第35章
良作は、大山少年の左肩にそっと自分の右手を優しく置いた。
・・・卒業式当日のあの日、迫り来る「魔物」に苦しむ良作の肩に、優しく手を差し伸べ、救ってくれた慈悲深い鈴木先生のように・・・。
振り返った大山少年の目には・・・おだやかに微笑む良作の姿が。
そう・・・あの日の鈴木先生のように。
ふたりは、しばし無言のまま、お互いを見つめあう・・・
(大山君・・・ひさしぶりだね。元気だったかい・・・? 俺もいろいろあったけど、君も大変だったよな。でも、こうして元気な姿でここに戻ってきてくれて、俺はうれしいよ。)
(高田さん、ありがとう・・・。僕は、もう大丈夫です。とてもつらかったけど・・・もう立ち直りましたから・・・。)
(そうか。よかった・・・。大山君もいろいろ苦労しちゃったよな・・・俺も、あれからつらいことがあってね・・・でも、なんとかがんばっているよ。でも、大山君。あのときは、苦しむ君を置いて、逃げだしちゃって、ごめんな・・・本当にごめんな。)
(いえ、いいんです。こんな僕を・・・こんなつまらない僕なんかを、そんなに気遣ってくれて、ありがとう・・・。僕は、そんな高田さんを、心から尊敬しています。だって、僕を一人前に扱ってくれたんですもの。僕にとってあなたは・・・大切な先輩であり、心からの友達なんです!)
(ありがとう・・・君の、そんな優しくてあたたかい言葉が、今の俺にとっては一番の治療薬なんだ。これからも、ずっと仲良くしような。ずっと・・・。)
(・・・はい!)
降りしきる雨の中、一瞬の静寂ののち・・・図書室には、また元のようなざわめきが戻る。
雨の日のいつものようなざわめきが・・・。
そこには、美絵子が「あの子」に託した「愛のバトン」と・・・そして、無言で交わす静かな・・・しかし熱い熱い、「男と男の友情」があった。




