生徒会合宿に出発しよう
次の月曜日。
服オッケー、歯磨きオッケー、ケータイ充電器オッケー、貴重品オッケー。それから東堂先輩のジャージもオッケー。うん、全部入れたはずだ。
今日から4泊5日の生徒会合宿。これの表向きの目的は先輩方に一通りの仕事を教わることと生徒会役員の親睦を深めること。真の目的…というか設定の目的は海月春彦先輩つまり会長と主人公が絡む最初の機会を設けることにある。
普通は600人いる生徒から新生徒会メンバーが選ばれるので、お互いを知らない、そうするといきなり二学期からというのもやりにくかろうという理由で取り入れられたことになっている。
しかしそういう意味では、今年の新一年生は全員A組。かついつもから仲良くしている人たちなのでそこに関しては全く問題ないわけだし、主人公もいない。ゲーム補正でなくならないかと昨日の夜までケータイの緊急中止の連絡を期待したのだけど、無駄に夜更かししただけになった。
はぁ、4人もいる攻略対象者たちと1週間攻防しなきゃいけないなんて、考えただけで鬱だ。
そんなことを考えながら部屋をキャスター付きスーツケース通称コロコロを持って出ると
ブーっとライン音。
秋斗かな?秋斗とは待ち合わせて行くことになっている。
『雪ぃ〜今日から合宿だね( ^ω^ )ちゃんとあの時買った下着はいれた( ̄∀ ̄*)?合宿期間もボイス提供よろしく!録音機能ついてるから♡』
朝から未羽のふざけたラインだったので適当に見るだけでそのまま家を出る。
「おはよう、秋斗。」
「おはよ、ゆき!」
「あら、おはよう!雪ちゃんお久しぶりね!」
声をかけてきてくれたのは、歳が40を超えたはずなのに、ぱっと見ると30過ぎくらいにしか見えない色白ブロンドの美人。秋斗のお母さんだ。
「おはようございます。ご無沙汰してます。」
私はそう言ってにっこり笑う。
秋斗のお母さんは結構礼儀に厳しい方で、最初の礼儀作法が悪いとまず間違いなく嫌われてしまう。そして嫌われるととことん邪険にされてしまうので、大変だ。
彼女はゲームの秋斗個別ルートで出てくるそうなのだが、主人公の礼儀パラメーターというもので秋斗との好感度及びエンドに影響することになっている設定なんだとか。聞いたのはつい最近のことだけど。
ちなみに、私は。
「雪ちゃん、生徒会の合宿なんだってね?秋斗のことよろしくお願いね。」
「いいえ、私の方がお世話になってますから。」
「あら、本当に雪ちゃんはしっかりしてるわね。それにすごく美人さんになっちゃって。もう、秋斗、早く押さえとかないと雪ちゃん盗られちゃうわよ?今回のでもう既成事実を作っておいたら?」
うん、礼儀にうるさいなら、そういうことを息子に勧めるのはどうかと思うんだ。主に情操教育上。
「おばさん、朝から刺激が強いです…。」
「あら、そうお?向こうではそんなにおかしくないけどねぇ。」
「ここは日本ですもん。」
「それより、将来雪ちゃんにちゃんとお義母さんって言ってもらいたいわーうまくやんなさいね!秋斗!」
「母さん、何言ってんの!俺はゆきを大事にしたいの!」
「そんな悠長なことを言ってると盗られちゃうのよ?」
はははは。私は秋斗のものではないので、盗るという表現は間違ってますよ、おばさん。
とにかく、とっても気に入られていることはお分かりだろう。これは悪役だからなの?こんなに攻略対象者の母親に気に入られてる悪役っていていいの?
頑張ってね〜!と手を振るおばさんに見送られて私たちは駅に向かう。
何を、頑張るんですか?
地元駅から電車に乗り、新幹線の駅に向かう。新幹線から在来線に乗り換えて向こうの駅に着くと、お迎えの車が来ることになっている。
「雪ちゃ〜ん!」
「こめちゃん!」
小さい体でピョンピョン跳んで両手を頭の上で降っているこめちゃんの側には3つのコロコロがある。
「あ、来た来た!」
俊くんと上林くんの手にはお茶のペットボトルがあるから、どうやら買ってくれていたらしい。
「はい、雪さんの分。」
「ありがとう!」
「よし、じゃあ乗るか。」
「場所、確か、禁煙席12号車の4のABCと5のABだったよね?」
「そうだよ、席回すから俊、そこどいて?」
秋斗が席を回し、向かい合う形で座ると、新幹線は駅を離れ、窓の外に見えていたホームがあっという間に見えなくなった。
朝から色々あったけど、ようやく合宿の始まりです。
生徒会合宿編スタートです!




