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26話 特殊個体の巣へ


 ずきんなしのレイチェルが魔王を倒したとの一報が入った数日前、レイチェルとティルの二人はシャンティに呼び出しを受けていた。


 一年前のスロポス襲撃の後、ジャンとシャンティはハンター頭巾を引退した。ジャンが片腕を失なった事でハンター頭巾を続けられなくなったからだ。

 そんな二人はハンター頭巾を引退した後、レベッカからの要請でレイチェルとティルのサポートする事になった。


 ハンター頭巾のサポートというのは、ハンター頭巾の代わりに依頼料の交渉をしたり、下調べをしたりと意外と色々と仕事が多い。

 レベッカの様なベテランハンター頭巾であっても、サポートは別に雇っている事が多い。


 ジャン達の場合、自分達が長くハンター頭巾をやっていて、なおかつ自分達でサポート役もやっていたので、ある意味天職ともいえた。


「通信のシャンティさん、報告では少し興奮気味だったけど、何かいい事があったのかな?」

「九星が見つかった……とか?」

「うーん。

 グローアさんでも見つけられないのに、シャンティさんが見つけられるのかなぁ……」


 ティルはこう言うが、別にシャンティの事を馬鹿にしているわけではなく、積極的に九星を探している灰頭巾グローアと違い、シャンティは二人の事を考え仕事を入れてきているので見つけられなくて仕方がないと思っていたからだ。

 二人は名が売れているとはいえ、あくまでまだ新人というのと、シャンティ自身も二人をあまり危険な目に遭わせたくないと思っているというのもある。


 二人は拠点にしているレベッカ宅の別邸に戻る。拠点に戻るとジャンが二人を出迎えてくれた。


「今回も怪我をしていないな。

 シャンティが奥の部屋で待っている。何やら機嫌がいいが、何かいい仕事を見つけてきたみたいだぞ」

「あれ?

 ジャンさんはどんな仕事か知らないの?」

「あぁ、今回は別のハンター頭巾の仕事を斡旋していて、俺自身、さっき帰ってきたからな」

「そうなんだ。

 他のハンター頭巾って誰?」

「あはは。まだ、名もないハンター頭巾だよ。

 ああいった奴等は、名を売る為に無理な仕事を受けようとするからな……。ハンター頭巾協会からの依頼だよ」


 ジャンはハンター頭巾協会からの信頼も厚いので、協会から間に入るよう依頼を受ける事もあるのだ。それに比べ、シャンティはレイチェル達の仕事で結構強引な交渉をするので協会からの依頼はほぼない。



「さて、今回の依頼は危険もあるけど九星に近づくかもしれない依頼よ!」

「九星に?」


 九星という言葉を聞いて反応したのはレイチェルだ。しかし、ティルがそんなレイチェルを止める。


「少し前にグローアさんに会った時に、九星の痕跡が全く見つからないと言っていたけど、シャンティさんがどうやって見つけたんですか?」

「ティルちゃんは、相変わらず辛辣ねぇ……。

 確かに九星が現れたという情報は入っていないわ。だけど今回の依頼は九星につながっている様に見えてしまうのよ」


 シャンティは一枚の依頼書をティルに渡す。そこには【特殊個体の巣発見、殲滅せよ】と書かれていた。


「これは?」

「書いてある通り、特殊個体の巣が見つかったそうよ。

 ただ、その中に言葉を話す特殊個体がいるとは限らないし、九星がいるとも限らない。

 でも、特殊個体が群れを成しているなんて今まで聞いた事はない。もしかしたら、九星がいるかもしれないと思ったわけ」

「でも、特殊個体が群れを成しているのなら、それって大規模な狩りになるはずでは?」


 ティルがそう言うのは尤もだ。

 特殊個体は元々危険な強さを持つオオカミだ。それが群れを成している以上、一組のハンター頭巾だけでは手に余ってしまう。それなのに、個人で依頼を受けられるのかと疑問に思ったのだ。


「今回は殲滅と書かれているけど斥候のようなモノよ。

 二人の強さを知っている私としては、充分に殲滅できると思うけどあくまで建前は斥候という事になっているのよ。

 潰せるなら潰せばいいし、無理だと思ったら元々の予定通り他のハンター頭巾達を利用して潰せばいいだけよ」

「まぁ、そういう事なら……」


 ティルがそういう前に、レイチェルが依頼書を受け取っていた。


「協会に出発の報告必要?」

「いえ、いらないわ。

 あくまで斥候だし、今は誰もこの依頼を知らないからね。

 だけど、出来れば早めにって……レイチェルちゃんの顔を見れば今すぐにでも出発と言いそうね」


 レイチェルは相変わらずの無表情なのだが、一年間一緒にいるティルやシャンティにはレイチェルの感情を読めるようになっていた。


「はぁ……。

 依頼から帰ってきたばかりだけど、レイチェルが行きたがっているから、このまま出発するね」


 ティルは溜息を吐きつつ、依頼書に書かれている場所を確認する。レイチェルは方向音痴なところがあるので、ティルがいないと目的地までたどり着く事が出来ないのだ。


「うーん。

 これなら、馬車よりもゲートで行った方が日数を節約できるかな……。シャンティさん、ゲートの使用許可は取れる?」

「問題ないわよ。

 この依頼を受けると同時にゲートの使用許可も出ているからね」


 ゲートというのはハンター頭巾協会と王国が管理している転送装置である。しかし、これを使うには教会の支部長や王族の許可が必要で、一般的にはあまり使用されない。

 今回の依頼は斥候という事もあり、使用許可が下りていたのだ。


 レイチェルは行く気が満々な様で、席を立つ。そんな姿をシャンティとティルは呆れた顔で見ていた。


「二人供、無理はしちゃダメよ。貴女達が死んだら悲しむ人が多いんだからね。

 気を付けるのよ」


 シャンティはにこりと微笑み、二人に肩を抱く。


「「行ってきます」」

「行ってらっしゃい」


 二人はゲートのある協会支部に向かって歩き出した。

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