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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第97章

 深夜・・・。


 良作が、尿意を感じて、ふと目を覚ますと・・・理沙が、自分に半身はんみで抱きついて寝ている。


 すやすやと、かわいい寝息を立てながら。


 (まいったなぁ、理沙ちゃんったら・・・すっかり甘えん坊なんだから。)


 良作は、理沙を起こさないように、そっと自分の体に巻きついた理沙の右腕を解いて、優しく髪をなでてあげた。


 ・・・そして、トイレから戻った彼は、部屋の中で誰かが独り言をつぶやいているのを耳にした。


 おそるおそる、ドアに耳を当て、中の声に注意を払っていると・・・どうやら、それは、理沙の寝言のようだった。


 そっと、部屋に入ると、理沙が寝返りを打ちながら、自分の名を呼んでいる。


 「う~ん・・・良ちゃん・・・良・・・ちゃ・・・ん・・・」


 良作は、ここで起こして、理沙の睡眠を妨げてはならない、と思った。


 彼同様、理沙にだって、明日は学校という「仕事場」がある。


 ここで下手に彼女を起こして雑談にでもなれば、お互いの日中の「仕事」に影響しかねない。


 そこで良作は、しばし様子を見て、理沙の寝言が落ち着いたら、またいっしょにとこに入ろうと考えていた。


 「う~~ん、良ちゃん。良ちゃん・・・いい匂い。でもね、良ちゃん・・・美絵子ちゃんの匂い・・・美絵子ちゃんの・・・匂いがするの・・・」


 良作は、驚いた。


 理沙の寝言から、まさか、美絵子の名が飛び出すとは思いもよらなかったからだ。


 (理沙ちゃん・・・『美絵子ちゃんの匂い』だって・・・? まさか・・・!)


 何かに思い当たったのか、良作は、あわてたように、理沙の体に自分の鼻を近づけてみた。


 ・・・なんと、理沙から、「新緑」のような、すがすがしく、爽やかな芳香がする!


 これまで、美絵子や里香から、その「新緑」のような匂いが、自分の体から出ているということを良作は聞かされていた。


 理沙の体から出る「芳香」に気づかなかったのは、理沙と自分が、まったく同じ香りを持っていたからだ、との、里香からの見解さえも。


 さきほどの理沙の寝言での、美絵子の「芳香」に関する、理沙の言及・・・


 そして、理沙の「芳香」に自分が気づいたということは、つまり・・・!


 「いやっ、いやっ! ・・・美絵子ちゃん、あっちへ行って!! もう、良ちゃんから離れてよぉ・・・お願いだからぁ・・・」


 とつぜん理沙は、激しく身をよじらせ、暴れるように寝返りを始めた。


 「・・・理沙ちゃん! 理沙ちゃん、どうしたの! 大丈夫・・・!?」


 良作は、そんな理沙を黙って見ていられなくなり、思わず、理沙を大きく揺さぶり、背中を何度もさすってあげた。


 「良ちゃん・・・。おはよ。どうしたの・・・?」


 「どうしたの、じゃないよ、理沙ちゃん。すんごくうなされてたじゃんか。こんなにびっしょり寝汗かいちゃってさぁ・・・。」


 「いま、何時・・・良ちゃん??」


 「まだ、夜中の三時だよ。・・・理沙ちゃん、とにかく、着替えないと。これじゃ、風邪ひいちゃうよ・・・?」


 「あー、ほんとだぁ・・・。あたし、着替えもってくる。もってきたら、ここで着替えるからぁ・・・良ちゃん、手伝って。ね?」


 「わかった、わかった。手伝いでもなんでもするから、とにかく着替えよう。早く、下着と、新しいパジャマもっといで。」


 「はーい。・・・じゃあ、また裸になっちゃお。良ちゃん、また、あたしのおっぱい触る・・・?」


 「もお、いいからいいから。ほんとに、風邪ひいちゃうゾ?」


 「うんっ! じゃあ、もってくるね。待ってて。」


 そう言って理沙は、良作の唇に軽くキスをして、自分の部屋のクローゼットに、着替えを取りに行った。


 (そういえば、理沙ちゃんとキスするのって、あの日以来だなぁ・・・。考えてみれば、俺の『ファーストキス』って、美絵子ちゃんじゃなくって、理沙ちゃんだったんだよなぁ・・・。)

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