103.草原の目覚めでお仕事体験です! そのいち
「とまあ、そう言うことがあったのですよ、ユーリさん」
「……そうなのね。リーンちゃんもついに『草原の目覚め』までたどり着いたのね」
ドライフラウについた翌日、昨日あったことをユーリさんに報告です。
報告する義務はないのですが、アサカゼさんはユーリさんを知っているようですし、どの程度の知り合いなのか確認しておきたいですからね。
「それで、リーンちゃん、『草原の目覚め』で働いてみるの?」
「とりあえず、今日の夜、お試しで働くことになっているのですよ。細かいことは行ったときに説明してくれるそうなので」
「そう。……それにしても、アサカゼと面識ができるとはねぇ」
「それが聞きたかったのですよ。ユーリさん、アサカゼさんとはどういう知り合いなのです?」
「そうね……アサカゼとは前線で攻略をしたり、PvPをしたりしている頃からのライバルよ。彼女が支援型テイマーで、私が攻撃型テイマーだったからよく比較されてたわ。実際、PvPで戦う機会も多かったし」
ユーリさんやアサカゼさんがPvPですか、意外ですね。
「そうなのですね。いまだと想像がつかないんだよ」
「あの頃はヤンチャしてたからね。いまじゃお互いに支援系のギルドに収まっているのだけど」
なるほどです。
そう言うことでしたら、あまり詳しく聞かないほうがいいのでしょう。
PvPのコツとかちょっと気になるけど。
「そういえば、サーシャちゃんは一緒に行かないの?」
「サーシャは行かないのですよ。サーシャも誘ってはみたのですが、お客さんとしていくのはともかく店員さんは無理らしいんだよ」
「その気持ち、よくわかるわ」
ユーリさんがなんだか感慨深げに頷いてるんだよ。
そんなに接客が苦手なのですかね?
「それじゃあ、今日の夜は『草原の目覚め』で店員体験なのね」
「はい。その予定なのです」
「わかったわ。気をつける……ことはないと思うから、頑張ってきてね」
「はいなのですよ!」
さて、お昼の間にガイルさんから頼まれているポーションを納品しておきましょうか。
……それにしても、いまの新人さんはこのペースでポーションを使っていて大丈夫かな?
サポートが受けられなくなったら、ポーション代だけでも大赤字になりそうなんだよ。
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「いらっしゃい、リーンちゃん。今日はよろしくね」
「よろしくなんだよ、アサカゼさん。それで、なにをすればいいのかな?」
夜、約束の時間になって『草原の目覚め』を訪れたのです。
待っていてくれたアサカゼさんに話しかけると、奥の従業員用スペースに案内されたんだよ。
「まずはこの服に着替えてね、お店の制服だから」
「わかったんだよ。……はい、次はどうすればいいのです?」
渡された制服に着替えてしまい、次の指示をもらうことにします。
次にされたのは、このお店の業務形態の説明ですね。
「『草原の目覚め』は、カフェエリア・ショップエリア・ふれあいエリアの三つに分かれているわ。それで、リーンちゃんにお願いしたいのは、ふれあいエリアのお仕事よ」
「わかったのです。それで、具体的なお仕事の内容はどういう風になるのでしょう?」
「ええとね、ふれあいエリアは店員が契約しているパートナーとお客様が遊べるエリアになっているの。リーンちゃんはエクストラテイマーを経由しているから、一度にたくさんのパートナーたちも呼べるでしょう。それなら、ふれあいエリアでパートナーを呼んでもらえるのが一番かなと思って」
「わかったのです。呼ぶパートナーの指示はあるのですか?」
「そこは。ふれあいエリアの責任者から指示をもらってもらえるかしら。そのときそのときで状況が違うの」
「了解なのですよ。それでは、ふれあいエリアに行ってくるのです」
「責任者には説明済みだから、頑張ってね、リーンちゃん」
アサカゼさんと別行動になって、ふれあいエリアへと向かいます。
場所的には、カフェエリアとショップエリアの間ですね。
さて、店員さんは数名いますが責任者さんは誰でしょうね?
「……あなたがリーンさんかしら? 今日、ヘルプで来てくれたって言う」
「はい、そのリーンですよ。お姉さんがここの責任者さんですか?」
「ええ、私はセフィって言うの。よろしくね」
「よろしくなんだよ。それで、ボクはどうすればいいのかな?」
「そうね……呼べるパートナーを教えてもらえるかしら」
セフィさんのお願いですので、ボクが契約しているパートナーをすべて教えてあげたのです。
セフィさんはなんとなくですが驚いているようですね。
「……昨日、初めてドライフラウに着いたって聞いていたけど、パートナーの種類は思った以上に豊富ね」
「モフモフ王国がボクの夢ですからね」
「でも、それだけ呼べるなら大丈夫ね。まずは……」
セフィさんの指示でパートナーたちを次々呼び寄せていきます。
ご指名なのはグリフォンやファーラビットのようなありきたりなパートナーではなく、ちょっと珍しいタイプのパートナーたちですね。
「うん、これだけいれば完璧ね。あとは、人になれているかだけど……」
「乱暴に扱わなければ基本大丈夫なはずですよ。おそらく、抱っこくらいならできるはずなんだよ」
「……見知らぬ相手でも平気ってことは、愛情度で言うと九十超えなわけだけど。まあ、そこまで考えてこっちに回してくれたのよね、マスターは」
なにやらセフィさんは納得しているのですが、ボクにはわからないのでよしとしましょう。
そして、準備が整ったら、ボクのパートナーたちもふれあいエリアに開放です。
ふれあいエリアには、一般のプレイヤーがお金を払って入場する仕組みらしいのです。
そのときに、パートナーとふれあったりできるシステムのようですね。
もちろん、嫌がられなければ、ということですが。
さて、ボクのパートナーたちですが、早速めざといお客さんたちがロックオンしていますね。
特に、見た目からしてかわいい豆柴の豆太郎と、このスペースでは珍しい飛行タイプのセレナイトに人気が集まっているようです。
豆太郎は適度にお客さんたちとふれあって回っていますが、セレナイトはマイペースに止まり木に留まっていますね。
あれでいいのかセフィさんに聞いてみましたが、飛行系パートナーはあんな感じが多いらしいので気にしなくていいそうなのですよ。
さて、せっかくの店員体験ですし、もう少しふれあいエリアを楽しんでもらいましょう!





