勇者軍、惨敗を喫する
魔王軍と勇者軍との戦争が開戦されてから何日経っただろう。あれから魔王国を攻め続けたが結果的に勇者軍は魔王国の牙城を崩すことが出来なかった。魔王国領を攻め落とすことができなかった勇者軍の消耗はかなりのものでこれ以上の損害は致命傷になると判断し撤退を余儀なくされた
四天王ドゥルージと壮絶な戦いを繰り広げていた勇者アリシアだが、こちらも結局ドゥルージを討つことは叶わなかった
何の成果も得られずただいたずらに兵を減らしただけに終わってしまった勇者軍は重苦しい雰囲気の中帰路へと着く羽目になった
「くそっどうなってんだ、魔王が倒された割に奴等全く士気が下がっていなかったぞ。魔王がやられた事なんて関係ないってのか」
「もしやあの吸血鬼が新たな魔王となって既に奴等の士気を上げて立て直したんじゃ・・・」
魔王という絶対的存在を倒したことで相手の士気はガタ落ち、自分達は掃討戦に参加するだけだと思っていたのに蓋を開けてみたら真逆の結果になってしまったことに未だ兵士達は混乱している様子だった。そんなセルビニア王国の兵士達が進む方向とは別の方へと移動を行い、勇者軍から離れていくもう一つの軍があった
「おいあれ、見てみろよ魔道国の奴らだ」
兵士の一人が指差す先にいるのは現在王国と同盟関係にあるヒューストン魔道国。魔法が生活の基盤となっていて人口の九割が魔法を必要とする仕事に携わっている魔法国家である
魔道国は他の国よりも魔法と密接に関わっていて、先述通りそれが日常生活に活用されている。水道を引かなくても捻るだけで水が出てくる蛇口、僅かな魔力を込めるだけで火を起こすことが出来る発火石と名付けられた物等様々な物を作り出しており、それらの道具は総称として魔道具と呼ばれている
そしてその技術は日常にだけでなく戦闘にも取り入れられている。今回魔王国との戦に参戦した魔法師団と呼ばれている部隊には一人一本特注の杖が与えられていて、その杖には自身の魔力量の限界を引き上げる効果と魔法の威力を上昇させる魔晶石と言われている魔力を帯びた石が埋め込まれており、それによって一人一人の戦闘力を上げていた
「あいつら遅れてやって来た癖に撤退する時はそそくさと帰りやがって。本当に同盟国なのか?」
「だがあの魔法師団が配置された軍の被害は毎回他のところよりも軽微なものだそうだぞ。あの部隊がいるのといないのとでは大きな差があるのも事実だ」
魔道国は王国と比べて兵数こそ少ないものの、その分兵の質が高く兵数以上に戦いに貢献している。王国はどちらかというと質より量といった感じで、魔法師団と似たような部隊もあるが魔道国の洗練された部隊とは雲泥の差があった
魔道国軍の姿が小さくなっていくのを確認すると兵士達の間で今度は勇者アリシアの話題が上がった
「他国のことなんかよりもうちの勇者様だ、なんだ今回のあのザマは。魔王を倒したっていうから今回も期待していたってのにガッカリしちまったよ」
「確かに、あの四天王を倒す事ができれば流れが変わっていたかもしれないしな。敵を抑えておくこっちの身にもなってほしいもんだ」
「勇者様が魔王を倒したってあれ・・・実は嘘なんじゃないか?」
「いや流石にそれはないだろ、実際に倒したところを目撃してる奴だっているんだから」
前回と今回の戦いぶりの落差に不信感を募らせる者も少なくはなかった。しかし面と向かってそれを言えるわけもなく、陰でコソコソと不満を漏らすことしかできない兵士達。けれどそれは勇者の耳にはしっかり入ってきていた
勝手に期待され勝手に失望される・・・勇者に選ばれたある種の宿命であり予想がついていたことだが直接耳にしてしまうとやはり気分は良くない
当たり前だがアリシアも決して手を抜いていたわけではない。寧ろ魔王と戦った時よりも死と隣り合わせな戦いだった
だが周りが勇者に求めているものは勝利へと導く力、結果を残さなければ勇者としての存在意義はない
「お疲れのところ申し訳ない勇者殿」
アリシアの所に馬を走らせやって来たのは第二軍団長のアベル。持ち場を離れアリシアの元に来たのは慰めの為ではなくこれからの方針を相談する為である
「アベル軍団長、問題ありません」
「一先ず一旦ここから一番近いホルストンの町へ向かおうと思っています。そこで休息と追加の食料調達をしてから帰還しようと思っているのですがよろしいですか」
「はい、そのようにお願いします」
「しかしまぁ・・・今回の戦果を報告したらまた上の人がうるさいでしょうねぇ」
アベルがいう上の人というのはこの場合財務を担当している人に当たる
軍を動かすのには当然だがお金がかかってくる。万の兵を動かす為の食糧や装備、失った兵の補充や新兵の教育等々・・・
国の財源を利用しているのだからそれを管理している側の人は毎回戦の度に頭を悩ませている
「すみません、私が不甲斐ないばかりに」
「そのような事は・・・」
「いえ、私の役目は常に先頭に立ち味方を鼓舞し勝利に導くこと。今回敗北したのはそれが出来なかった私の責任です」
自分自身を強く叱責するアリシアに対しアベルは何も言えず、一礼だけして持ち場に戻って行った
しかし幸か不幸か、勇者軍の目的地はイヴリスのいるホルストンの町。町に刻一刻と勇者軍が迫っている中、イヴリスはというと・・・
「ハッハッハ!タダで呑む酒は格別だなぁ!ほらっ!ノーランドももっと呑め!」
「い、いえ私はもう・・・」
「あるじー、ルーも飲みたーい」
「お前は牛乳を飲め、大きくなれないぞ」
イヴリスはノーランドに母娘を救ってくれたお礼に何でも希望のものを用意すると言われたのでお酒を用意してもらい、久しぶりに限界が来るまで羽目を外していた
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