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黄金の繭

作者: めん坊


 とある王国に男の子が生まれた


 ちょっと変わった男の子であった


 何が変わってるって?


 歯の形だ


 サメのようなギザギザの歯であった


 だから、男の子は恐れられた


 王族から恐れられた


 この子は将来、私たちを喰らうのではないかと…


 その結果、男の子は捨てられた


 妖精の森に捨てられた


 (妖精の森と言っても、もうずっと妖精は姿を見せてません)


 そこに、婦人が現れた


 まずまずの暮らしをしている50代半ばの女性であった


 彼女は男の子に食料を与えた


 飲み物を与えた


 そして、男の子はすくすく育った


 何か忘れていませんか?


 そうです、家です


 彼女は、男の子に家を作りました


 魔法の家をね


 「おーい、クローバー、元気かい?」


 「もちろん、元気さ。ナンシーは?」


 「私も元気だよ。ちょっと待ってな、毛糸を縫ってあげるよ」


 「いつも、ありがとう」


 ナンシーは毛糸を取り出した


 黄金の毛糸だ


 ナンシーはクローバーの家に近づいた


 毛糸の交換だ


 「ナンシー、いつも大変だね」


 「毛糸を変えないと、魔法が解けちゃうからね」


 「ありがとう」


 「こんなのわけないさ」


 マキマキマキマキ…


 マキマキマキマキ…


 マキマキマキマキ…


 「終わったよ」


 「ありがとう」


 「これで1ケ月は持つだろうね」


 「助かるよ」


 「どこかへ行きたいかい?」


 「うん、湖へ連れてってよ」


 「分かったよ」


 ナンシーは、魔法の杖を取り出した


 そして、軽く振った


 すると、ぼくの家は宙に浮いた


 黄金の輝きを放つ、ぼくの家


 ナンシーが作ってくれたんだ


 ナンシーは、黄金の繭と呼んでるよ


 「湖に着いたよ」


 「ありがとう」


 「家からの眺めはどうだい?」


 「うん、気持ちいい」


 「そうかい、よかったよ。食料を家にいれておくよ」


 「ありがとう」


 ぼくは食料を受け取った


 そして、黄金の繭の中でたいらげた


 美味しかった


 しかし、心は空っぽだった


 なんでだろう?


 「じゃあ、私はそろそろ帰るよ」


 「うん、ありがとう」


 ナンシーは森から立ち去った


 ぼくは、ひとりぼっちになった


 繭の中は、快適なはずなんだけどなぁ…


 「はぁ……」


 「もしも~し」


 「だれ?」


 気づくと物体は、繭の中にいた


 トンボのような羽が生えてる


 でも、人間みたい


 もしかして、森の妖精??


 「君は妖精?」


 「そうだよ、君をみかねて来ちゃったよ」


 「ぼくをみかねたの?」


 「だって、君は繭から一歩も出ないじゃないか」


 そう、ぼくは黄金の繭から出れなかった


 ナンシーが作った黄金の繭


 とっても快適だったんだ


 「君はそれでいいの?」


 「うん、快適だから」


 「心は辛くないかい?」


 「それは…」


 「自分の胸に手を当ててごらんよ」


 ぼくは胸に手を当てた


 ザワザワザワ…


 なにこの胸騒ぎ?


 ザワザワザワザワザワ…


 なにこの胸騒ぎ???


 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…


 何、この胸騒ぎ??????


 「なんか心が落ち着かないよ」


 「やっぱり、そうなんだよ」


 「どういうこと?」


 「君は大人になったんだ」


 「大人?」


 「あぁ、黄金の繭は大人になると、妙な胸騒ぎが起きるんだ」


 「でも、ぼくは子どもだよ」


 「君自身はそう思うだろうね。でも、黄金の繭は大人だと言っているよ」


 「そんな…」


 「ほどく時さ」


 「えっ?」


 「黄金の繭を、ほどく時が来たのさ」


 パチンッ


 森の妖精は、指パッチンした


 ホロホロホロホロ…


 黄金の繭はほどけていった


 ホロホロホロホロ…


 黄金の毛糸になった


 そして、黄金は黒ずんでいった


 だんだん黒ずんでいった


 もうかつての輝きを失っていた


 「寒いよぉ」


 「そうだろうね」


 「暗いよぉ」


 「そうだろうね」


 「怖いよぉ」


 「そうだろうね」


 「ナンシーを呼ばないと…」


 「ナンシーは、今寝ているよ」


 「そんな…」


 「どうするかは君が決めるんだ」


 森の妖精は立ち去った


 ぼくは取り残された


 湖に取り残された


 湖はぼくの顔を映した


 ギザギザの歯だ


 あの忌々しいギザギザの歯だ


 「イヤーーーーーーーーーーー」


 ぼくは泣き叫んだ


 しかし、だれも来ない


 サメの歯がぼくの心を喰らっていく


 もう捨てられたくない


 ザッザッザッ…


 クローバーは、走り始めた


 なぜ、走ったかは分からない


 しかし、走らないと気がおさまらなかった


 ザッザッザッ…


 クローバーは走った


 ザッザッザッ…


 クローバーは走った


 ザッザッザッ…


 クローバーは走った


 バタン…


 クローバーは何かにぶつかった


 そして、転んだ


 「だれ?」


 目の前にいたのは、可憐な女の子であった


 ピンクのワンピースを着ていた


 端正な顔立ちだ


 ぼくの顔とは、比較にならない


 「ぼくを見ないでくれる」


 「どうしてよ」


 「ぼくの歯はサメなんだ」


 「サメ?」


 「うん、サメのようにギザギザなんだ」


 「それがなんだっていうのよ?」


 「えっ…」


 「ギザギザの歯がなんなのよ?」


 「怖くないの?」


 「全然…」


 「どうして?」


 「だって君、弱っちくて可愛いもん」


 彼女は手を差し出した


 そして、ぼくを引っ張り上げた


 「私はエミー。あなたは?」


 「クローバー…」


 「クローバー、よろしく。夜遅いのに、こんなところで何してるの?」


 「住む家が無くて…」


 「じゃあ、あたしの家に泊まる?」


 「いいの?」


 「家が無い人をほっとけないじゃない」


 「ありがとう」


 「ちょうど、シチューを作っているから。一緒に食べましょう」


 「ありがとう」


 「ベッドは無いから床で寝てね」


 「助かるよ」


 エミーは歩きだした


 森の外へ歩き出した


 ぼくは着いて行った


 恐る恐る着いて行った


 ナンシーは寝ていた


 家でぐっすり寝ていた


 森の外にはどんな人がいるんだろう?


 森の外にはどんな場所があるんだろう?


 コホンッ


 小さな咳が聞こえた


 森の片隅から聞こえた


 アリにしか聞こえないような小さな咳


 だれの咳なんだろぉ?


 月は笑っていた


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