一石、何鳥?
ようやく形になりました。
僕は微に入り細に亘り、いかに洸が素晴らしい弟であるか熱弁を振るいました。
料理、洗濯、掃除のお手伝いはもちろん、週一万円の食費を遣り繰りして浮かせて小遣いにする手腕(母公認)。
機微に聡く励まし上手、抱き締めれば癒し効果抜群!(僕限定?)
中学に入って、そこまでお手伝いしなくても良いよ?と言ったら、「だって一石三鳥じゃん。ボクが手伝えばキィちゃんは助かる、ボクは存在意義を実感できる、将来絶対に役に立つ。ね、三鳥でしょ?」などと悪戯っぽく笑ったのです!超カワイイ!!
今日など、「晩御飯、キィちゃんの好物ばっかの予定だから。あっ、勘違いしないでね!入学祝いにって養母さんから頼まれたから、作ってあげるんだからねっ!」とツンデレっていました!反抗期な洸も激カワユス!!はあはあ。
「というわけで、完成形ではないかも知れませんが、将来性は抜群です!」
全てを聞き終えた橙君は、なんだか疲れたような呆れを滲ませて、なははと笑いました。
「なんや、えらいブラコンやねー」
そ れ が な に か ?
あからさまに僕がムッとした顔をしたのか、彼の眉がますます下がります。
「あんま褒めちぎってばっかやと、天狗になってまうよー?」
「うちの子は大丈夫です!」
胸を張って言い切ると、大仰に顔をしかめました。
「うっわぁー、リアルモンペかいなー……」
「違います。各家庭には、色々な事情があるんですよ。家は家の方針で、家族一丸となって洸を溺愛しているんです」
確かに甘やかしている自覚はあります。
近頃は年相応にウザそうなそぶりを見せたりもします。
でも、未だ揺らぐときのある洸にはまだ必要だと、両親と僕の判断は一致しているのです。
そうですね。洸が就職して精神的にも経済的にも自立できたなら、僕達の手放しの誉め言葉など不要になるでしょう。その日が来るまで、僕達は洸の心を満たし続けるつもりです。
「……溺愛……一年振りに聞くと、キツいな」
「それはどういう意味かな?ちゃっかり座っている誠志郎君」
ボソリとした呟きを拾って、二度見男子の机に腰掛けた彼をギロリと睨みつけると、肩を竦めていなされました。
誠志郎の癖に生意気です。
僕の正面に居たはずの先輩は、誠志郎の後ろ、廊下側の壁に腕を組んで凭れていました。
橙君は着席したまま。
雅臣さんは一番後ろの席に座って、傍観者よろしく優雅に足を組んでいます。
そこまで視線を移動させて、違和感が……他に人影は無く、廊下もずいぶんと静かです。
あの女子たちは?
教室を見回した僕の無言の疑問に、答えてくれたのは先輩です。
「帰った」
な ん と !
「菜穂ちゃんと涼ちゃんも?」
「友井が迎えに」
「静琉っちが?」
「『ああ、いつものアレ?面白いけど、長くてうざいよね。帰ろ、帰ろ?』。それが呼び水になって、皆、帰宅した」
低音による口真似に、微苦笑を誘われます。
伝えてくれたことに軽く礼を言いながら、静琉っちらしいなと思いました。
彼女は涼ちゃんと従姉妹で、誕生日が近く外見が似ていることから幼い頃より双子のように育ったらしいのですが、今は意図的に似せて楽しんでいる、そんな女の子です。
泉を思わせる水色のストレートロングに、緑がかった薄青の瞳。顔のつくりは、双子と言われるだけあって涼ちゃんと同じ、涼やかなクールビューティー。魅力的な異性であろうとも身内や友人以外の他人はあくまで観察対象らしく、雅臣さんの公開プロポーズの際には感心したように「ほぅ」と呟くのみの剛の者です。
クールな外見に反して内心はチシャ猫のようにニヤニヤと笑う彼女を思い描いていたら、右側で誰かが身じろぐ気配を感じました。
目を向ければ、帰るタイミングを逃したのか所在なさげに立つ加藍君です。
自然に僕の口から転がり出る、謝罪の言葉。
「なんか、すみません」
「いえ……変な噂が立った時に証言できる人は多い方がいいかと思い、僕が勝手に残っているだけですから。それにしても、入学初日から女子達に騒がれたりして、大変ですね」
居ることを認識されてほっとしたのか、饒舌に同情の言葉を紡ぎ、レンズ越しの目元を緩ませます。
本当にエエ人や!
申し訳ないけど、そのご厚意に甘えさせて頂きます!!
ついでに橙君も帰る気がなさそうなので、巻き込まれてもらいますよ。
入れ物と人はある物使え、です。
感激もお礼もそこそこに加藍君にも着席を促し、僕は意図的に口の端だけを吊り上げる悪役笑顔を作ります。
そして教室内に残った面々を見渡し、こう宣言しました。
「じゃあ、この面子のまま釈明を聞こうじゃないですか」
三者の主張を要約すると……
とある人の発案で、合同勉強会を解散させた僕へのちょっとした意趣返しとして、高校の入学式にサプライズを仕掛けることにした。
先鋒:誠志郎の進学先を秘密にし、新入生代表を務めて驚かす
→僕に隠し事はできないらしい誠志郎は、ネタバレ防止のため一切の接触を禁止
その間、入試満点の主席になるべく、ひたすら勉強に励む
中堅:悠馬先輩が生徒会長になったことを秘密にし、在校生代表として登場して驚かす
→忙しいことも相まって接触は最低限、結果ネタバレのリスクも減少
大将:雅臣さんの配属先の高校を秘密にし、担任紹介の時に驚かす
→ぶっちゃけ、配属先を伏せたのが最初の仕込みで、二人に話しを持ちかけ賛同を得た後、最後の仕上げとして担任になった
……とこのと。
まったく、馬っ鹿じゃないの?!
ってか誠志郎は、僕が進路変更していたら、どうするつもりだったのでしょう。
その辺も抜かりはなく、僕とこまめにメールでやり取りしていた共謀者、いや首謀者が近況を流していたそうで……いつの間に、そんなに仲良くなっていたのやら。
つーか、合同勉強会を解散させた意趣返しって……
まあ、お陰さまで高校の入学式は、驚愕しか記憶にございませんよ。
それで、解禁日に僕から誘いの言葉を貰い、意気揚々と馳せ参じたお犬様。
褒めてもらいたい一心でダッシュしてきたのに、他人行儀な対応をされて非常にご不満だった、と。
「誠志郎君の入試成績はオール満点。文句の付け所がない主席だよ」
学校関係者の補足を受けて、今は得意顔です。
はいはい、わかりました。
ヨクガンバッタネー。
でも、廊下を走っちゃあ、台無しですよー。
おざなりに褒めて釘刺して、次は先輩。
二年になったばかりの彼が、すでに生徒会長という事は……
「一年の後期に立候補した」
ですよねー。
それで当選するなんて、ぱないのう!
入試で満点の主席に一年生で生徒会長って、二人ともまるで少女マンガのヒーローみたいですねっ。
2015.2.26 一部変更「賞賛されるべく」→「意気揚々と」
2015.3.15 一部加筆




