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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第72章

 それから一週間が過ぎた。


 良作は、いよいよ美絵子との再会が果たせるきっかけが出来たことに胸躍むねおどらせながら、やや緊張もまじえて、セツさん宅を訪問した。


 自転車でK神社を過ぎ、踏切を越え、さらに公民館とそろばん塾を過ぎ・・・駄菓子屋の角を曲がって歩道橋をくぐると、かつて美絵子の住んでいた、セツさん宅が見えてくる。


 秋のさわやかで心地よい空気を全身で受け、トンボたちが頭上をかすめていくのを感じながら、やがて良作は、なつかしの美絵子の家に到着した。


 自転車を停め、ふと庭のほうを見ると・・・セツさん本人が、花壇の手入れをしているのが見えた。


 良作は、はやる気持ちをおさえながら、ゆっくりとセツさんに近づいていった。


 しゃがみこんで草むしりをしているようだ。


 彼は、後ろ姿の彼女に、そっと声をかけてみた。


 「あのう・・・すみません。先日の夜、お邪魔した、高田良作ですが・・・」


 するとセツさんは、振り返って良作の姿を見たとたん、まゆをひそめて、顔をこわばらせた。


 「・・・何しに来たんですか?」


 開口一番かいこういちばん、セツさんから出た言葉は、これだった。


 「はい・・・?」


 良作は、予期していなかった彼女の言葉に、一瞬、とまどっていた。


 立ち上がって良作と向き合ったセツさんは、さらに厳しい言葉を投げかける。


 「・・・あなた、先日ここに来たときに、『自分は、美絵子の友人だ』と、おっしゃいましたよね。忘れたとは言わせませんよ。・・・そう、はっきり、おっしゃいましたよね?」


 「え・・・? は、はい。そう言いました。僕は、美絵子さんの、昔の友達なんです。」


 「本当にそうなのかしらね。正直、疑わしいわ。あのねぇ、私ね、あれから電話してみましたの。そしたら、お宅なんか、ぜんぜん知らないって言うじゃありませんか。・・・いったい、どういうことなのかしらね?」


 「あ・・・あのう、美絵子さんがそう言ったんですか? 彼女本人が。」


 「時子がそう言ったんだから、間違いないでしょうよ。・・・あなた、うちの実の娘まで疑うんですか? あの子はね、私に一度でもウソをついたことのない、正直な子なのよ。それを、見ず知らずのあなたに疑われるなんて・・・侮辱だわ。失礼にも、ほどがあるじゃないの!」


 「い・・・いえ、僕は、そんなつもりでは・・・」


 「とにかく、もうお引取りください。そして、ここには二度と来ないで。あなたの名乗ったお名前・・・『高田良作』、でしたっけ・・・それすら、偽名を使っているんじゃないのかって、かんぐってしまいますよね。」


 「・・・・・・。」


 「本当はね、このまえお渡しした美絵子の写真・・・もう何枚もない、あの頃の美絵子を写した大切な写真も、今すぐ返してほしいくらいなのよ。・・・でも、あなた、どうせ返すつもりなんてないんでしょう? よござんす。どうぞ、持っていてくださいまし。その代わり、あの写真を何かに悪用するようなことがあったら、迷わず警察に通報しますから、そのおつもりで。」


 「そんな・・・・・・」


 「とにかく・・・これで、お引取りください。さあ、早く帰って! 私、いそがしいのよ。あなたの相手をしているほど、ヒマじゃないのよ。」


 良作には、何が起きたのかまったく理解できなかった。


 ただ・・・これでまた、美絵子に会えるチャンスが失われたことを悟った。


 今度こそ・・・今度こそ、絶望的な状況になったと、彼自身も実感し、わけのわからぬまま、セツさん宅をあとにした。

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