天夢編入でライバルを増やそう(5日目)
あの後。
天夢高校の校長は未成年者略取罪及び監禁罪で見事お縄についた。当然、天夢高校の弱みを握った君恋高校の校長はほっくほくで、私たちに労いの電話をしてきた。
こめちゃんは警察の事情聴取を受け、それにはずっと会長が付き添っていた。
こめちゃんは悪徳校長に呼び出されて、今回の天夢高校と君恋高校の戦いで天夢高校が負けるようなことがないよう、私たちを説得するように言われたらしい。それを頑として跳ね除け校長の手を振り払ったときに、校長のカバンに入っていた書類を散らばしてしまったのだそうだ。それを慌てて拾っていてどうも内容がおかしいということに気づいたこめちゃんは、その後の記憶がないのだという。殴られたりといった外傷はなかったようなので、おそらく薬をかがされたんだろう。私たちに話すその最中もずーっと会長が付き添い、隙あらば抱きしめていた。
こめちゃんは念のために病院に行くことになった。
今は、保健室にいる。
病院には四季先生が送ってくれるとのことで、車を取ってくるそうだ。
空石雹がこめちゃんに歩み寄り、頭を下げた。
「悪い。お前が、この勝負の分が悪いから雲隠れしたもんだと疑っちまった。」
「そう疑われても、仕方ないです。私、勝負に参加してませんでしたし…。」
それを聞いた会長はこめちゃんを遮り、涼やかな顔で空石雹をにらみつけてから口を開く。
「こんな学校制度に疑問も持たずにのさばっているなんてね。私はあなたを社会的に消してやりたいくらいですよ。」
会長、恐ろしすぎます!
「春先輩、そんな風に言わないであげてください。彼のおかげで助かったんです。」
「ええ。あなたのおかげであの場所が分かったと聞きました。今回はそれに免じて許してあげましょう。」
今回の勝負を始めた私たちの今後の命運はこめちゃんに握られていると言っても過言ではない!
それから、会長は私たち君恋の生徒会一年と、それから空石雹に鮫島結人くん、種村斉くんがいる前で二人の空間を作り出した。
「まいこさん、あなたを危険な目に遭わせてしまった私をどうか許してください。」
「そんな…春先輩のせいじゃないです。私がぼけっとしていたからこうなったんです。」
「いえ、今回のは例えあの相田さんでも、おそらく結末は同じだったでしょうから。」
どういう意味だ、激しく問いただしたい。
会長は、そっとこめちゃんを抱きしめると、愛おしそうな瞳で言った。
「まいこさん。愛しています。」
告った!!!こんなに人がいる中で!
「は、春先輩っ…み、みんながいる前でっ。」
「関係ありません。私は、あなたを公然と守れる立場が欲しい。恋人という立場が。今回のようなことがあったときに、あなたの元にすぐ駆けつけられる人間でありたい。あなたが今回のようなことに遭うことが私には耐えられないんです。それをどうにかして遮りたい。」
会長、そんな立場に立たなくても、十分こめちゃんに降りかかる災厄を自力で公然と妨害してらっしゃいますよ?
とは言えない。今そんなことを言って遮ったら、人生の終わりだ!
「あなたのその小さな手足も、その愛らしい瞳も、その純粋な心も全て私が守りたいのです。それを、許してはくださいませんか?」
あっ甘い―――!胸やけしそうだ!!
ケーキを一気に3個くらい食べたときの気分と同じになる。
これが攻略対象者様の全力の口説きというわけですね、ぐっ。さすが、乙女ゲーム!
「春先輩…私こそ。わ、私、先輩のこと、大好きなんですっ、そのっ、愛してます!」
こめちゃんもだ――――!
会長はそれを聞いて、とろけるような微笑みを浮かべて、万感の思いを込めてこめちゃんに
キスした。
しやがった!!!!健全な男子6人、女子1人、計7名の青少年がいる前で!
