の配下だった者、命を取ることまではしないさ。それにお前がいつまでも帰って来なかったらマリアが怪しむだろうしな。だから記憶の方を弄らせてもらうぞ」
そう言うや否やイヴリスは頭を掴み、記憶消去の応用版である記憶操作を使って抵抗しようとするシャドウを大人しくさせた。記憶操作をかけられたシャドウの頭の中は今霞がかっているようなぼんやりとしている状態、そこにイヴリスが事実とは異なる事を伝えて相手にそれが真実だと思い込ませる
「お前はここよりも遠く離れた町村で魔王様とソックリな人物がいたという話を聞いた。この村には魔王様はいなかった、いいな?」
「分かりました・・・」
イヴリスの虚偽の情報を信じ込んだシャドウはそのままフラフラと魔王国がある方へと帰っていった
「私の居場所が分かっていたらマリアが直接やって来るはず・・・恐らく手鏡を使ったな。また使われる前に対策をしないとだな」
ちょうど村を出ている時で助かったが相手がいつどのタイミングで視てくるか分からない。少なくともシャドウがマリアに報告をするまでの時間は大丈夫なはず、その間に対策を施そうとイヴリスは早々に動き始めた
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