表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化&コミカライズ進行中】私、愛されていますので  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/60

50. 祈りとは


 異様な静寂が訪れた。レティは殿下の瞼を手でそっと閉じさせて、顔を上げる。


「ねぇ、セリア。この子を連れて逃げて」

「え?」


 金目のものを奪ってこいと、彼は指示されたのだ。子供なのに、子供だからと。それは飢えきった村にとって決死の決断でもあった。


「王族を殺した彼は、きっと処刑される。けれど、子供を殺すほど、この世に悪いことはないわ」


 ただただ低い声で、若いメイドに指示を出す。オベール領のサラのところまで連れていくこと。彼に途中で食べ物を与えてあげること。大丈夫、全ては自分の指示で、何があっても守るからと。


「私は、ここから動けないから」


 そうしてメイドが男の子を連れて走っていったのを確認した。


 物言わぬ殿下を膝の上に乗せて、レティは祈った。きつく手を組み、ひたすらに祈る。

 従者たちは、レティが壊れたのだと思った。


 魔法学が普及し、生まれながらに得意属性は決められていることが通説となり、多くの人は忘れていた。


 祈りこそが光属性の魔力源であるという、純粋な原理を。

 レティの母は戦時中誰よりも無事を祈り、子爵令嬢が聖女と呼ばれるほどにまでなった。

 レティは、今までどれだけの国民の幸せを祈ってきただろうか。

 民が幸せであるように。友が幸せであるように。幸せにできますように。

 英雄譲りの大きな器に、彼女の祈りは蓄積されていた。そして今、殿下への祈りで、全てが解放される。


「どうか、殿下を助けられますように」


 魔法は自然の力を借りる行為。今までで一番強く、原初的で、また理を変える魔法だった。


「どうか……」


 桁違いの魔力が発せられる。白くて眩いその光に、従者たちは目の前が見えなくなった。隣の者の顔も見えない、白い空間。今まで何度も助けてもらってきたその強大な力に怯え、腰が抜ける。場所も、時も、何もかもがわからなくなる。その姿は、神への畏敬に似ていた。





『人の身で来てしまったのかい、愛し子よ』


 レティは気がつくと、真っ白い空間に一人立っていた。目の前には大きな何かがいる。人の形をしているのに色がなく、男か女かもわからず、長い髪を垂らして、ただそこに在る。


『愛し子?』

『ラエティティア、君のことさ』

『私?』

『そう。ワタシの作った特異点を、導く存在』


 神は語った。人とは、ここで魂が生まれ、ここに帰ってくるのだと。人として生きると魂がすり減り、同じくすり減った魂と融合したり、はたまた分裂してしまったり。また新しい魂が生まれる。


『あの子はあまりにも大きくて、欠陥のあるままに送り出してしまった』


 世界が続くように、神は時代を進ませる特異点を作らなければならない。


『他の子達もね、なぜかこの時代に集中してしまって、困っていたんだ』


 オベール家の皆やルネでさえ、もう十分に特異点の基準だったというのに。


『そこで現れたのが君だ。君は凄く純度が高かった。数千年振りの、まっさらな魂だ』


 大きな手で指を差される。白い空間には、よく見ると無数の光の粒があった。濁っていたり、色がついていたり、その中でもレティは一際真っ白く輝いていた。


『だからワタシは君を愛しみ、力を与えた。しかし……どうやら、ワタシは間違えたようだね』


 神が虚空を見る。レティには何も見えないが、そこから現世が覗けるのだろう。苦しくて、レティは胸元を握りしめた。


『私、殿下を生き返らせてほしいの』


 叫び出すように乞い願う。神はその長いまつ毛を伏せ、何もなかったはずの瞳に不思議な虹彩を宿す。


『すでに死んだ存在をかい? 傲慢だね』

『傲慢でも構わないの。生き返るなら、もうなんでもいい』


 レティは必死だった。だが、神の余裕は崩せない。


『駄目だよ。君はたくさんの人を愛している。誰かが死ぬたびにそんなことをされては、困るんだよ』


 生き物は皆いつか死ぬ。生死というのは神でさえ、あまり触れてはいけない理だ。神からすれば、戻ってくるのが早いか遅いかの違い。

 殺しを別として、レティも寿命には逆らわないはずだった。


『……きっと、殿下でなければここまでおかしくならないわ』

『どうして?』


『だって、ずっと一緒にいたのよ。友達でも、家族でもなくて、でもこれからも、ずっと一緒にいるはずだったの』


 涙がポロポロと溢れる。白い空間に、波紋が起こって、消えて。濁った光の粒が浄化されていく。

 人の子レティシア。強い力を持ちすぎてしまったラエティティア。


『等価交換だよ』


 神はそう伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