みんなの前でやることではないですっ会長!ディープはダメですってば!
だが今邪魔したら、間違いなく、末代まで祟られるだろう。
私は勇者ではない。
向こうでは立ったまま俊くんが気を失っていた。
秋斗と冬馬くんが頬を染め、さりげなく視線を逸らしている。
天夢の三人は唖然としてそれを凝視してしまっている。
刺激の強いものを。うちの会長が申し訳ない。
それからしばらくして、空気を読めない四季先生が「お待たせしましたー増井さん…うわっ!!」と言ったことにより正気に返ったこめちゃんは病院に運ばれていった。会長からは殺気が出ていた。先生、なーむー。
残された私たちは、とりあえず無言のまま外に出る。俊くんは冬馬くんに引きずられている。
校門のところでお別れだ。今日で特別編入は終わりなのだから。
「お世話になりました。」
私が頭を下げると、いや、と向こうが言って来る。
秋斗が空石雹に噛みつくように言う。
「勝負は!?当然、殴らせるんだろうな!」
「いや、でも結局僕たち引き分けだったし?」
と返す種村くん。
「俺たちのところは、俺が負けたな。バカにして悪かった。お前はすごいよ、未来の生徒会長。」
鮫島くんは正直に申告する。
「いや、こちらこそ。俺、こんなにできるやつらに囲まれたの初めてだったから、新鮮だったし、いい経験になった。また、是非一緒に勉強で張り合いたい。」
そう言って、握手する二人。
秋斗もしぶしぶ、といった顔で種村くんに言う。
「まぁ?俺も、お前は認めてやってもいいと思ってるよ。そいつは許せないけど。」
「ほんと?僕もそう言ってもらえると嬉しいな。結構楽しかったしね!へへっ。」
秋斗も新しい友達ができたみたいだ。
私は、空石雹に向かい合う。
「私たちは3限を放棄した。だから、私たちの負けよ。約束は守るわ。」
「女、お前、名前なんだっけ?」
「は?相田雪だけど?」
「雪、か。いい名前だな。」
は?
「俺、雹だから。そう呼べよ。ボス猿なんて不名誉な名前で呼ぶな。」
「えーっと、それが約束の履行ってことでいいわけ?」
「足りない。」
ぐいっと手で腰のあたりを引き寄せられて、ほっぺたに、ちゅっと。
「!?!?!?」
慌てて身を離そうとするも、がっちり押さえられている。
「俺は女は苦手だ。けど、さっきあのすっげー会長を見て、ああいうのなら女に触れるのも悪くないって思った。気持ち悪いって思わなかった。俺、お前なら触れるし、触っててなんか気分がいい。触り心地も悪くない。」
そう言って、間近で、そのアメジストの目を細める。
「お前さ、俺の女になれ。」
「はぁああああああ!?」
「ふっざけんな、お前、ゆきを放せ!」
「それは認められない!ほぼ引き分けだろ!?相田から離れろ!」
『おー雪、見事にフラグを回収したねぇ。イベント大成功おめでとう。』
家に帰ってご飯を食べた後、私は一人になってベッドで体育座りになった。
空石雹にキスされたほっぺに触れて考える。
違う。違った。
あの空石雹に抱きしめられたことも、ほっぺにキスされたことも、驚きはした。
だけど秋斗に抱きしめられたり、冬馬くんにおでこにキスされたりした時に感じた止まないドキドキはなかった。
今まで、私が二人に対してドキドキするようになったのは、相手が攻略対象者という超イケメンの同年齢男子で、それで向こうが明確に好意を寄せてくれているからだと思っていた。
だけど同じ条件の空石雹に同じことをされても、同じ反応にはならなかった。
「これは、どういうことなの…?」
私の中で何かが変わろうとしていた。
1組のカップルがようやくできました。これにて天夢編入編はおしまいです!新たな登場人物たちもこれから可愛がってもらえると嬉しいです。




