勇者、束の間の休息
イヴリス達が町を出ていった後も勇者アリシアは町の人達に囲まれてその対応に追われていた
町や村にあまり顔を出すことがないからか王都以上の盛り上がり、そういう対応に慣れていないアリシアは戸惑いながらも疲れた体に鞭打ってなんとかそれをこなしていった
一時間程それが続いた後に解放されたアリシアはそこでようやく腰を下ろすことができた。空を見ながら一息ついていると町の外に行った子供2人の事をふと思い出してしまい表情が暗くなる。それをちょうど見ていたアベルが声をかけてきた
「勇者殿、どうされましたか」
「いえ、町を出る子供がいたから心配で声をかけたんですが・・・却って怖がらせてしまったようで反省しているんです」
「はっはっは、勇者殿もそんな事を気にするのですね。きっと勇者殿の方から声をかけられてビックリしただけですよ」
「そうでしょうか・・・」
アリシアは感情を表に出すのが苦手、無表情で詰め寄ってしまうことがあるので子供と対面した時に泣かれることが多いのを気にしている
幼い頃は周りの子と同じように笑っていたはずなのに、いつの日からか自分がどの様に笑っていたか分からなくなってしまい上手く表情が作れない
しかしアリシアはそれでも構わないとも思っている。自分の代わりに沢山の人達が笑顔でいられるようになったらそれで十分だろうと
「そうだ、今夜町長殿が宴会の場を設けてくれるそうですがどうされますか?」
「すみません、体調が優れないので今日はもう部屋で休ませてもらいます」
「そうですか、分かりました。町長には私の方から伝えておきますので今日はごゆっくりお休み下さい」
「ありがとうございます」
せっかくの厚意を無下にして申し訳ないが今の自分に歓迎される程の価値はない。アリシアは町長が用意してくれたという部屋に行こうと宿の方へと足を向ける
その道中でも町の人達がアリシアに向けて手を振ってきたのでそれに応える。宿に到着すると従業員の人が丁重に扱ってくれ、部屋へと案内してもらった
そこはアリシア1人で使うには十分すぎる程広々とした部屋、普段は重客の為に使われる部屋らしいがそこを急遽アリシアの為に用意してくれたそうだ
(私だけこんな広くて立派な部屋を貸し切りだなんて、町の外にいる人達に申し訳ないな)
もっとこじんまりとした部屋に変えてもらおうかとも考えたが、宴会を断り更にはわざわざ用意してくれた部屋まで変えろなんて失礼にも程がある。仕方がないので大人しくこの広い部屋を使わせてもらうことにした
普段肌身離さず持っている聖剣もこの時ばかりは手放し、万が一盗まれないよう鍵付きの棚に入れ保管しておく
浴場も併設されているようだったので汚れている体をシャワーで洗い流し熱めに張ったお湯に体を浸ける。魔王国にいる期間は濡らした布で体を軽く拭くこと位しか出来なかったので、久々の湯船は体の疲れがお湯に溶けていくようでとても気持ちが良かった
「はぁ・・・サッパリした・・・」
お風呂から上がった後は誰も見ていないのをいい事にふかふかベッドに寝転がり羽を伸ばしていた。外からは賑やかな声が聞こえてきて宴会が始まったのが分かる
一旦落ち着いてたらこれからの事を考えようと思っていたが、お風呂に入ったことで張り詰めていた糸がきれてしまったようでそのまま眠りについてしまった
目が覚めると外はもう陽が昇り始めていた。昨日から何も食べていなかったアリシアは朝食を頼もうとすると、アリシアが起きる時間を知っていたかのようなタイミングで宿の人が朝食を持ってきてくれた
「ありがとうございます」
「それとこちら勇者様にお渡しするようにと」
朝食と共にお店の人に手渡された手紙にはアベルの名が。内容は追加の食料追加の為にこの町で一番大きいリーブル商会に行くのでアリシアも付いてきて欲しいというものだった
朝食を済ませたアリシアはお店の人に場所を聞き、急いでリーブル商会へと向かった
商会がある場所に着くと既にアベルと商会長と思われる男性が話している声が聞こえた。アリシアを呼んだ理由は交渉を可能な限り円滑に進める為、直接の交渉はアベルに一任するしかない
その光景をただ眺めているアリシアに声をかけてくる女性がやってきた
「初めまして勇者様、私商会長の娘のマーガレットと申します」
「初めまして、お世話になります」
暇を持て余していると思われたのかマーガレットはアリシアの話相手として色々話を振ってきた。そこでマーガレットの母親が最近まで病で床に伏していたことを聞かされた
「母は魔力欠乏症にかかっていて生死の境を彷徨っていたんです。けれど偶然出会った方がその病気を治してくれたんですよ」
「それは良かったですね。さぞ優秀なお医者様だったのでしょう」
「いえ、その方は医者ではなくただの村人らしいです。それに凄いのは病を治しただけでなく私が野盗に襲われていたところも助けてくれたんです!」
それほど優秀な人間であれば是非軍に入って共に戦ってほしいところ。強制は出来ないがせめて勧誘位はとアリシアはその人物についてマーガレットに問いかけた
「差し支えなければその方の名前や特徴を教えてもらってもよろしいですか?」
「イヴさんという方です。背丈は私と変わりませんが燃え盛るような赤い髪で思わず見惚れてしまいそうな程綺麗な方でした」
その名と特徴と聞いた瞬間、アリシアの頭に思い浮かんだのは魔王の姿。が、まさか魔王が人を助けるなんて事をするはずがないしそもそももうこの世にはいないはず。自分があの時しっかりと仕留めていれば、だが
きっと偶然だろう、そう思うようにしてその人物の事はしっかりと覚えておくようにした
それから数日が経過した後、十分な休息を得たアリシア達勇者軍は王都を目指しホルストンの町を発った
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