魔王、再会する
「さて、そろそろ上がって寝るとするか。寝る前にもう少しだけ呑んでもいいよな」
体の芯まで温まったところで湯船から上がりまたお酒を呑もうかと考えていたその時、イヴリスは何者かに見られているかのような視線を感じ取った
酔っ払った村の男共が起きてきて覗いているというのなら一発殴る程度で許してやろうと思ったがそういった雰囲気でもない。イヴリスが感じたのは人間の気配というよりも魔獣の気配に近いものだった
「おい、コソコソとしていないで出てきたらどうなんだ」
何処かに潜んでいる覗き魔に対して少し語気を強めて発する。すると先程まで浴場を照らしていた月明かりが突然失われイヴリスの周りが闇に包まれた。今日の夜空には雲ひとつなかったのでふと見上げると上空には巨大な獣のシルエットが浮かんでいた
そのシルエットがイヴリスの姿を捉えると一瞬にして距離を詰めてくる
「あるじ~~!!」
「ぐえーっ!?」
空から突如降ってきた魔獣に突進されたイヴリスはいきなりの出来事に虚を突かれ、魔獣と共に吹き飛ばされていく。衝立を破壊しそのまま森の方まで飛ばされ、何本もの樹をなぎ倒したところでようやく止まった
この程度でイヴリスは傷つかないのでなんともないが、せっかく綺麗にした体がまた汚れてしまっていた。しかしそれよりもイヴリスが気になったのは飛んできた魔獣が自分のことを主と呼んできたこと。イヴリスはその声に聞き覚えがあり、自分の事を主と呼んでくる存在は一体しか考えられなかった
体当たりしてきた魔獣の顔が月明かりで照らされたことでようやくその魔獣の正体が明らかとなる
「ルイン!?」
「会いたかったよあるじ~!」
イヴリスを主と呼ぶ白い毛を靡かせた狼のような魔獣ルイン。イヴリスを襲ってきたのは魔王国でペットとして飼っていた魔獣が正体だった
魔王国を離れてから一月以上、遂に身内に発見されてしまった。誰にも居場所を伝えずにこの地までやって来たはずなのに一体どうやって突き止めたのか、色々と思うところはあったが今はそれよりも森の中で全裸でいることの方が問題だった
「とりあえず真っ裸なのはあれだから一旦離れてくれないか?」
「あっ、ごめんあるじ」
「というかお前も随分と汚れているな。来い、一緒に体を洗うぞ」
全裸のまま森へと飛ばされたイヴリスは一時浴場まで戻り汚れてしまった体を洗い直すことに。魔王国からやってきたルインもかなり汚れていたので一緒に行き、そこで話をすることにした。
浴場に着いた途端お風呂の中へとダイブをするルイン、そのせいで満タンに入れてあった浴槽のお湯が一気に半分近くまで減った
「お前そんな姿じゃお湯が無くなるし洗うのが大変だろ、姿を変えろ」
「はぁ~い」
イヴリスの言うことに従いルインは姿を変えようとする。体発光したかと思うと巨大な体がみるみるうちに小さくなっていき、やがて子供の大きさ位にまで縮んだ
絹糸のような白い髪に頭には耳、腰の辺りに尻尾を生やした可愛らしい子供の獣人の姿。これがルインの人型の状態となる
人型になったルインはイヴリスの前まで行くと上機嫌に尻尾ブンブンと振るわせながら洗ってと催促してきた。それに対してイヴリスは拒むことなく受け入れた
「わふ~♪あるじに洗ってもらうの久しぶり~きもち~♪」
「そんなことよりルイン、お前どうやって私の場所を突き止めたんだ?」
「あるじ忘れたの?あるじとルーは主従契約しているからお互いの場所が把握できるんだよ」
「あぁ~・・・そういえばそんなのあったな。ならもっと早く来ることは出来たんじゃないか?どうして今にやって来たんだ。あとまさかとは思うがここに来る事は他の奴等には伝えてないだろうな?特にマリアとかマリアとか」
「ルーも本当は早くあるじの所に行きたかったんだけど周りの目が厳しくて見つかっちゃいそうで動けなかったんだぁ。でも少し前に人間達がまた懲りずに攻めてきたからマリ姉達がそっちの方に気を取られてる間にこっそり抜け出してきたんだ」
ルインの計らいでマリア達にはまだこの場所がバレていないことを知ったイヴリスはホッと胸を撫で下ろした。勇者軍が再び動き出した事は瑣末な問題、マリア達がいれば魔王国が陥落することはまずないだろう。そもそも自分が相手をしていたのは勇者だけで基本は戦っている様子を眺めているだけ。自分がいてもいなくても魔王軍の有利は変わらない
そんな事を考えながら体を洗っていると今度はルインが質問してきた
「ねぇ、あるじはどうして人間なんかの村で生活しているの?」
「ん?まぁあっちにいるよりこっちの方が色々とやることがあって退屈しないからな。あそこにいても勇者と戦うこと位しか役目がないし」
「ふーん・・・じゃあルーもここで暮らす!」
「はぁ?いやいやお前は風呂から上がったらもう帰れ。村にずっといたらマリアが怪しむだろうしお前にはここは退屈かもしれないぞ」
「やーだー!ルーはあるじと一緒にいる方がいい!」
駄々をこねるように体にしがみついてくるルイン。小さい体で抱きつくその姿は傍から見れば微笑ましく見えるかもしれないが元は巨大な魔獣、姿が変わっても力はそのままなので抱きつかれているイヴリスの体はミシミシと悲鳴を上げていた。イヴリスだからこそなんともないが人間ならこれだけで命を取られるだろう
これは何を言っても無駄だなと判断したイヴリスは観念しルインの頭に手を置いた
「分かった分かった、お前もこの村で暮らしていいから。その代わり人間達を傷つけたりたりするなよ?人間は脆いからお前のなんでもない行動でもすぐ怪我するからな」
「ほんと!?やったー!気をつけるよ!」
ルインが居なくなった事をマリアは既に察知しているかもしれない。魔王国に帰った後マリアに問い詰められてボロを出されるより一緒にいた方が都合がいいだろうとイヴリスは考え直すことにした
その日は新しい家でイヴリスとルイン、2人で1つのベッドを使用して眠りについた
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